19.結論
日が明け、今日は私だけで先生の下へとやって来ました。
アイリスが近くにいないのは少々心苦しいですが、仕方ありません。あまり暗い話を聞かせるわけにはいきませんから。
「それで、なにか思いついたのですか?」
「《七色の大罪》拠点を襲撃するのは?」
私の提案に、先生は難しい顔をする。
なにか思うところがあるのでしょうか。
「実はですね、拠点はいくつもあるんです」
「と、いうと?」
「私のように、組織を抜ける人物がいた場合、拠点を襲われては堪りませんから。逃げ道ですね」
「それなら、そちらに向かえば――」
「できませんね」
先生はピシャリと言い放つ。
「別の拠点の場所は、リーダーであるイラしか知り得ません」
確かに、逃げ道である別の拠点を知らせていては、潰しに来てくださいと言っているようなものですからね。
そうなると、未だ抜けていないルクスリアを見つけるか、他のメンバーを押さえる他ないでしょう。
ですが、そんなに都合よく襲ってくるわけではないですし、来ないに越したことはありません。
難しいところですね……
学院にまで襲撃してくるほどですから、街中で人の目があろうとも、問答無用で来るでしょうね。
「しかし、昨日あなたから聞いた様子では、ルクスリアはしばらく来ないと見ていいでしょう」
「となると、他のメンバーに気を配らねばならないわけですか」
ここ最近はアイリス宅への襲撃はありませんが、なにかしらの作戦であれば厄介ですね……
「今まで以上に気を張ることにします。では」
職員室から出ようと先生へ背を向けると同時、うしろから声をかけられる。
「セリアさん、気をつけてくださいね」
「……? はい……」
先生の言葉には違和感がありましたが、特段おかしなところはない……はず。気のせいでしょうか。
時計を見ると、そろそろ朝礼の時間。教室へ向かいましょう。
◇
教室へ戻ると、扉の前で先生とバッタリ出会った。
職員室からここまで、少々時間がかかるのですが、さすがの身体能力といったところでしょうか。
「セリア・リーフ、早く入りなさい。朝礼を始めますよ」
「はい、すみません……」
先生のほうがあとに来たのに、越してしまうのですから、それは遅れますよ。
……待ってください。今、なんと? シャキーンシャキーン、うわぁぁあ! は置いておいて。
「セリア・リーフ? どうしました?」
「先生、学院に何者かが侵入しています」
「はあ、なにを根拠に?」
先ほど感じた違和感。今、先生と話したことでわかりました。――名前の呼び方です。
本物のスペルビア先生は、生徒のことをフルネームで呼びます。今しがた『セリア・リーフ』と呼んだように。
ですが、職員室では、『セリアさん』と呼ばれました。
「変装が得意な方のようですね……」
「変装が得意? ……となると、アヴァリティアでしょうか。盗賊である彼女は、忍び込む際に変装をすることがあります」
どうしましょうか。おそらくですが、逃げられていてもおかしくありません。
それに、別の人に変装されては、判別できませんよ。
たった今まで気づかなかったのですから。本当のケアレスミスというわけでしょう。
「わかりました。では、アイリス・フェシリアから目を離さないでください」
「ええ、もちろんです」
《七色の大罪》も面倒なものを投入してくれましたね。
早いうちに解決策を確立しておかなければ……
そして、アヴァリティアの言った、「気をつけて」。これがなにを意味しているのか……
◇
なにか……なにかないんですか!
このままでは、アイリスの身に危険がおよぶ。ダメだ、ダメだダメだダメだ。
『言霊全書』を読み漁っていると、隣からアイリスが声をかけてきた。
「セリアさん、大丈夫ですか? なんだか怖い顔してますよ?」
「す、すみません……、少し事情がありまして……」
ここで不安にさせてはいけません。
なんとかはぐらかさないと……
「事情って、わたしのことですよね?」
……バレていましたか。
「……ええ、でも、心配しなくても大丈夫ですよ。私がなんとかしますから」
「セリアさん、最近無理してませんか?」
無理? アイリスを護ることのなにを無理していると言うのでしょう。
確かに、最近はふらつくことも少なくはないですが、病弱だったが故なんですよ。きっとそうです。
無理じゃありません。私がやりたくてやっているのです。
「アイリスのためなら、多少の苦労もないに等しいのですよ」
「……無理なときは、無理って言ってもいいんですよ? たまには、わたしを頼ってください」
「もちろんです。アイリスのことは頼りにしていますよ」
とはいえ、ここでは彼女を頼りにするわけにはいきません。
これは、私の仕事なのですから。
今はなにをすべき……?
変装を見破る? アヴァリティアを倒す? それとも捕らえる?
そのために必要なことは、総じて《言霊》でしょう。
どれをするかではなく、すべてできるようにしておけばいい。
私は、《全知全能》なのですから。
「――先生、いい方法を見つけました。校内の全員を集めてください」
◇
「セリア・リーフ、全員集めてきました。あなたのすべきことを為してください」
「任せておいてください」
ひとまずやるべきことは、変装を見破ること。
このために、ある《言霊》を見つけておきました。
「――《一目瞭然》」
《一目瞭然》、一目見ただけで明らかなまでにわかること。
この能力は、隠していることなどを、すべて赤裸々にするもの。たとえば、変装や暗器などですね。
これで、アヴァリティアの変装も無意味となるわけです。
「見つけました。――《百発百中》!」
教員の一人。見破られたとわかっていながらも、表情を変えないとは……プロ意識なんですかね。
私は、武器として用意しておいた小石を投擲。
ずれた軌道も《言霊》の力で修正。まもなくヒットといったところで――
「ふう……まさか、ウチの変装が見破られるとは……。さすが、『学院最強』って呼ばれてるだけはあるよ」
小石を軽々と受け止める。人間の目では追えないほどの速度のものを受け止めるとは、身体能力が高いというのは過大評価ではないようですね。
「私のことをご存じですか。有名になったものですね」
「そりゃあそうだよ。今では裏の界隈で出回ってるよ? それに、スペルビアとルクスリアを潰してくれたんだからさ。こちとら人員不足なわけ。どう責任とってくれんの?」
「知りませんよ、そんなの。私は、騎士団で受けた依頼を解決するだけ。護衛対象である王女に関わったのですから、自業自得だと思ってください」
実際のところ、私はアイリスに危害を加えなければ、こんなことはしません。
《七色の大罪》など、勝手に活動してなさいと思うほどです。しかし、彼女の暗殺任務に関わってしまった。そうなれば、私は動きますよ。
「それで、どこまで情報が漏れているのでしょう?」
「あー……細かくはわかんないけど、《言霊》を複数持ってるとか、学院最強が王女の護衛をしてるとか? でも、生まれた場所、家族とかは、どれだけ調べても出ないらしい」
あっさり教えてくれるのですね。
どこまで知られているかわからずに、私が力を出し渋るなどは考えないのでしょうか。
とはいえ、《全知全能》に関しては流れていないようでなによりです。スペルビア先生をあの場で止めておいてよかったですよ。
アヴァリティアはその手にナイフを握ると、こちらを見つめながらひと言。
「まあ、なんでもいいよ。ウチは盗賊――あんたと王女の命も奪ってみせるさ」




