20.強欲
まったく……なんの対策もできていないと言うのに、襲撃なんて勘弁ですよ。
ですが、今までも襲撃に対応してきました。
さあ、戦闘開始です。
「あんた、動きが単調だねぇ。今までは《言霊》で補ってきた感じ?」
「ええ、戦闘経験など少ないですから。ですが、あなたも変装でボロを出すとは、甘かったですね」
「あー、あれね。言ってから、やっちまったーって思ったけど、まあ遅いよね」
彼女が出したボロとは、私の呼び方。うっかり、『セリアさん』と呼んだことが、変装に気づくに至る道となったわけです。
「ま、そのことはもういいよ。ねっ? 本気の戦いを始めようじゃあないか。武器を取りなよ。ウチはフェアに戦いたいからね」
武器は手元にないのですが……
武器がないなら作ればいいじゃない。――セリア・アントワネット。
「では、武器を用意しますので、しばしお待ちを。――《創意工夫》」
《創意工夫》、今まで誰も思いつかなかったような、新たな考えや方法を編み出すこと。
この能力は、簡単に言えば『物体形成能力』。
しかし、すでに存在するもの、一度でも《創意工夫》で作り出したものは製作不可能。完全新作に限ります。
とはいえ、微妙に違えば別もの。たとえば、デザインの差、大きさ、重さも対象です。
一定時間で消失するため、消えないようにできないかを考案しています。
「へえ、剣ねぇ。それ、扱えるの?」
「私でもある程度扱いやすい重量にしてありますから」
『ある程度』な訳は、今後消失させなくてもよい方法が見つかったとき、本当に使いやすいものを作りたいですから。
そのためには、今使うわけにはいかないのです。
「じゃ、いかせてもらう――よ!」
「ぐっ、なんて力……」
受け止めるので精一杯なほどに強力な一撃。ナイフとのつばぜり合いになるほどとは……
押し負けると、あとがつらくなるでしょう。ここは、スピード勝負に出させてもらいます!
「――《疾風迅雷》!」
私が《言霊》を使うと同時、アヴァリティアは口元を歪める。なにを企んでいるのでしょう。
「ふふっ、それもらうよ。――《鼠窃狗盗》!」
急激なスピードダウン。彼女の《言霊》の影響でしょう。
《鼠窃狗盗》、ネズミやイヌのように、人に隠れてものを盗むこと。
この《言霊》の厄介なところが、『ものごとの状態を盗む』ことにあります。
たとえば、今のような、《疾風迅雷》のスピードを奪う。他には、《一刀両断》の切れ味ですら盗み取り、自分のものにしてしまう能力。
つまりは、私が自分にバフをかければかけるほど、相手に有利になるわけです。
しかも、盗み取る数に限りがないのも厄介な点ですね。
「さあ、来なよ。学院最強、セリア・リーフ」
◇
「ねえ、アヴァリティアはどこに行ったの!?」
円卓の間に怒りながら入室してきたイラ。
彼女の問いに答えるのは、黒髪の女性、ルクスリア。
「ああ、あの子なら、『ウチが学院最強を討ち取ってくる! 「うち」だけに!』って出てったわよ」
「ちょっ、なんの命令も出してないのよ!? あー、もう! どうしてこうなるのよ!」
怒りから、円卓を引っくり返そうと縁に手をかけるが、それほどの力はなく、すぐに手を離す。
あまりの大声で怒鳴り散らしたせいか、はぁはぁと肩で息をしている始末。
「ちょっと、どこに、行くのよ……」
息が切れているために、途切れ途切れに、力のない声をルクスリアへ向けてかける。
ルクスリアは、チラと振り返りひと言。
「これからマッサージしてもらいに行くのよ。それじゃあね~」
「どこからそんなお金を……!」
《七色の大罪》は、メンバーが常々愚痴を言い合っている、給料について。
彼女たちの手取りは、かなり大きな仕事をこなしたとしても、そこから比べると、すずめの涙程度のもの。
美容に余念のないルクスリアは、月々の出費がバカにならないわけだが、イラとしては、その収入源が気になっている。
