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語彙力最強少女の英雄譚  作者: 春夏冬 秋
第一章 《王女護衛》編
20/98

19.結論

 日が明け、今日は私だけで先生の下へとやって来ました。

 アイリスが近くにいないのは少々心苦しいですが、仕方ありません。あまり暗い話を聞かせるわけにはいきませんから。



「それで、なにか思いついたのですか?」

「《七色の大罪(モルトリア)》拠点を襲撃するのは?」



 私の提案に、先生は難しい顔をする。

 なにか思うところがあるのでしょうか。



「実はですね、拠点はいくつもあるんです」

「と、いうと?」

「私のように、組織を抜ける人物がいた場合、拠点を襲われては堪りませんから。逃げ道ですね」

「それなら、そちらに向かえば――」

「できませんね」



 先生はピシャリと言い放つ。



「別の拠点の場所は、リーダーであるイラしか知り得ません」



 確かに、逃げ道である別の拠点を知らせていては、潰しに来てくださいと言っているようなものですからね。

 そうなると、未だ抜けていないルクスリアを見つけるか、他のメンバーを押さえる他ないでしょう。

 ですが、そんなに都合よく襲ってくるわけではないですし、来ないに越したことはありません。

 難しいところですね……

 学院にまで襲撃してくるほどですから、街中で人の目があろうとも、問答無用で来るでしょうね。



「しかし、昨日あなたから聞いた様子では、ルクスリアはしばらく来ないと見ていいでしょう」

「となると、他のメンバーに気を配らねばならないわけですか」



 ここ最近はアイリス宅への襲撃はありませんが、なにかしらの作戦であれば厄介ですね……



「今まで以上に気を張ることにします。では」



 職員室から出ようと先生へ背を向けると同時、うしろから声をかけられる。



「セリアさん、気をつけてくださいね」

「……? はい……」



 先生の言葉には違和感がありましたが、特段おかしなところはない……はず。気のせいでしょうか。

 時計を見ると、そろそろ朝礼の時間。教室へ向かいましょう。

 


     ◇

 


 教室へ戻ると、扉の前で先生とバッタリ出会った。

 職員室からここまで、少々時間がかかるのですが、さすがの身体能力といったところでしょうか。



「セリア・リーフ、早く入りなさい。朝礼を始めますよ」

「はい、すみません……」



 先生のほうがあとに来たのに、越してしまうのですから、それは遅れますよ。

 ……待ってください。今、なんと? シャキーンシャキーン、うわぁぁあ! は置いておいて。



「セリア・リーフ? どうしました?」

「先生、学院に何者かが侵入しています」

「はあ、なにを根拠に?」



 先ほど感じた違和感。今、先生と話したことでわかりました。――名前の呼び方です。

 本物のスペルビア先生は、生徒のことをフルネームで呼びます。今しがた『セリア・リーフ』と呼んだように。

 ですが、職員室では、『セリアさん』と呼ばれました。



「変装が得意な方のようですね……」

「変装が得意? ……となると、アヴァリティアでしょうか。盗賊である彼女は、忍び込む際に変装をすることがあります」



 どうしましょうか。おそらくですが、逃げられていてもおかしくありません。

 それに、別の人に変装されては、判別できませんよ。

 たった今まで気づかなかったのですから。本当のケアレスミスというわけでしょう。


「わかりました。では、アイリス・フェシリアから目を離さないでください」

「ええ、もちろんです」



 《七色の大罪》も面倒なものを投入してくれましたね。

 早いうちに解決策を確立しておかなければ……

 そして、アヴァリティアの言った、「気をつけて」。これがなにを意味しているのか……

 


     ◇

 


 なにか……なにかないんですか!

 このままでは、アイリスの身に危険がおよぶ。ダメだ、ダメだダメだダメだ。

 『言霊全書』を読み漁っていると、隣からアイリスが声をかけてきた。



「セリアさん、大丈夫ですか? なんだか怖い顔してますよ?」

「す、すみません……、少し事情がありまして……」



 ここで不安にさせてはいけません。

 なんとかはぐらかさないと……



「事情って、わたしのことですよね?」



 ……バレていましたか。



「……ええ、でも、心配しなくても大丈夫ですよ。私がなんとかしますから」

「セリアさん、最近無理してませんか?」



 無理? アイリスを護ることのなにを無理していると言うのでしょう。

 確かに、最近はふらつくことも少なくはないですが、病弱だったが故なんですよ。きっとそうです。

 無理じゃありません。私がやりたくてやっているのです。



「アイリスのためなら、多少の苦労もないに等しいのですよ」

「……無理なときは、無理って言ってもいいんですよ? たまには、わたしを頼ってください」

「もちろんです。アイリスのことは頼りにしていますよ」



 とはいえ、ここでは彼女を頼りにするわけにはいきません。

 これは、私の仕事なのですから。

 今はなにをすべき……? 

 変装を見破る? アヴァリティアを倒す? それとも捕らえる?

 そのために必要なことは、総じて《言霊》でしょう。

 どれをするかではなく、すべてできるようにしておけばいい。

 私は、《全知全能》なのですから。



「――先生、いい方法を見つけました。校内の全員を集めてください」


 

     ◇

 


「セリア・リーフ、全員集めてきました。あなたのすべきことを為してください」

「任せておいてください」



 ひとまずやるべきことは、変装を見破ること。

 このために、ある《言霊》を見つけておきました。



「――《一目瞭然》」



 《一目瞭然》、一目見ただけで明らかなまでにわかること。

 この能力は、隠していることなどを、すべて赤裸々にするもの。たとえば、変装や暗器などですね。

 これで、アヴァリティアの変装も無意味となるわけです。



「見つけました。――《百発百中》!」



 教員の一人。見破られたとわかっていながらも、表情を変えないとは……プロ意識なんですかね。

 私は、武器として用意しておいた小石を投擲。

 ずれた軌道も《言霊》の力で修正。まもなくヒットといったところで――



「ふう……まさか、ウチの変装が見破られるとは……。さすが、『学院最強』って呼ばれてるだけはあるよ」



 小石を軽々と受け止める。人間の目では追えないほどの速度のものを受け止めるとは、身体能力が高いというのは過大評価ではないようですね。



「私のことをご存じですか。有名になったものですね」

「そりゃあそうだよ。今では裏の界隈で出回ってるよ? それに、スペルビアとルクスリアを潰してくれたんだからさ。こちとら人員不足なわけ。どう責任とってくれんの?」

「知りませんよ、そんなの。私は、騎士団ギルドで受けた依頼を解決するだけ。護衛対象である王女に関わったのですから、自業自得だと思ってください」



 実際のところ、私はアイリスに危害を加えなければ、こんなことはしません。

 《七色の大罪》など、勝手に活動してなさいと思うほどです。しかし、彼女の暗殺任務に関わってしまった。そうなれば、私は動きますよ。



「それで、どこまで情報が漏れているのでしょう?」

「あー……細かくはわかんないけど、《言霊》を複数持ってるとか、学院最強が王女の護衛をしてるとか? でも、生まれた場所、家族とかは、どれだけ調べても出ないらしい」



 あっさり教えてくれるのですね。

 どこまで知られているかわからずに、私が力を出し渋るなどは考えないのでしょうか。

 とはいえ、《全知全能》に関しては流れていないようでなによりです。スペルビア先生をあの場で止めておいてよかったですよ。

 アヴァリティアはその手にナイフを握ると、こちらを見つめながらひと言。



「まあ、なんでもいいよ。ウチは盗賊――あんたと王女の命も奪ってみせるさ」

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