25.鎮圧
「地の果てまで墜ちなさい! ――《天変地異》!」
再び地面に現れる地割れ。
おそらくですが、この地割れへの落下を狙っての行動でしょう。ですが、軌道は直線。左右に避ければ問題ありません。
「チッ、ちょこまかちょこまかと……。ああ、腹立たしい!」
「最強と戦いたかったのでしょう? そんなに怒らないでくださいよ」
このままなら、彼女の体力が尽き、《言霊》の使用も止まるでしょう。
問題は、それまで私が耐えられるかですが……
下手に《言霊》を使えば、私の体力の消費も激しくなり、こちらが先に止まる可能性がある。それだけは避けなければいけません。
「このぉっ! この、この、この!!」
「当たりませんよ、そんなに闇雲にでは」
私は気づけなかった。このときに、イラが笑みを浮かべた意味をすぐに理解できなかったがために――
「さあ、これで終わりよ。――《天変地異》!」
「? なにを言って……」
またも地割れが来ると、右へと跳んだ瞬間。
「……!! しまった、地面が崩れて……!?」
「っ……! セリア・リーフ!」
「これであんたは終わり。さあ、あとは二人よ、アヴァリティア、ピグリティア」
◇
「いったたた……」
くぅ、油断してましたね。
油断大敵火がボーボー。地震雷火事おやじ……は違いますか。
ひとまず、ここから戻らねば。
見たところ……五〇メートルほどでしょうか。
一応、戻る方法はあるのですが……。一度試してみたことはあるんですけど、自分で見てもちょっと気持ち悪いなと思いまして。
仕方ない、やりますか。
◇
「もうやめなよ! アリシア・ラングエイジは、ここにはもういない。こんなことは無駄なんだよ!?」
「うるさいうるさい! あんたたちはアタシを裏切った。だからこそ潰す!」
「イラ様、わたくしたちは裏切ってなどおりません。イラ様の暴走を止める手立てを確立しようとしたのです」
「口から出任せでしょ!? もう嫌なの! 独りになるのは! ――《天変……ぐっ、なに……!?」
「ふぅ……そういえば、人に触れたら解けるんでした」
イラは、自身の腕を掴んでいる私を見て、目を丸くする。
まあ、無理もありませんか……
「あんた……どうして……!? あの高さから落ちて、無事なはずがない!」
「ホントですよ。すごい痛かったんですからね? 《空前絶後》でも、痛みはあるんですから、落下の衝突による痛みはガンガンですよ」
「えっ……、はっ……?」
口を鯉のようにパクパクとさせ、困惑の表情を見せる。
「それに今、姿を消していた……? ……なるほど、アヴァリティアのときの《曖昧模糊》ね?」
「ええ、よく覚えていましたね、えらいえらい」
私が頭を撫でてやると、うるさい、と私の手を払う。
もう……素直じゃないんですから……。ツンデレですね、可愛いです。
「でも、戻ってくることなんてできないはず!」
「できますよ、《伸縮自在》なら」
《伸縮自在》、伸び縮みを自在におこなえること。
この能力は、自身の身体を自由に伸び縮みさせられるというもの。自在なだけに、長さに制限はなくどこまでも。
エクステンド、プリーズ! な能力なのです。
腕を異常な長さまで伸ばすと、少し化けものじみてしまうので、あまり使いたくないんですよね。
「……これじゃ、分が悪いわね。今日は退くことにする。――《天変地異》」
イラが足を踏み鳴らすと、地面の表面が崩れ、砂ぼこりが舞い上がる。
逃がさまいとするも、砂ぼこりが目や口に入り、それを阻害する。
「けほっ、こほっ、待ちなさい!」
「助かったよ、セリア・リーフ。そんじゃあ、ウチも帰ることにするよ」
「わたくしからも感謝を。次会うときは――敵同士ですね。今日の友は明日の敵。それでは」
くっ……一度に三人を押さえられるチャンスだったのに。
まあ、アイリスになにもないのならよかったです。
◇
アイリスと先生の元へと向かうと、涙を目の端に浮かべながら、私のほうへと駆け寄ってくるアイリス。
「セリアさん、無事でよかったです!」
「本当ですよ。あのイラと戦って無事なんて、ほぼあり得ないことですからね」
「そうですね、なんとか無事ですよ。五〇メートルほど落下したときは、さすがに死ぬかと思いましたけど」
思わず、ははっ、と乾いた笑いが漏れる。
ちらと二人のほうを見ると、目玉が飛び出んばかりに見開いている。
ふむ、なにかおかしなことでも言ったでしょうか?
