18.対策
今……なんて言いました?
信じられない……いえ、信じたくない言葉が聞こえた気が。
「《天変地異》? そんなもの、使えば世界が終わりますよ?」
「ですから、彼女に《言霊》を使わせるほど怒らせないよう、常に気を張っているのです」
《天変地異》、天地で起こる自然の災害や、変わったできごとのこと。
使用すれば、たちまち辺りは崩壊。天は震え、大地は割れ、建物は木っ端微塵。
しかし、これならば修復が可能なため、そこまで大きな問題ではありません。
問題はその先――制御が利かないことにあります。
簡単に言えば、ポ○モンの『げきりん』。目につくものすべてを壊し、さら地になるまで破壊の限りを尽くす。
当然ですが、人間も破壊の対象。発動させたが最後、使用者を止めるか、世界が終わるまでは停止しない暴れ馬となる。
「それがリーダーの恐ろしいところ……」
「はい、持席《憤怒》:イラ。彼女は、元来怒りっぽい性格だったようですが、自身の《言霊》が世界を壊すという事実によるストレス、グループの自分勝手な様子から、さらに加速。今では、爆発していない核爆弾状態」
自分勝手なメンバーに、先生が含まれていることはともかく。
いつ爆発するかわからない以上、なんの対策も取らないというのは危険すぎます。
しかし、他にもメンバーが四人いるわけです。
《強欲》、《怠惰》、《暴食》、《嫉妬》。
相手の技量や《言霊》の情報は、先生が持っているとはいえ、技量は伸ばすことができ、《言霊》は使い方次第。
気休め程度に聞くのが一番でしょう。
「現在のメンバーで一番厄介な方は?」
「そう、ですね……単純な身体能力で言えば、《強欲》アヴァリティア。どんなセキュリティも突破し、邸宅から金銀財宝を盗み出すほどです。突破不可能と言われた赤外線センサーを、切ることなく通り抜けましたからね」
そうなると、単純な接近戦では勝ち目がないかもしれませんね……
スペルビアですら、私を超える速度で移動するのですから、アヴァリティアはそれをも陵駕するでしょう。
最悪、以前の重ねがけで対処しますか……
「それで、厄介と言っていた《怠惰》はどのように?」
「彼女の《言霊》は《意気沮喪》。やる気など、気力を一気に消し去る能力です。イラを鎮められる、唯一の存在でもあります」
《天変地異》を起こす人物を止められるとは……
結局のところ、《憤怒》:イラも、やる気で動いているわけですね。これは、のちの戦闘で使えるのでは? これで鎮めてしまえばいいわけですからね。
いっそのこと、《七色の大罪》全員をよい職に就けさせるのもありですね。
「私、決めました!」
「決めたとは……なにを?」
「《七色の大罪》全員、教師へと転職させます!」
「……は?」
先生は、口をあんぐりと開け、こちらをただ見つめる。
「は?」じゃなくて、「セリアちゃん天才! 最高!」とか言ってもいいのですよ? いや、むしろ言ってください!