「うーん、まあ、ワタシの魅力が成せる業というか?」
「なによ! それならアタシも、この魅力で――」
「おやめください、イラ様。そのロリボディ……失礼、いろいろと足りない身体では、魅力など出ませんよ」
「なんか言い直したほうがヒドくなってない!? うっさいわね! あるわよ、魅力!」
眠っていたはずのピグリティア。
《怠惰》である彼女が、わざわざ起きてまで伝えたかったことがそれかと、イラは、ふんすと怒りを露わにする。
「いいわよ、もう! こうなったら、アヴァリティアとなにかして――そうよ、アヴァリティア! あいつを回収しないといけないんだった!」
いろいろと引っかき回され、記憶から消え去っていた、初めの目的。《強欲》:アヴァリティアの回収。
本来ならば、独断専行とのことでクビは免れられないのだが、《七色の大罪》は現在、極度の人材不足。
元が七人だったことも原因なのだが、セリアの説得によって、スペルビアが抜け、ルクスリアは辞めるか辞めないかの相談をしている最中。
そうなると、メンバーは五人となるわけだが、一人は基本的に食べ歩き。一人は部屋に引きこもっている。
もう一人は一日中眠りこけ、目を覚ませば「ダルい」などの、意欲のなさを露呈する言葉のオンパレード。
「行くわよ、ピグリティア。あなたの《言霊》が必要なの」
「嫌です。わたくしには、寝るという仕事がありますから」
「帰ったら、好きなだけ寝ていいから、今だけはお願い」
「なにをしているのです、早く行きますよ」
変わり身の速さに、口をあんぐりと開けるイラ。
ピグリティアは、「好きなだけ寝ていい」との魔法の言葉を受け、それが楽しみでならないようだ。
◇
――どうしたものでしょうか。
バフをかければ、彼女側が有利に。かといって、こちらがなにもしなければ、それまたあちら側が有利な、完全な詰みゲー状態。
なにかしらで、相手の動きを止めないといけないのですが……
――っと、そういえば、いい方法がありますね。これなら、止められるはず。
とはいえ、狙いに気づかれてはいけませんが、まあ、そんなことはないでしょう。
「ははっ、どうしたの? まさか、学院最強の敗北する瞬間が見られるかなぁ!?」
「そうは問屋が卸しませんよ。ここからは、私が逆転させていただきます。――《韋駄天走》!」
「それももらうよ! ――《鼠窃狗盗》!」
やはり、これも盗みますか……
ですが、それでいいのです。これから、しばしのご休憩を。
「それでは、私はしばらく消えますので」
「はあ? なに言って――」
「――《曖昧模糊》」
《曖昧模糊》、ものごとの本質や実態が、ぼんやりと不明瞭な様子。
この能力は、別に姿が消えるわけではなく、ものへの認識を曖昧にさせるもの。
今は自分に使いましたが、そうすると、私の存在を認識できなくなるのです。これは、センサーなどを利用しても同じ。感知することは不可能となるわけです。
解除は『任意』、『三〇分経過』、『人に触れられる』ことで起こります。
「チッ……、どこに行った!? 出てきなよ!」
隠れたのに、出てこいと言われて出るわけがないでしょう。
なかなか効果が見られませんね……。そろそろだとは思うのですが。
「もう時間切れ……!?」
三〇分が経過したようです。
まだかと焦り始めると同時に、ようやく効果を発揮。
「よしっ、もらっ――身体が……動かない……!?」
私の狙いはこれ。――《言霊》の使用による反動。
彼女は、《疾風迅雷》と《韋駄天走》を同時使用していました。同じ効果の《言霊》を重ねがけすると起きる現象です。
「あなたから挑んできた勝負です。恨みっこなしですよ」
騎士団に引き渡すため、拘束しておこうと近づいた瞬間、頭上から声が。
「――帰るわよ、アヴァリティア」




