31.再来
「はあ!? あんたも降りるっての!?」
インヴィディアの帰宅後、開口一番に挙げられたものは、怒声だった。
セリアとの『ゲーム』で、アイリスを狙わないと約束したインヴィディア。
ゲームを嗜む彼女は、ルールや約束事にはとことん従っておこなう。
「だって、ゲームだよ? あの学院最強がボクとゲームって……これで勝てばボクが上なんだよ。ふふふっ……ココロ踊るよ」
ニヤニヤと不適な笑みを浮かべるインヴィディア。
言い出したら聞かない性格は、イラもよくわかっている。
あきらめて、次の作戦に出ることとした。
「アヴァリティア、ピグリティア、残っているのはアタシたちだけ。三人でセリア・リーフを叩きのめして、王女を始末する」
「ですが、勝算はあるのですか? わたくしたちの《言霊》は割れており、『影縫い』すらも知られております」
「あー、確かにそだね。で、どうすんのさ、イラ」
「三人寄れば文殊の知恵って言うでしょ? 三人いれば大丈夫なのよ」
「なにさ、その理論は……」
イラの突飛な発言に、アヴァリティアは呆れながら返した。
そんなものは気にしていないとばかりに机を叩き、グッと拳を突き上げると、声高らかに宣言する。
「アタシたちで、学院最強を潰すわよ!」
◇
昨日で、《七色の大罪》メンバーの内、四人を説得し、アイリスを狙わないと約束させることができた。
話のわかる人たちで助かりました。
「さすがセリアさん、平和的解決ですね!」
「ふふっ、そうでしょう? 平和の伝道師と呼んでもいいですよ」
「平和の伝道師……! カッコいいです!」
目をキラキラと輝かせ、こちらに視線を向けるアイリス。
適当なこと言ってしまったので、心が痛くなり始めました。いや、これは萌え……?
ひとまずは四人を落としたとはいえ、残りは三人。
とはいえ、あちらも焦り始めている頃合いでしょう。
「あんた、またこっちの人員を減らす気?」
廊下の先で待ち構えていたのは、イラ、ピグリティア、アヴァリティアの三人。うちの制服を着ているあたり、騒ぎになりにくいよう配慮しているのが見える。
噂をすればなんとやらというやつですか。
まさか、三人で来るとは思っていませんでしたけど。
「この学院の強化ガラスは……なるほど、《天変地異》ですか」
あらゆるものを破壊する能力であれば、強化ガラスなんて、普通のガラスと変わらないですからね。
「こっちは焦ってんのよ。それなのに、ポンポン減らしてくれちゃってさ……、いい迷惑なのよ」
「いい迷惑ですか。いいことをするのは気持ちがいいですね」
「なにをふざけたこと言ってるのよ! いい迷惑って、グッドじゃなくて皮肉よ!」
「あはは、そんなことはわかってますよ。本当にイラは可愛いですね」
私が何気なく言うと、ピグリティアはふっと息を漏らし、ドヤッと満足げな顔をする。
「そうでしょう、イラ様は可愛いのです。それなのに、自分に自信がないようで、わたくしのアプローチに応えてくれないのです」
うわっ、すごい話し始めた。
推しについて語るオタク並みの早口。私もアイリスの話をするとき、こんな感じなんでしょうか……
「いや、自信がないからとかじゃなくて、あなたと結婚する気はないからね?」
「ほら、こんなに照れてしまって……」
「アイリスもそうなんですよね。いつも、はぐらかされてしまって」
「別に、わたしもはぐらかしてなんて……」
なんですか、アイリスとイラの二人して……
ほら、もっと正直になれよ。俺たちのこと、好きなんだろ?
「「これだから受けは……」」
私とピグリティアの声が重なる。
それに反論するように、アイリスとイラが声を挙げる。
「わたし、受けなんですか?」
「アタシは受けじゃないわよ?」
その声を聞き届けると、居ずまいが悪そうに、アヴァリティアが問うてくる。
「あのさ……、話終わった? ウチ、完全に空気じゃん……。忘れられてるよね?」
これは申し訳ないことをしました。
でも、空気は人にとって大切ですからね。うん、だから……忘れてないですよ? ……うん。
影ながらっていうのも時にはいいものですしね?
「ハハハ、ソンナワケナイデショウ? 覚えてますよ、ええ」
「いや、カタコトじゃん! 普通に忘れられてるし!」
「隅っこにいて話さないのが悪いんでしょう?」
「なんか逆ギレされた! イラ、あいつ理不尽だよ!」
「なによ、アタシ知らないわよ……」
少し面倒くさがりながら返すイラ。
こほんと咳払いをすると、改めて本題を話し始める。
「インヴィディアがヘンなゲーム持ってくるから面倒なことに……。そこで、あんたを徹底的に潰すために、三人で来たわけよ」
「面倒と言いつつも受けるあたり、真面目ですね。あっ、そうだ、あなたたちのせいで制服を買い換えるハメになったんですからね!」
「ち、違うわよ! 初めに雇ったやつらも使えなかったし、メンバーも一人で向かわせると負けるからよ! それと、制服に関してはインヴィディアに言ってちょうだい!」
なんですか、責任放棄ですか。
しかし、初めに雇った人……、ああ、もしかして裏路地の四人ですか。なるほど、《七色の大罪》が雇った人たちでしたか。
確か、一人は騎士団に引き渡したはずですし……。あとの三人はどうしているのでしょう?
「雇った人で、あとの三人はどうしました? まさかクビですか?」
「ええ、そうよ。でも、あんたの考えてるクビとは違うと思うけど」
「イラ様の言うクビというのは――」
ピグリティアは親指を立て、首の前へと持ってくると、横へ一閃した。
それが示すのは、もうわかりきっている。
「首だけにするという意味です。そこをご理解ください」
「やはり、斬首したというわけですか」
暗殺を生業としているため、当然といえば当然のクビの切り方……首の斬り方ではありますが。
「それで、今からあんたをこの世からクビにさせてもらうから」
「そうしたいなら、インヴィディアでも連れてくることですね」
「大丈夫よ、ピグリティアがいればね」
ピグリティア? 『影縫い』……いや、《意気沮喪》でしょうか。
まさか、生きる気力をなくすつもりですか……?
さすがにそれは対処できませんよ。私だって、《馬耳東風》を持っている身。自殺となれば、《空前絶後》は発揮されない。
それに、場合によっては《起死回生》は発動しない。
前回は戦うことが目的でないために、意識だけを失わせて帰ったわけですか……
彼女たちに生かされ、今まさに殺されようとしている。
私の命は《七色の大罪》に握られていた……? ずっと泳がされていたと言われても不思議でない状況。
どうしてか、本来の標的であるアイリスではなく、私が狙われている。
……いや、待ってくださいよ?
「そもそも、なぜアイリスなのですか? 現在国王であるお父様のほうを狙うのでは?」
「ああ、それなら、アタシたちがアリア・ラングエイジを始末したのちに、本人が『他の女性と関わるつもりはない』って語ってるの」
アリア・ラングエイジを始末……? お母様を殺したのも《七色の大罪》だと言うのですか? それに、なんの答えにもなっていない。
「だから、キルシア・ラングエイジは子供を作ることはない。それなら、王族の血筋を受け継がせる可能性のある、王女、アリシア・ラングエイジを狙えばいい」
《七色の大罪》の目的は「王族の血筋を絶やすこと」?
それになんの目的が……。考えられるのは、《ラングエイジ》の支配ですが、それならばたった七人に任せることはないでしょう。
他に考えられること……。まさか――――




