17.会議
「これからどうするつもりです?」
「いやぁ……なにも効かないなら戦いようがないじゃない? 《言霊》だって、女性はワタシのこと羨ましがって、魅力を感じてくれないし……」
「えっ、いや、まあ……」
羨ましくないと言ったら……嘘になります。
悔しがることしかできません。私、不器用ですから……。特に胸とか胸とか。
あっ、いや――ふん! ぜ、全然羨ましくなんかないんだからね!
これ、このままいけば、また辞職させられるのでは?
敵とはいえ、無駄に戦いたくはないですからね。平和的解決をしたいですから。
「どうします? スペルビアのようにあきらめるのなら、私はなにもしませんが。まだアイリスを狙うつもりであれば、容赦はしません」
「う~ん……。少し考えさせてもらえる? 決まったらまた来るわ」
すごい告白の返事待ちみたいになってますけど。
なにより、選択肢に『あきらめる』を入れられたのは大きいですよ。
そちらを選んでくれれば、私としても楽なんですけどね。
「……いや、来ないでくださいよ」
今回は戦闘にならずに済んだのは僥倖ですね。
前は、グラウンドを崩壊させて、直している人に、すごい罪悪感を抱きましたから。
◇
《七色の大罪》本拠点に戻ったルクスリア。
円卓に座する三人の少女を一瞥し、彼女も席に着き、頬杖をつく。
先ほどセリアに言われたことを、仲間に相談する。
「ねえ、みんな。ワタシ、ここ辞めようかなって思ってるのよ」
その言葉に真っ先に反応したのは、肩口より少し長い赤髪を揺らす少女。
「はぁ!? アタシらのグループを潰す気? スペルビアも抜けて、あんたも抜けたら、《傲慢》と《色欲》はどうすんのよ!?」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。《憤怒》だからってさぁ」
赤髪の少女――持席《憤怒》:イラ。
《七色の大罪》を取りまとめているのは彼女なのだ。次々と人員に抜けられては、堪ったものではないだろう。
小柄な彼女がリーダーとは、誰も納得をしていないが、イラの《言霊》が起因し、逆らえずにいる。
もっとも、イラをリーダーとしたのは、彼女や《七色の大罪》のメンバーではないのだが。
「だって、ここって結構ブラックじゃない? スペルビアも、そう言ってたじゃないの」
「そうだよ、こっちはボランティアじゃないんだよ?」
ルクスリアの意見に賛同したのは、橙色のポニーテールをサラサラと手で漉きイジる少女。
彼女は、持席《強欲》:アヴァリティア。
狙ったものは逃したことのない、プロの盗賊。
最高セキュリティの邸宅から、一億はするであろう宝石や壺を盗み出した経験もある。
「なによ、アヴァリティア。あなた、文句でもあるの?」
「いやぁ、ウチはないけどさ、ルクスリアも言ってるし?」
「ちょっと、ワタシを売らないでちょうだい」
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、迷惑そうに顔をしかめながら、あくびを一つするメイド少女。
持席《怠惰》:ピグリティア。
「もう、うるさいですね……。寝てるんですから、静かにしてくださいよ……」
「ピグリティア! あなたはなにを会議中に寝ているの! それに、メイドなんだから働きなさいよ!」
怒りから、髪を掻きむしるイラ。
頭を抱え、机に突っ伏すと、「ああぁぁ……」とうめき声をあげる。
「グーラとインヴィディアは出席すらしてないし……。こっちは大きい任務があるのに……!」
持席《暴食》:グーラ。持席《嫉妬》:インヴィディア。
数々の困難な任務をこなしてきた二人。
……なのだが、《暴食》のグーラは、少々の空腹で活動を停止させる。
《嫉妬》のインヴィディアは、他の人物が自分より成果を挙げると、それに嫉妬し、部屋に引きこもる。
会議中である現在は、食べ歩きと引きこもることに、それぞれ精を出している。
