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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第一章 《王女護衛》編
27/98

26.暴食

「うぅ~……ぐすっ、うぇぇ~」



 アヴァリティアにすっかり絞られ、床にぺたんと座り込んで泣きじゃくるイラ。

 先ほどまで絞る側の立場だったピグリティアは、見かねて彼女の元へと歩み寄ると、肩へ手を回し頭を撫でる。



「よしよし、イラ様、泣き止んでください」

「ピグリティアぁ~……、ごめんなさいぃぃぃ~……」



 泣きじゃくるイラをピグリティアが優しく抱き留める様子は、さながら姉妹――親子というのが適切だろうか。周りからはそう見えてしまうだろう。



「いやぁ、悪かったってー。小一時間、反省点を挙げさせたのは、さすがにマズかった。子供にはつらいよね」

「子供じゃないわよ! アタシだって、立派な一九歳なの!」

「そうなの? じゃあ一つ年下じゃん。敬語使いなよ、敬語」

「えっ、あっ、はい……わかりました――って違う! アタシはリーダーなの!」



 ふんすと憤慨する様子は、子供そのもので、それを見て二人はホッコリとしている。

 そんな一家団欒とも思える空間に立ち入るのは、組織一の美貌を持つであろうルクスリア。



「あら、みんな帰ってたの?」

「ルクスリア、あんたこそどこに行ってたの?」

「いやぁ、グーラが絡んできちゃってぇ」

「は? グーラ!? あいつ帰ってきたの?」



 バッと顔を上げ、驚きの表情を見せるイラ。

 その表情を拝むかのように、ルクスリアの背後から姿を現すのは、くだんの少女、持席《暴食》:グーラだ。



「あ、イラっちじゃん、オッスー☆」

「オッスー☆ じゃないわよ! 今までなにしてたの?」

「あーし? 映えるものを探して三千里って感じ?」

「生えるもの? そんなもの、近所の園芸店でいいじゃない」

「いやいや、あのお店は映えないっしょ」

「いやいや、あのお店のものなら生えるわよ」



 どうにも話が噛み合っていない、イラとグーラ。

 なのだが奇跡的に、特段おかしな方向に、話が逸れていない。



「まぁいいや。で? なんか仕事してんの?」

「ええ、王女の暗殺……だったんだけど、ちょっと厄介なのがいてね、真っ正面から潰しに行ってもいいわよ」

「マ? じゃ、あーしが殺っちゃおうかな~」



 咥えていた棒キャンディーをピコピコと動かしながら、意気揚々と、スキップ気味に部屋から去っていった。

 


     ◇

 


