4 隠し事
西守さんは動けない私にかわって食器類を全部洗ってくれた。お風呂は朝早く起きて入ればいいし、今日はこのまま寝てしまおうと考えていた時、私は重要なことを思い出した。
「あ、一つ聞き忘れてた。西守さん、ちょっといい?」
「はい、なんですか」
「どうやって私の両親の居場所を知ったの?後、あの紙。お父さんに書かせたんだよね?お父さん、私の存在を誰かに知られるの怖がってるからそう簡単にあんなの書かないと思うんだけど……」
頑固だし。
「どうやって居場所を知ったのかは言えません。秘密事項なので」
「へー、そうなんだ。じゃあ、それはいいから他のこと教えてよ」
「田中さんのお父様は確かに田中さんが吸血鬼だってことを誰かに知られるのを怖がっていました。私が家にお邪魔したときも警戒していましたから」
「え、何て言って家に上がったの?」
「『田中さんと同じクラスの西守時音といいます。田中さんのことで重要なお話があるのですが少しお時間よろしいでしょうか』と言ったらすぐに上がらせてくれました」
お父さん慌てただろうなぁ。
「そんでどうなったの?」
「田中さんが吸血鬼だということを知っていると伝えて、田中さんの不安定さを伝えました」
「あー、遺伝子が変わるとかのやつ?」
「そうです。田中さんは不安定な状態なのでもしもの時私が止めますから、田中さんと暮らす許可をくださいとお願いしました」
「それであの紙かぁ……」
会ったばかりの西守さんのことを信用して私と暮らすことを許可するような人ではないんだけど……。
何か隠してるよね、これ。
(どうしよっかなぁ~……)
一旦お父さんに会いに行ってみようか。そしてお父さんの口から真実を聞く。それが一番手っ取り早いし、正確だ。
だけど、と尻込みしてしまうのは西守さんの言うことがすべて真実であることを恐れているから。
お父さんに会えば西守さんが嘘をついているのか、真実を語っているのかが分かる。
(だから嫌なんだよね……)
ま、先のこと考えても仕方ないか。
主なことは聞けたので、今度はとりとめもない質問をしてみることにした。
「私はもういいけどさ、西守さんの両親は吸血鬼の私と同棲させること良いって言ったの?」
「はい。そもそも私の家は吸血鬼を殺してきた家系ですし、両親とも反対意見は出ませんでした。それは田中さんが女性であるから、という理由もありますけど」
「じゃあ、もし私が男だったらどうなってたの?」
「その場合は弟が田中さんと同棲することになりますね」
「へー、西守さんて弟いたんだね」
「はい。歳は私より二つしたですけど、しっかりしたいい子で優しい子ですよ」
お、優しい顔してる。
二つ下ってことは中三かな。
私は一人っ子だから弟とか妹とかそういうのに憧れている節があった。今もその気持ちは少しはあるけど、どうせ出来たとしても近寄らせてくれないだろう。
だって今はやってないみたいだけど吸血鬼を殺してきた家系の西守さんを何も言わず寄越すくらいだ。お父さんからしたら私なんて死んでくれた方がましなんだろう。
そんなことずっと前から分かっていたから慣れっこだ。
だからへこたれたりしない。落ち込んだりもしない。
全然悲しくなんかない。
「西守さん、今日はもう遅いし寝なよ。布団使っていいから」
「? 田中さんはどこで寝るんですか?」
「ソファーかな。動くの辛いしね」
筋肉痛。
寝れば治るだろうけど結構辛いんだよね。私が吸血鬼だからとか関係なく筋肉痛になってる全世界の人が思ってると思う。
「わかりました。お言葉に甘えて布団で寝させていただきます」
「うん、そうして」
「田中さんは毛布一枚だけで大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ~。最近は夜でも暑いからさ」
「わかりました。持ってきますね」
「ありがと。襖の中にある毛布ならどれでもいいから」
「はい」
西守さんが毛布を取りに行ってくれた。私は仰向けに寝て、目をつむった。
今日はほんと色々ありすぎだ。
普段のザッ平凡な日々を過ごしてきた私にとって刺激が強すぎた。
色んな意味で。