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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第一章 《王女護衛》編
31/98

30.逆転

 ――まるで、この世界に来たときの感覚。

 暗い中で、ふよふよと漂い、意識だけがはっきりしている状態。私、どうなったんでしたっけ……

 ……そうだ、またもや死んじゃったんでした。

 アイリスは無事でしょうか。なんとか、なんとか戻れないのでしょうか。

 わずかでいい。今回だけでいい。どうにか、私にチャンスを――!

 暗い意識の中、うっすら浮かび上がる一粒の光。

 これがなにを意味しているのかはわかりませんが、なにかの希望であるならと、手繰たぐり寄せ、掴み取る。

 はっきりとしていた意識が、さらに明瞭なものとなる。

 これが、私に与えられたチャンス……?

 それならば、私がすることは一つ。

 ――さあ、逆転の時間です。


 

     ◇

 


「よし、これでセリアはいなくなった。あとはキミだけだよ、アリシア。ボクが王女暗殺を成功させるとはね」

「セリアさん……、嘘ですよね? いつもみたいに、わたしを驚かせようとしてるんですよね……?」

「そんなことないさ、彼女は本当に死んだ。もうキミに希望は――」

「――さすがはアイリス、私のことをよくわかっていますね」



 アイリスに向かって振り上げられた腕を掴むと、目を見開くインヴィディア。

 イラのときもそうですが、こんな登場の仕方が多くなりつつある……。代名詞とかにされないですよね?



