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17 目覚めて

 吸血鬼殺しと呼ばれる意味を小さい頃は単純に考えていた。

 吸血鬼を殺してきたから。

 ただそれだけだと思っていた。


 お母さんから本当の意味を聞かされたのは小学四年の秋頃だった。


 その日から私は自分の体が気持ち悪くて仕方がない。


 体内で循環している血液の中に吸血鬼を食べた人間の血が流れていると思うと吐き気がする。


 実際にお母さんから聞かされたとき私は吐いた。


 私は人に触れられるのが苦手になった。

 触れられたら自分が汚い存在だと知られてしまうんじゃないかって怖かった。

 それは今でも変わらない。



 静かな部屋に田中さんの寝息が響く。

 私は頭を撫でる手を止めて田中さんの寝顔を観察した。


 少し口を開けて寝ている姿は子供みたいで可愛らしい。

 田中さんは面白い人だ。

 表情豊かで思ったことが直ぐに顔に出る。

 素直な性格なのか嘘をつくのが下手ですぐにバレる。


 田中さんはいつも通りだった。

 本当の意味を知っても彼女はいつも通りで、普通すぎて。

 私はそれが嬉しくて気がついたら彼女の頭を撫でていた。



 恥ずかしがって目を逸らしている姿がこれまた子供のようで癒された。



『あいつを……咲をお願いします』



 不意に思い出す。

 そう言ってきた田中さんのお父さんの声は震えていた。

 あの人は決してこの人を突き放したかった訳では無いんだろう。

 ただ、守れる範囲に限度があっただけなんだ。



 なら私が守ろう。

 あなたが出来なかったことを私がしよう。


 だからどうか―――。




 ◇





<田中咲>




 普通が良かった。


 私が普通ならお父さんが私を怖がることもなかったはずなんだ。

 なんの力もない子供を怖がる理由なんてどこにもない。


 私さえ普通だったら………












 なんて考えても仕方ない。

 瞳が赤いのも傷の治りが早いのも傷を舐めれば治ってしまうのも全部私なんだから。


 そうやっていじけて下ばかり見ても楽しくない。

 私は楽しく楽に生きたいんだ。


 私はまだ人生の半分も生きていない。

 半端者だ。

 それはみんな同じなんだ。



 たまに暗い感情に流されそうになるけどそういう時は目を瞑って深呼吸をする。

 それを何度も繰り返す。


 そうすると少しスッキリする。

 モヤモヤしているのは変わらないけどそれでも幾分かマシになるんだ。


 本当によかった。

 単純で嫌なことから逃げるのが得意で。

 本当に、良かった―――。




 〜〜〜〜



 目を覚ますと美の集合体が無防備に微笑んできた。



「おはようございます、田中さん。よく眠れましたか?」



「……近くない?」



 なんとか声を発することが出来た。

 寝起きにこんな大層なものを見せられたら困る。

 それもこんな至近距離で。



「田中さんの寝顔を観察してました」



「ずっと?」



「違いますよ。少し前からです。可愛い寝顔でしたよ」



 その一言に顔に熱が集まる。

 恥ずかしすぎる。

 寝言はいってなかっただろうか。

 白目を向いていてはいなかっただろうか。



「見ていて癒されました」



「……そういうこと言うの恥ずかしいからやめて欲しい」



「本当のことですよ」



「そういうことじゃないっ」


 西守さんは可笑しそうに笑う。

 だからそうやって無防備に笑うのはやめて欲しい。

 思わず見とれてしまう。




「体調はどうですか?気分は悪くありませんか?」



「ん、もう大丈夫。寝たらスッキリした」



 起き上がろうとした時、ドタバタと大きな音を立てて誰かが部屋に入ってきた。



「姉ちゃん!」



 入ってきたのは西守さんの弟、蓮くんであった。

 彼は私たちを見て固まった。


 かと思えばプルプル震えだした。

 不思議に思っていたら彼は私を睨んで叫んだ。




 「俺お前のこと嫌いだ!!」



 その一言に私は怒るでもなく悲しむでもなくこう思った。



 子供みたいだ、と。

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