ここまでクセの強い二人には、さすがのイラも手を焼いていた。
「あのー……ワタシの話は?」
「ちょっと待ってなさい! アヴァリティア、二人を連れてくるわよ」
「グーラとインヴィディア? やめとこうよー。グーラなんて、前に食べるのをやめさせたら、噛みつこうとしてきたんだよ?」
「そんなこともあったわね……」
それに関しては、イラも目撃しているため、強くは言えない。
「それなら、ピグリティア、仕事よ。あなたの《言霊》を使って引っ張り出して来なさい」
《怠惰》に席を置く彼女の《言霊》は、《意気沮喪》。
意気込みが挫け、やる気をなくすことを指す言葉。
これは、相手からやる気を奪い、行動力をなくさせる能力。会議に出ない者は、ときどきこの手段で引きずり出される。
「面倒です。わたくしではなく、イラ様に譲ります」
「いらないわよ! アタシは仮にもリーダーよ?」
「成り行きで決まったリーダーではないですか。わたくしのメイド業も同じです。義務はありま――はぁ……話すのも面倒くさくなってきました」
グループの中で、唯一の反発を見せるピグリティア。
それが、さらに彼女の怒りに火をつける。
「こんのぉ……! ――《天変」
「――《意気沮喪》」
「うっ――。うあー……。なんかダルくなってきたから、今日は解散……」
イラが《言霊》を発動するよりも一拍早く、ピグリティアが発動。
怒りとやる気を一気に刈り取り、会議を終了させるまでに至った。
「うひゃぁ~、さすがはピグリティアの《言霊》。イラを一瞬で鎮めるんだからさ……」
渋い顔をしながら、アヴァリティア。
それに対しピグリティアは、さも当然とばかりにしれっとしている。
解散の声がかかり、バラバラと立ち上がり散っていくのを見ながら一人。
「ワタシの話はどうなったの!?」
ルクスリアの叫び声が、虚しくも部屋に響くのみとなった。
◇
「――それで、どうなったんですか?」
「ひとまずは追い返しました。辞職の選択肢を持たせたまま。あと、躊躇なく撃たれました」
「さすがは学院最強……あのルクスリアを岐路に立たせるとは。それに、銃撃を受けたことを平気な顔で言うのですから」
アイリスから問われ、そのときの様子を伝えると、先生が呆れたように首を振る。
なんだか、バカにされているようにも聞こえるのですが……
「やはり、《七色の大罪》がアイリス暗殺を企てているのですか?」
「いえ、私たちではなく上からの命令です。ルクスリアを抜いて、あと五人はいます。《怠惰》のピグリティアは、普段めったに動かないのですが、一番厄介でもあります」
なるほど……。先生は、元《七色の大罪》メンバー。貴重な情報源となり得るでしょう。
とはいえ、彼女が裏切らないとも限りませんが。
私としては、アイリスファンクラブのメンバー(勝手に入れた)のことは疑いたくありません。
今回の逃走も手助けしてくれたわけですし、もう足を洗ったと言っていいでしょう。
「これからは、先生が頼りとなります」
「今現在では、私だけが情報を握っているわけですからね。もちろんです」
「それでは早速。《七色の大罪》に、リーダーはいるのでしょう?」
「ええ、彼女は面倒ですよ」
面倒ですか……。リーダーとなると、かなりの腕であることが見込めます。
それこそ、私ですら、あっさり殺られてもおかしくないレベルで。
「もしや、腕が立つと思っていますか?」
「リーダーで面倒となれば、腕が立つのではないですか?」
「いえ、戦闘に関しては、メンバーで一番下と言ってもいいでしょう。厄介なのは、《言霊》のほうです」
なるほど、そう来ましたか。
確かに《言霊》であれば、身体能力の低さを補うことも可能です。
私も、今までの戦闘では、《言霊》を多用してきましたからね。その気持ちはわかりますよ。
「リーダー――イラの《言霊》は、さすがのあなたでも対処できませんよ」
「そんなものが……!?」
「すべてを破壊し尽くす、《全知全能》に次ぐ、強力な能力――《天変地異》です」




