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3 吸血鬼殺し

 西守さんが作ったカレーはとても美味しかった。

 店でも出せるんじゃないかってくらいの美味しさだった。その美味しさに思わず頬が緩んでしまい、それを見た西守さんが微笑ましそうに私を見ていた。その事に気づいて羞恥心にかられた私はお皿に残ったカレーを一気に口のなかに放り込み、喉をつまらせた。幸い西守さんが慌てて水を持ってきてくれたから一命はとりとめた。


(家で誰かと食事をするのが久しぶりすぎて忘れてたけど、楽しかったんだよねこういうの)


 昔を思い出して懐かしむ。

 でもここで流されるわけにはいかない。


「……西守さん」


「はい、何ですか」


「西守さんはどうして私に吸血鬼なのかとか聞いてきたの」


 そこが気になった。

 だって私学校でそこまで目立った行動を取ったことがないから。吸血鬼ってバレる以前に私に関心がある人なんていないと思う。友達だってあんまりいないしね。

 でも西守さんには気づかれてしまった。だからその理由を聞きたい。聞いて今度こそ吸血鬼だって気づかれないようにするために。


「においです」


「におい……?」


「はい。田中さんの口から血のにおいがしたので」


 ハッとなって口元を手で覆う。

 西守さんは私の反応を見逃さなかった。


「血を吸ったんですね」


「す、吸ってないし!そもそも吸血鬼なんかじゃないし!!」


「しらばっくれても無駄っていってるじゃないですか」


「うぅ……しょ、証拠でもあるの? 証拠がないんじゃそんなの思い込「ありますよ」……」


 西守さんはポケットからスマホを取り出した。そして写真を見せてきた。


「こ、これは……」


「これ、田中さんですよね。子供の指加えてほんのり頬を赤くして「わぁぁあぁあ!言わなくていいから!」


「それじゃ、認めるんですね。ここに写ってるのが田中さんだって」


「そ、そうだけど……これのどこが証拠なの?」


「ほら、田中さんの目赤いじゃないですか」


「え」


 スマホを貸してもらって写真をじっくり見る。

 確かにほんのり赤みがかって見える。


「普段はコンタクトで隠してるんでしょうけど、こうやって血を吸っていると吸血鬼は目の赤みが強くなっていくんです」


「……知らなかった」


「仕方ないですよ。このご時世、吸血鬼なんてほとんどいなくなっちゃったんですから」


「……」


「? どうかしましたか?」


「―――西守さん、あなた何者なの……?」


 吸血鬼のことに関して異様に詳しい。そしてあの紙。お父さんの筆跡でサインまで書かれていたあの紙はどうやってお父さんに書かせたのか。お父さんは私が吸血鬼だってことを知られるのを怖がっていた。だから納得できない。どうしてあの頑固なお父さんが西守さんにあの紙を渡したのか。


 西守さんは薄く微笑み。


「私の家は代々吸血鬼を殺してきた家なんです。さしずめ吸血鬼殺しってところですかね」


「吸血鬼殺し……?」


 サァーッと血の気が引いていく。

 え、もしかして私殺されちゃうの?


「先に言っておきますけど吸血鬼殺しをしていたのはもうずっと昔の話ですから。今は吸血鬼を殺すことはありません。最近の吸血鬼さんたちはとても温厚で普通の人より人間らしいですから」


「な、なんだ……」


 驚かさないでほしい。寿命が縮まったじゃないか。


「今は身勝手な吸血鬼さんと()()()()をするくらいです」


「は、話し合いって……?」


 強調していたように聞こえたので質問してみる。

 西守さんはニコッと笑って何も言ってくれなかった。つまりそう言うことなんだろう。


 私はこの日、西守さんは絶対に怒らせないでおこうと誓った。


「ん? じゃあさ、私と暮らす意味ってあるの?」


 さっき聞いた限りじゃ吸血鬼殺しさんは話を聞かない自分勝手な吸血鬼だけに折檻しているっぽい。ならどうして私と暮らす理由がある?


「私、自分でもいうのもあれだけど自己主張強いタイプではないよ?」


「はい、知ってます。ですが、田中さんはまだ未成年ですからこれから吸血鬼の遺伝子がどう変わるか分かりませんし、そうなったとき田中さんをとめる人が必要になると思うので」


「え、吸血鬼の遺伝子って変わったりするの?」


「はい、ごく稀にですけど」


「そうなったらどうなるの?」


「軽い人なら吸血鬼の特徴が濃くなるだけですけど、ひどい人は自我を失って人を襲うことがあります。でも、それも一時的なものなので何ヵ月か経てば治りますから、こちらとしても殺す必要はないんですよ」


「そ、そうなんだ……」


 綺麗な顔で物騒なことを平気で言う。私の心臓が色んな意味ドキドキしていた。


「もし田中さんに何かあったら私が全力で何とかしますから安心してくださいね」


「う、うん……」


 どうしよう。さっきので西守さんといる方が危ない気がしてきた。

 けど、もし私に何かあったとき止められるのは西守さんだけなんだろうし他の人に迷惑をかけるのは嫌だ。なら西守さんの側にいる方が何かといいんだろう。

 完全に信頼はしちゃいけないと思うけど。


「えっと……これからよろしくね、西守さん。一緒に住むわけだし」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 不格好に笑う私とは違い、微笑む西守さんはとても綺麗だった。女の私でも見惚れるくらいの顔立ち思わず動悸を早める。


 私こんな綺麗な子と同棲するんだ……。


 急に実感が湧いてきてこれからどうなっていくのか、と不安にかられた。

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