22.特訓
アヴァリティア、ピグリティア戦での苦戦から、稽古をすることにした私。
戦闘に関して精通した元暗殺者、スペルビア先生からの特訓を受けることになったのですが……
「ふふん、この私の特訓を受けられることを、光栄に思ってください。誇ってください、ほらほら」
くっ……、このドヤ顔がウザすぎる……
こんなところでも、傲慢さは忘れないところが、先生の悪いところですよ。
確かに感謝はしてますし、助かっていますけどね。
あと、「ふふん」とか「ほらほら」が妙に可愛いのが、さらにイラッとする。
私より誤差程度ですが、背が低く、それに加えて、キリッとした目に反した童顔なため、妹感も相まって可愛さが増すんですよね。きーっ、悔しい! 悔しいわ! 私も可愛いって言われたいです。
まあ、それはともかく。
「それで、特訓とはなにをするのですか?」
「私なりのやり方を教えましょう」
これは期待大ですね。
戦闘のプロから教えを請える機会は、あまりありませんからね。
「まずは、これからしたい動きをイメージします」
私は目を閉じ、言われたとおりに動きをイメージする。
「イメージ……。はい、できました」
「次は、そのとおりに動くだけです」
「……は?」
そのとおりに動くだけって……。それができたら苦労してませんよ。誰でも戦闘の達人になれますよ。タツジンにこぱです。
この人、感覚派ですか……。私、昔から理論派だったので、根拠のない言動は理解できないんですよね。
「えっ、そんなやり方なんですか?」
「ええ、そうですよ?」
「もっとこう……型を覚えて応用とか……」
「いえ、私はこうやって成功しました!」
いきなり、怪しい広告の宣伝文句みたいなこと言われても。
やはり、この人に頼むべきではなかったかもしれませんね……。頼む相手間違えたー! 戦闘経験は完熟してませんが、フレッシュではあります。娘のほうが強い。
「それでは、実戦でもしてみますか? もちろん、《言霊》はなしで」
「いや……《言霊》ありの男子生徒を五秒で沈めた人と、いきなりの実戦はちょっと……」
ガチガチの武器を使われても怪我をしないとはいえ、殴られたりすれば痛いですし。
仕方がないですよね……
「……さっきのやり方で教えてください」
「そうですか? わかりました」
緩すぎる特訓方法のせいでやめたくなることがあるとは。
普通なら、スパルタが嫌だ、とかだと思うんですけど。
感覚派とは、やはり馬が合いませんね。ヒヒーン。あ、実は私、午年なんですよ。どうでもいいですね、はい。
「セリアさん、頑張ってくださーい!」
遠巻きで体育座りをしながら、手を筒にメガホンのようにして、アイリスが私へと声をかける。
これだけが、私のやる気に火をつける着火剤ですよ。今のひと言で、特訓に対するやる気がグングン湧いてきました!
テンション上がってきたー!
◇
円卓の間で正座させられているアヴァリティア。
そんな彼女を、腕を組みながら睥睨する赤髪の少女、イラ。
こんな状況になっているのには、ある理由があった。
「アヴァリティア、なんでこんなことになっているか、わかってるわよね?」
「はい……、ウチが勝手に学院に乗り込んだからです……」
「そうよ、わかってるならいいわ」
「そう? じゃ、ウチはもう帰るから~」
「待ちなさい」
帰宅をしようと立ち上がり、振り向いた瞬間、服の襟を掴む。
「ぐえっ」
あまりに突然の出来事に、アヴァリティアの口から、あまりにも間の抜けた声が漏れる。
「なにすんのさぁ~。一瞬、死んだかと思ったよ」
「まだ終わってないわよ? なにを帰ろうとしているのかしら……?」
背後にゴゴゴと文字が浮かびそうなほどの迫力。
顔には満面の笑みを浮かべているが、明らかに怒っているであろうオーラに、アヴァリティアは口元を引きつらせる。
「あっははは……。さーせん、座ります」
その迫力に気圧され、おずおずと正座し直す。
「あのさ、なんで勝手に動いたわけ?」
「だってさ、二人が失敗したんだよ? さすがにヤバいじゃん? イラこそ、焦ったりしないの?」
アヴァリティアの言うとおりである。初めに動いた、スペルビア、ルクスリアは、セリアの説得によって、任務を失敗との形で終わらせている。
イラも、そのことはわかっている。わかりきっている。
「そんなこと……わかってるわよ!! 学院最強……セリア・リーフのせいで、成功しないのよ! 最初の雇ったやつらもそう。四人もいて失敗して! それなら、アタシが王女を始末するから連れてこいと言ってもダメ! ああ、イライラする!」
あまりの怒りから、辺りのものを投げ、床に叩きつける。
だが、それだけでは収まらないようで、彼女はある行動に出ることにした。
「もういいわ。どいつもこいつも使えない! アタシがセリア・リーフごと、王女を潰す。あんたらは大人しくしてなさい」
それだけ言い捨てると、部屋から出ていってしまう。
そのうしろ姿を見つめながら、アヴァリティアはポツリとひと言漏らす。
「マズいよ、このままだと、世界が終わる……!」
◇
特訓を始めてから二週間が経ち、だんだんと様になってきた今日、学院へと向かうと、ある男子生徒から喧嘩を売られました。
「セリア・リーフ! お前、最近特訓を始めたらしいじゃないか!」
「まあ、そうですが……。どこでそれを?」
「昨日、たまたま見かけたからな。先生とフェシリアと一緒にやってたのをな」
見られていましたか……。こういうものは、陰でやるからカッコいいというのに……
とりあえず、そのことはいいです。
「それで? 朝っぱらから私になんの用ですか?」
「受験のときのこと、覚えてるか?」
「受験のとき……ああ、あなた、泣いて土下座して帰った人ですか」
「その呼び方はやめろよ! いや、お前は俺の肩に手を置くな! リーフにイジメられているみたいだろ!」
お友だち……でしょうか。
彼の肩に手を置き、目を伏せながらフルフルと首を横に振る。
その呼び方をやめろと言われましても、名前知りませんし。
えっ、自己紹介? 初日にありましたけど、女子の名前しか聞いてませんでした。
ええと、確か……
「思い出しました、アイスクリームですね!?」
「アルフ・クリーヴだよ! ……いや、ちょっと似てんな……」
「で、結局アイスクリームがなにか用ですか?」
「だからっ! ……まあいい。受験のときのリベンジをさせてもらう!」
なんとも唐突な……。ですが、逆に言えば、特訓の成果を試す、いいきっかけになるかもですね。
なぜ、このタイミングかはわかりませんが、ここは受けておいて損はなさそうですね。
「わかりました、受けましょう」
「お前なら、そう言うと思ってたぜ!」
「ですが、絶対に勝てませんよ? 私が《言霊》を持っている限りは」
「いや、それでもだ!」
「お前、もしかしてさ……」
お友だちが、アルフにジト目を送りながら、声をかける。
「リーフのこと、好きなのか?」
「バッ、バカなこと言ってんなよ! なんで俺がこいつを……!」
瞬間、アルフは顔どころか、耳まで真っ赤に染め、慌てて言い返す。
「いや、勝てないとわかってて挑むんだろ? とりあえず関わっときたいみたいに見えるんだよ」
なるほど、確かにそうですね。それか、極度のM気質かですかね。
ですが、私の答えは決まっています。
「ごめんなさい。私はアイリスが好きなので」
「いや、だから、そうじゃないって言ってるだろー!」
アルフの叫びが、騒がしい教室にすら、よく響く声で発せられるも、少しずつ掻き消されていった。




