5 一緒に暮らすってこういうこと?
朝起きてあまりにも静かだったから昨日のことは夢だったんじゃないかって思った。
西守さんには吸血鬼だってバレてなくて、一緒に暮らすこともなくて昨日のあれは全部私の夢だったんじゃないかって。
まぁ、当然そんなことはなくて。
西守さんは布団のなかで静かに寝息をたてて眠っている。
(夢じゃないのかぁ……)
これから私はこの子と暮らしていく。いつまでかは聞いてないけど、多分私が成人するまでだと思う。
そこに私の意思は関係ないんだろう。例え私が西守さんから逃げても簡単に見つかってしまう気がする。
逃げるなんてそんな面倒なことしないけど。
というか私が今一番気にしていることは西守さんのことじゃない。
自分の体臭を確かめる。昨日は疲れてお風呂に入っていないから臭いが気になって仕方ない。
(うん、別に臭くはないかな)
でも、やっぱり気になるので西守さんが起きる前にお風呂に入っておこう。
もし西守さんのあの綺麗な顔で臭いなんて言われたら私の豆腐メンタルがボロボロになってしまうから。
(西守さんならさりげなくお風呂進めてきそうな気がするけど)
あり得るな。
私は忍び笑いをした。
服を脱いでお風呂に入る。念入りに洗っておこう。西守さん相当嗅覚鋭そうだから。だって私の口から血の臭いがしたとか言ってたし。少量の血の臭いなんて普通のひとなら気付くことはない。西守さんは特別なんだろう。西守さんのような特別な人にこれ以上私が吸血鬼だってバレないようにしなければ。
全体を念入りに洗った後、浴室を出てまず濡れた髪や体をタオルで拭く。私のショートヘアなので髪の毛にそんな時間をかけたりしない。ほっといても勝手に乾くし、なんならもっと短くしたいくらいだがそれは私に残る僅かな女らしさが躊躇させた。
さすがにこれ以上短くしたら、男みたいだし。それはやっぱり嫌だ。
そろそろ肌寒くなってきたので服を着始めようとしたその時。
浴室を隠していたカーテンが開かれた。
カーテンを開いたのは西守さんだった。
まだ寝ぼけているのか目はあんまり開いていない。でも徐々に覚醒していき、自分がしてしまった失態にすぐ気づいたのか、素早くカーテンを閉めた。
その間、約3秒。
「ご、ごめんなさい!」
足音が遠ざかっていく。
私はというと状況を呑み込めずに固まっていた。
私が状況を理解して顔を真っ赤に染めるのにそう時間はかからなかった。