23.再戦
「ピグリティア! どこ!?」
「なんですか、アヴァリティア……」
アヴァリティアが大声で呼びかけると、部屋の隅からむくりと起き上がる、ピグリティア。
円卓の間にいたにも関わらず、こののんきさであるならば、先ほどの二人のやりとりは聞いていなかったのだろう。
目を擦りながら返事をするピグリティアに少しイラつきながらも、事情を説明する。
「イラが怒って出ていっちゃったんだよ!」
「……? それはいつものことでは?」
「違うよ! セリア・リーフと王女を始末するって……」
「なっ……!? それはマズいですね……」
ようやくことの重大さを理解したピグリティア。
いつもの怠惰な彼女はどこへやら。すぐさま行動へと移す。
「イラ様をなんとか止めないとですね」
「ウチ、セリア・リーフに助けてもらえないかを話してくるよ」
「なにを言っているのです。彼女はわたくしたちの敵。それに、彼女も承諾してくれませんよ」
「でも……、やらないよりはマシでしょ……!」
それだけ言い残すと、部屋から走り去っていった。
その背を見つめながら、呆れのため息を吐く。
「わたくしを動かさせるイラ様は、あとでお仕置きですね。可能ならば、手を貸してくださいよ、セリア・リーフ――」
◇
朝から絡まれ、アイスクリームもとい、アルフ・クリーヴのリベンジを受けるために、闘技場へと来ています。
すごい絡んでくるものだから、たぶん前世はタコかイカですね。
闘技場の使用には教諭の監視が必要なため、スペルビア先生に頼んであります。
「なぜ、特訓を始めてしばらくしてからリベンジを? 早めであれば、《言霊》を制限すれば勝てたのでは?」
「そんなセコいことするなんて、男じゃないからな。いや、漢じゃないからな!」
なぜ言い直したのでしょう。しかも、わかりづらいところを。
それに、少し古臭くないですか? なんですか、『漢』って。一昔前の不良ですか。
「それで、《言霊》の使用はありですか?」
「なし!……と言いたいところだけど、あったほうが面白いだろ?」
なんですかこの人。自分の首を絞めるどころか、心臓を刺して刺しまくってますよ。ヤバいですね☆
「本っっっ当にいいんですね? 秒殺ですよ?」
「だからこそ、勝利条件を模擬剣を当てたらにするんだよ」
「いや、それでも勝ちますよ」
私ってばもしかして、バカにされてます? 当てるだけなら勝てるだろ~、みたいな。
舐められたもんですね。ペロペロされてますよ。いやそれはセクハラです。
「先手必勝、もらいますよ。――《電光石火》」
一気に距離を詰め、模擬剣を突き出すも――
「あっぶねぇぇ……!」
「なっ……!?」
受け止めた? あのスピードでの剣撃を?
やはり、先ほど大見得を切っただけはありますね。
距離を取るために、後方へと飛び退く。これは厄介ですね。
「なるほど、剣術に長けているわけですか。試験のときにも剣を引っ提げて来てましたからね」
「父さんが剣術指南をやっててな。小さい頃から教えられたからだな」
では、剣先が見えていては、勝ち目が薄そうですね。
見えていて勝てないのなら、見えなくすればいいじゃない。
「では、勝ちにいかせてもらいます。――《曖昧模糊》」
《曖昧模糊》の使用により、剣はもちろん、私の姿も同様に景色へと溶け込む。
「き、消えた!? そんな《言霊》もあるのかよ……!」
これはさすがに対応できないみたいですね。まあ、見えない相手とやり合うなど、不可能ですからね。
そのまま音を立てないようにゆっくりと近づき、剣先を触れさせる。
「ふぅ……また私の勝ちですね」
「……やっぱりさすがだな。勝てる気がしねぇよ」
そう言って、ははっと笑い飛ばすアルフ。
なんと言いますか……これはこれでいいですね。戦いから生まれる友情……。せーしゅんですね!
「私に勝とうなんて、一〇〇年は早いですよ」
「そうか、なら、一〇〇年後にまたリベンジしにいくからな!」
「生きていたら、ですけどね。そのときは受けて立ちますよ。また私が勝ちますけどね」
「そうはいくかよ。次こそは俺が勝つ」
テンプレながらも、拳同士をコツンと打ち合わせ、揃って笑みが零れる。
終わったことを報告するため、先生の元へと向かう。その途中で、背後から声をかけられる。
「ちょっといいかな、セリア・リーフ、頼みがあるんだけど……」
「あなたは、アヴァリティア……!? どうしてここに!」
腰をかがめ、構えを取ると、アヴァリティアがあわてて止めてくる。
「待った待った! 今日は戦いに来たんじゃないんだよ!」
「それでは、どのような用で?」
「それがさ――」
神妙な面持ちで話を始めるアヴァリティア。
よくよく話を聞いてみると――
「なんですかそれ! そんなことしたら……!」
「そう。下手をすれば、世界終焉ルートにネコまっしぐらなわけよ」
「それで、私に助けを求めに来たと。……ネコ?」
カ○カンの話ですか?
「うん、どうにか頼めないかな?」
普通ならば、オーケーを出すところでしょう。しかし、相手は敵。そう簡単には承諾できません。
とはいえ、世界終焉は避けなければなりません。
イラが私たちを狙っているのなら、学院へと向かってくるはず。そこを迎え撃つしかないわけですが……
「彼女の《言霊》は、《天変地異》と聞いています。使われてしまえば、仕留める他ありません。息の根ごと止めざるを得ない可能性も」
「えっ、それは……」
嫌でしょうね。あれだけ怒鳴り散らしていても、大切なリーダー。慕ってきていたのですから。
私も、なるべくなら生かしておきたいですが……
そこで、アヴァリティアは、思い出したように声を挙げる。
「そうだ、イラは《天変地異》をコントロールできるんだよ」
「……なんですって?」
本来、《天変地異》はコントロール不可能な代物。一度発動すれば、世界が終わるか使用者が終わるか。もしくは、《言霊》を無理矢理止めるしか手立てがないはず。
それをコントロール? 一体どんな仕組みで……
ひとまず、コントロールが可能であれば、破壊し尽くすことはないでしょう。
ですが、止めなければいけないのは事実。
「わかりました。手を貸しましょう。しかし、アイリスにもしもがあれば、あなた方を徹底的に潰します」
「ははは……わかってるよ、一時休戦ってことで」
「では、先生に話をつけてきます」
今の先生は、監視役兼アイリスの護衛。こういったことは伝えておかねばなりませんからね。
話をつけに行こうと振り向いた瞬間、遜色なしに目と鼻の先に先生が。
「うおぁ! 先生いたんですか……」
「ふっ、これに気づけないとは、学院最強が聞いて呆れてあくびが出て寝てしまいそうです」
「えっ、いや、そこまでですか?」
寝るのは言いすぎでしょう……
っと、そんなことを考えている場合ではありませんでしたね。
「実は――」
「ええ、聞いていましたよ。イラが飛び出していったと」
「それなら話は早いです。アイリスの護衛、頼みましたよ」
「任せておきなさい、私の辞書には不可能の文字はありませんから」
なんとも頼もしい限りです。彼女であれば、信頼できますからね。
信頼って、『信じて頼る』じゃないですか、いい言葉ですよね。
「では、行きましょうか、アヴァリティア」
「そうだね、早め早めの水分補給……じゃなくて、解決をしないとだから」
イラを探すために一歩を踏み出そうとすると同時、私たちへ向けて、声がかけられる。
「なにをしているの、アヴァリティア? もしかして、セリア・リーフに肩入れしたの?」
――そこにいたのは、件の少女、イラでした。