「あの……わたし、完全に空気ですよね?」
アイリスが、おずおずと手を挙げる。
確かに、先生との情報交換が多かったですからね。
彼女に聞かせると、不安を煽るかもですし、先に帰らせ――いや、帰りに襲われると面倒です。それなら、ここにいてもらいますか。
「すみません、アイリス。これもあなたのため。少し待っていてもらえると助かります」
「は、はい……!」
聞き分けのいい子で助かりましたよ。ここで騒ぎ出されると困りますからね。元気が取り柄ですから、我慢できない可能性がありましたけど。
それにしても、面倒な人たちばかりとは、とんでもないグループを作ってくれたもんです。
「ひとまずは、《七色の大罪》をぶっ壊す! という形でよろしいですか?」
「ぶっ壊さなくてもいいとは思いますけど……」
そうですかね? そのうち受信料とか徴収に来ますよ。まあ、居留守を使いますけど。
詳しいことは明日にでも話しましょうか。
「時間も時間ですし、今日のところはこれくらいにしておいてやる!」
「どうして負けた不良みたいになっているのですか」
「では、私たちは帰ります。お、覚えてやがれー!」
「おととい来やがれー!」
遠くから、私の声に返してくる先生の声が聞こえてくる。
あの人、ノリがいいですね。
◇
日が経ち、円卓へと集まった、昨日のメンバー。
リーダーであるイラは、円卓をバンッと叩き、《怠惰》のメイド少女、ピグリティアへと迫る。
「ピグリティア、昨日はやってくれたわね!」
「はて、なんの話でしょう?」
「昨日の会議よ! なんの話もつかず、進展なしじゃない!」
とはいえ、ピグリティアが止めていなければ、イラの《言霊》である、《天変地異》によって、世界が滅んでいた可能性もある。
「わたくしが止めねば、世界滅亡ルートにネコまっしぐらでしたよ」
「アタシは《言霊》を制御できてるの。一度見たことあるでしょ? 他は知らないけど、流通している情報とは違うの。……ネコ?」
そう。《憤怒》イラは、見るものすべてを破壊すると言われる《天変地異》を、任意の状態で発動できる。
怒りの感情が人より大きい彼女は、《天変地異》で湧き起こる怒りに勝るのだ。
そのため、《言霊》による制御を無理矢理押さえ込み、制御可能な状態で使用している。
酒は呑んでも呑まれるな状態。
《天変地異》を使用するならば、《言霊》に呑まれないようにしなければいけない。
「それで、あの二人はどうしたの?」
「あー……。ウチが見に行ったら、グーラはお腹いっぱいで寝てて、インヴィディアはゲームしてた」
「あ・い・つ・ら~~!!」
自分勝手がすぎるメンバーに、イラは怒りを募らせる。
ガンガンとじだんだを踏み、「ああぁぁあ!!」と叫びを挙げる。
「イラ、ちょっと落ち着きなよ」
「これが落ち着いてられるかっての!」
円卓に手を叩きつけた瞬間、ミシミシと音を立て、一部が崩れ落ちる。
「あっ……《言霊》が……」
ここで全員が、
(((制御できてないじゃん!)))
と思いはしたが、言ったあとが怖いため、口には出さないでおいた。
「……アヴァリティア、直しておいて」
「えぇ、ウチ? そんな技術あるわけないじゃ~ん」
「じゃあ、インヴィディアにでも頼んでおいて」
「まあ、それならいいけどさ……(自分で頼んでよ……)」
イラがこちらを睨んだ気がしたが、アヴァリティアの勘違いだったようだ。
あの破壊力を持つ《言霊》を目の前で見せられ、さらには心を読め始めたら、いよいよ命はないと思わねばならない。
椅子に座りながらも、うつらうつらとしているピグリティアをよそに、しびれを切らしたルクスリアが、イラへと声をかける。
「ねえ、ワタシの話ってどうなったのかしら?」
「えっ? あー……じゃあダメ」
「適当すぎない!?」
これには、二人も同意の意を示すように、こくこくと首を縦に振っている。
自身に同情をしてくれる人がいることを知れたことで、なんとか心の平衡を保つ。
「リーダーに止められたら辞めるに辞められないわよね……」
「ルクスリア、もう少し頑張って。ウチは安定して盗賊としてやっていけるから、辞めるつもりはないけど」
「わたくしは、寝ていてもお給料が入るので、辞められない止まらない、か○ぱえびせんです」
二人には目的があるようで、ルクスリアにもなにかしらの目的を見つけ、やりがいを見出ださせようとしているようだ。
「目的を持つのね? それならワタシは、男を従属させまくるわ!」
「「「は、ははは……」」」
あのイラですら引かせるルクスリアが、ある意味ではトップなのかもしれない。