「は……? そんなはずは……、さっきは確実に心臓に当てたのに……!」



 先ほどから、身体の中でわだかまっている、線が繋がって、そこに電気が流れる感覚。

 なにか覚えがあると思えば、《言霊》を使用したときの感覚と同じ。



「どうして、と問われれば、わからないとしか答えようがないのですが、おそらく《起死回生きしかいせい》が発動したのでしょう」



 《起死回生》、死にかかった人を生き返らせること。

 この能力は、死に瀕した際に意識がある場合、自動で発動する能力。即死であれば、使用は不可能。

 他者への使用も可能なのですが、その際は、相手の意識がある間に意図的に使用せねばなりません。



「そんなことまでできるのか……! ああ、さらに妬ましい!」

「隣の芝は青く見えるというもの。あなたの芝も、実は青いのではないですか?」

「……どれだけ青くても、隣が金や虹色に見えちゃ、かすんで見えるでしょっ!」



 怒りに任せて剣を振るインヴィディア。

 それを、バックステップで回避する。

 戦闘にも慣れたものですね。……慣れていいものかはともかく。

 ここで、数日前に用意しておいたものを取り出す。



「門を開け――《出没自在しゅつぼつじざい》」



 《出没自在》、自由に現れたり、隠れたりすること。

 任意の別空間へと、門を開き繋げる能力。ドーナツだって持ってこられます。

 ここで取り出したものは、《創意工夫》で作り出した、使いやすさ満点の長剣。

 一定時間で消滅する《創意工夫》での生成物。これを保つ方法として見つけたのが、いつまでも変わらないことを表す、《永久不変》。

 ものの形状を、永久に変わらない状態で保つようにできる能力。

 これにより、最高硬度、超軽量、私好みのデザインの剣を作成することに成功。絶対に壊れない……はずです。



「くっ……もしかして、《馬耳東風ばじとうふう》の特性を理解して戦ってる?」

「もちろんです。ですから、剣を使用しているのですよ」



 《馬耳東風》、人の意見や批評を気にも留めずに聞き流すこと。

 この能力は、なにごとも受け流し、無視してしまうというもの。しかし、概念的なものに限りますが。

 先ほどの《可惜身命あたらしんみょう》と《空前絶後》を無視したのもこのためです。

 現在戦闘をおこなえているのは、剣が概念的ではなく、ここに存在する物質だから。



「初めは、どうして《言霊》が効果を発揮しないのかと疑問でした。しかし、私の死の間際にネタバレしてくれたのは助かりましたよ」

「なるほどね、ボクがやらかしちゃったわけだ。人が羨ましいばかりに、優位に立つとボロを出すクセは直さないと」

「まあ、今回はそれに助けられたわけですが」



 例のボロを出したのが、まだ意識のあるときでよかったですよ。

 そうでなければ、この状況でも、彼女の《言霊》がなにかを知らずに戦うこととなっていた。

 そのために一度死んでいるのでラッキー……というのは正しいかはわかりませんが、僥倖ぎょうこうではありました。

 剣撃による鍔迫つばぜり合いは、さながら時代劇。

 火花が散るのではと思うほど、ギリギリとこすれる音が耳に響く。



「あなた、かなりの実力がおありですね」

「あー、そうなのかな? イラにはよく言われるけどさ、正直なところ自分ではわかんないからさ」



 確実に彼女は実力者。

 この鍔迫り合いで、私は剣を両手で押さえているのに対し、インヴィディアは片手で対抗してきている。



「このままでは……、――《一騎当千》!」

「それは無駄だよ。さすがにこれは知らないかな? ――《馬耳東風》は、パワーアップすらも無効化するって」



 なるほど、それで、《一騎当千》を使っても戦況が変わらなかったわけですか。

 パワーアップも、言ってしまえば概念的なもの。納得です。



「であれば、手数を増やすのみ。――《粗製濫造そせいらんぞう》」



 《粗製濫造》、質の悪い品をむやみにたくさん作り出すこと。

 これはいわゆる『複製能力』。どんなものでも複製可能なのですが、その反面、元となるものより質は落ちる、『模倣能力』と言ったほうが正確かもしれませんね。



「はっ、やあっ――!」

「くっ、二刀流とはめんどうだ。すぐに終わらさせてもらうよ……!」



 言うと、インヴィディアは剣を大きく振り上げ、勢いよく振り下ろす。



「――《暗箭傷人あんせんしょうじん》!」



 逃げ込んだこの場所は裏路地、であるならば。――影はいくらでも存在する。それこそ、人一人が容易に移動できるほどに。



「まだなにかあるの!? ……どこまでボクをコケにすれば気が済むんだ!」



 別に、コケにしたつもりはありませんが……。本当に嫉妬心がすごいですね。



「――もらいました」



 背後に出た私は、腕を取り、うつ伏せの状態で地面に押し倒す。

 強く押し倒したせいか、悔しさからか。インヴィディアはうめき声を挙げる。



「このっ! 離してよ……!」

「ダメですよ。離したら、また暴れるじゃないですか。大人しくしてください。――《手枷足枷てかせあしかせ》」



 地面から伸びる鎖が、インヴィディアの手足を拘束し、動きを止める。

 《手枷足枷》、行動の自由を束縛するもの。

 なにものでも破壊できない強度を誇る鎖によって、相手を拘束するもの。

 拘束の仕方によっては、なんだかえっちに見える能力です。これをアイリスに……ふふっ、妄想が捗りますね!



「なんで邪魔ばかりするのさ……! ボクはただ、任務を遂行したいだけなのに!」

「私にも任務はあります。だからこそ邪魔しているのです。それと同時に、あなたたちをい道へと戻したいのです」

「……できると思ってんの? 悪に染まりきったボクたちを?」

「できます。いえ、やってみせます、必ずや。これは、私と《七色の大罪(モルトリア)》とのゲームです」



 やや強い口調で言うと、インヴィディアはふっと笑みを零す。



「それは面白いや。ボクもゲームは大好きだからね。じゃあ、受けて立つよ、そのゲーム。リーダーを改心させられたら、ボク共々《七色の大罪(モルトリア)》は解散。……そうだ、キミの騎士団ギルドにでも入れてよ」

「それなら、私が負ける条件がありませんが?」

「ああ、そうだった。なら、それより先に王女を始末したら、ボクたちの勝ちってことで」



 なるほど、フェアと言っていいかはわかりませんが、インヴィディアを押さえるにはこれしかないでしょう。

 大人しく引き下がってくれるのであれば、なにも言うことはありませんから。



「てことで、ボクはもう手を出さないから、あとはリーダーとドンパチやってよ」

「わかりました。イラにも、お待ちしていますとお伝えください」

「わかった。じゃ、これでゲーム三昧できるし、ボクは帰るよ」



 背を向けながら、ひらひらと手を振って歩き去るインヴィディア。

 なんだか、あっさり終わった気がします。一度死にかけましたけど。

 おそらく、次はリーダーであるイラがやって来るはず。

 ――いつでも相手になりますよ。

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