「無事……なんですかね?」
「五〇メートルから落下すれば、普通は死んでいるはず。《空前絶後》があったとしても、痛みだけは避けられないはずですが……」
「えっ!? セリアさん、無理してるんですか!?」
くっ……なんとか誤魔化してきたのに。さすが先生、《言霊》のことをよく勉強してますね。
「なんのこれしき。アイリスのためを思えば、大したことありませんよ」
「なにを言っているのです。えいっ」
「うぎぃゃぁぁあ!!」
先生が、未だに痛む私の背中を指でつついてくる。
電撃のような痛みが身体中を駆けめぐり、神経を通り脳へと到達する。やがて認識するなり、口からヘンな声が漏れる。
「なにを、するんですか……!」
痛みに顔を歪めながらも、問い詰めてみれば、先生は飄々と返してくる。
「ほら、我慢していたのでしょう。痛いなら、アイリス・フェシリアにでも看病してもらいなさい」
「えっ……なんですか、そのオプション。おいくらでしょう?」
「いや、看病くらいならしますから! お財布をしまって!」
無料オプション、だと……? 世の中、物価の決め方がめちゃくちゃですね。アイリスからの看病ならば、いくらでも払いますよ。
「それなら、お願いしましょう。アイリスからの看病……へへっ、おっと涎が……」
あわててハンカチで拭う。
ふぅ、アイリスに見られていたら大変です。……先生には見られてました。やめて! そんな目で私を見ないで!
「まあ、取り逃がしたとはいえ、今回の目的は追い返すことでしたからね。それは達しました、私が!」
「うわっ、ウザすぎるほどのアピール……嫌われる典型ではないですか」
「でも、セリアさん、カッコよかったですよ!」
アイリスは、グッと胸の前で拳を握る。
これが、フィーリングをヒーリングっどして、地球と心をお手当てしてくれる最高の笑顔……
身体の痛みも取れ――たら看病してもらえないので、まだ治ってません。ええ、治ってませんよ?
「ひとまず、あなたは保健室ででも休んでおきなさい。アイリス・フェシリア、彼女についてあげてください」
「は、はい! 行きましょう、セリアさん!」
先生にビシッと敬礼をするアイリス。
その姿を見られたので、もう痛みとかどうでもいいですけど、保健室とかイベントの塊なので、行くに越したことはありませんね。よし、行きましょう!
「ど、どうしたんですか? そんなに張り切って……」
「いえ、ナンデモナイデスヨ? ハハハ」
◇
「イラ、なんでこんなことになってるかわかる?」
円卓の間には、正座をするイラと、それを見下ろすアヴァリティアとピグリティアの姿が。
「……はい。アタシが暴走したからです……」
「わかってるならよろしい」
「そう? じゃあ帰るわね」
「人は止めといて、自分はそれかい!」
「いででででで!!」
踵を返したイラの頭を力強く掴む。
ギリギリと締めつけるあまりの痛みに、とてつもない悲鳴を挙げる。
「ハァ、ハァ……、なにすんのよ……」
「いや、なにを帰ろうとしてるのさ」
「わかってるならよろしいって……」
「言ったけど、まだ終わってないからね? これからピグリティアと、こってりお仕置きだから」
アヴァリティアの言葉に、「うえぇぇぇ~!」と叫ぶ声が、円卓の間に響き渡った。