「うーん……、まだ身体が痛いです……」



 痛いとは言っても、身体は普通に動きますし、本当に気持ち程度の痛みではあるのですが。



「でも、動けるまでに回復したみたいでよかったです」

「アイリスの看病のおかげですね。ありがとうございます」

「いえいえ、そんなことないです!」



 謙遜して、ブンブンと手を振りながら否定をする。

 彼女は、控えめなところは評価できますが、誇るときは誇ってもいいと思うんですよ。



「そんなことありますよ。自分がやったのだと胸を張りなさい」

「そう、ですかね? でも、セリアさんのほうが、わたしのことで大変じゃないですか……」



 やはり、この子は優しすぎるところがありますね。

 どうにも、『わたしは人に護られている』との認識を拭えないようです。

 彼女は、『なにかをしている人たち』のくくりの中で、さらに位付けをしてしまうきらいがあるらしく、その中でも最底辺に置いてしまっているのでしょう。

 自分のやっていることは、大したことではないと。

 看病というものは、相手に付きっきりのため、かなりの精神力を要します。それを嫌な顔一つせずに為すことは難しいでしょう。



「アイリスも頑張っているじゃないですか。自分が狙われていても、こんなに元気で。普通なら、恐怖から精神が崩れ始めるというのに」

「頑張ってる……、えへへ、セリアさんがいれば大丈夫なんだって思うと、元気が出るんですよ」



 にぱっと笑顔をこちらへと向ける。

 お義父さん、お義母さん、この子ったら……いい子に育ってもう……

 などと感動していると、ガラガラと扉が開き、先生が入ってくる。

 私の前まで来ると、こちらを一瞥し、ひと言。



「おや、セリア・リーフ、一日で完治とは化けもの並みですね」

「それは褒めてるんですか?」

「ええ、褒めてますよ。テストで一〇〇点を取った子供を褒めているときの、五倍はありますよ……マイナスですけど」



 最後にボソッと言ったの、聞こえてますよ。

 やっぱり貶してたんじゃないですか……



「ですが、治ってよかったと思っているのは本当ですよ」

「あっ、そうですか……、ありがとうございます……」



 あの先生に心配されていたと思うと、なんだかうれしいような、気恥ずかしいような、不思議な気持ちになりますね。

 先生にも、人を心配するような人の心があったとは……!

 感慨に耽っていると、またもやガラガラと扉が開く。

 それと同時にざわめく教室。



「おや、遅刻ですか? それなら――」



 扉を見やった先生が、ハッと息を呑む。言葉を呑んだと言ったほうが適切だろうか。

 目を見開き、驚きを隠せないどころか、全面に出している。事情を知らない私にも、なにかしらの因縁があるのだとわかる。



「へぇ~、ここの設備は頑丈だって聞いてたのに、案外脆いんだね~。あーしが美味しくいただいちゃったよ」



 ペロリと舌なめずりをし、ニヤリと口を歪める少女。

 少女は、紫のツインテールを揺らしながら、ツカツカと教室へ足を踏み入れる。

 私たちの前に立つと、こちらを睥睨する。



「あんたがセリア? ふぅん……弱そうだね。学院最強だからって聞いてたのにさぁ」



 で、とアイリスのほうへと目を向ける。



「そっちがアイリス――アリシアだね? 早速だけどさ……死んで?」



 少女がアイリスへ手を伸ばす。

 一瞬反応が遅れ、アイリスに手が届こうとしたとき、一つの手が、進行を止める。



「なにをやっているのです――グーラ」



 グーラ……確か、《暴食》でしたか。



「あー、やっぱスペルビアだよね? いやぁ、変わったね~、あれだけ王女暗殺に意気込んでたのにさ、いつの間にかほだされて辞めちゃって」



 絆されて、ですか。

 そうとも取れなくはないですが、どちらかと言えば、説得に成功したと言ってもらいたいものです。



「今はそんなこと関係ありません。現在の私は、セリア・リーフがおこなっている、アイリス・フェシリアの護衛を手伝っている身。大人しく退きなさい」

「へえ、セリアに言いくるめられたんだ? じゃあ、あんたから殺るよ。あーしらの活動の邪魔なのよ」



 今度はこちらに伸ばされる手。

 おそらく、なにかしらの行動に移す合図なのでしょう。それだけは防がねば。



「――《可惜身命あたらしんみょう》!」



 《可惜身命》、身体や命を大事にすること。命をおろそかにすべきではないということ。

 この能力は、身体を大事にする、つまりは防御能力です。

 透明な分厚い膜を形成し、あらゆる攻撃を防ぐことができます。簡単に言えば、バリアー! 今バリアーしてたから効きませーん! ってことですね。

 矛盾のはなしのごとく、なにものも通さない鉄壁の防御を誇る能力……だったのだが、グーラの手が触れると同時、それは無情にも崩れ去る。まるで、窓ガラスを破壊したように。



「《可惜身命》……ねぇ? あーしからすれば、ただのお遊びなんだけどね。エネルギー、ありがと♪」

「エネルギー……? 《言霊》からエネルギーを吸い取ったとでも言うのですか?」



 そんなむちゃくちゃなことができる《言霊》……?

 エネルギーを吸い取る……なるほど。



「あーしの《言霊》は、物質からエネルギーを吸い取る――《暴飲暴食》、だよ」

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