13 弟くんとの初めての対面
「田中さん、ほんとに私が食べたいもので良かったんですか?」
買い物した帰り道。
また始まってしまった。
西守さんの謎の謙虚。
細やかな気遣いができるのは良いことだと思うけど、こう何度も聞き返されると少し面倒に感じてしまう。
「気遣いすぎだって。私も魚好きだし、なんなら今日魚の気分だったしっ」
「田中さん魚よりお肉の方が好きですよね?」
鋭い。
確かに私は肉が一番好きだ。
だけどずっと肉ばかり食べていたら健康に悪いし、そろそろ肉以外のものも食べなきゃと思っていたのだ。
魚だって普通に好きだし、西守さんがこんなに謙虚になる必要はない。
って言っても納得しないんだろなぁ。
仕方ない。
「お肉も魚も同じくらい好きだけど?」
「……ほんとですね?」
「ほんとほんと」
適当に言葉を紡ぐことにした。
やっぱり西守さんは納得いかなそうな顔をしている。
うん、薄々気付いてはいたが西守さんて結構めんどくさいよね。
別にそのことに対してイライラはしていない。
ただ、困るなぁって思う。
こんな調子じゃあいつまでたっても私と西守さんの間にある壁を乗り越えることができない。
一緒に住むうえで西守さんと不仲になってしまったら色々と都合が悪い。
それに隠していることも聞き出せない。
いつまで一緒に住むことになっているのかと、西守さんに聞いてみたところ私の予想は当たっていたみたいで成人、つまり私が二十歳になるまでだと言われた。
多く見積もれば四年は一緒に住むことになる。
その間、西守さんが何を隠しているのかを聞き出さなければならない。
お父さんにも夏休みになったら一度会いに行こう。
お父さんはいやがるだろうけど、こればっかりは仕方ない。
あっちが勝手に西守さんを寄越してきたんだ。
そもそもの原因はあっちなんだし、なんの問題もない。はずだ。
「姉ちゃん」
西守さんとの今後のことを考えていたら、前方から声がかかった。
少しハスキーだけど、聞き心地のいい声。
見ればそこには美少年が立っていた。
「蓮くん……?」
西守さんがその美少年に反応する。
知り合い?なんて聞く必要もない。
こんなに美しい顔立ちをした人がこの地域にそういるものではない。
さっき姉ちゃんて言ってたし、前言っていた弟だろう。
西守さんにあんな優しい顔をさせる弟くんのことが少し気になっていたから、何だか特をした気分になる。
「何してんだよ、姉ちゃん……」
「いや、その……」
あれ?
なんだか空気が重くありません?
「家に帰ったらいなくなってるし、親父に聞いたら同棲してるとか言うし……」
「ど、同棲っていっても女の人とだからそんなに心配しなくても大丈夫だよ?」
「女ぁ?」
すっごい鋭い目付きで睨み付けられた。
西守さんの弟くんが私に近寄ってくる。
怖いんだけど。
逃げ出したいんだけど。
早くお家帰りたいんだけど……!
「始めまして、西守蓮って言います。失礼ですが貴方が姉と同棲している人ですか?」
「は、はい。そうです……」
「そうですか」
ジーっと見定められている気がする。
現にジロジロと私のことを見てるし。
助けを求めて西守さんに目をやると、ハッと我に返ったように厳しい顔つきになり、弟くんに注意する。
「蓮くんっ、失礼だよ!初対面の人にその口の聞き方はダメだって。年上でもあるんだから」
「ふーん」
聞いてないよ。
あなたの弟くん全然あなたの話し聞いてないよ。
西守さんもその事に気づいて、怒った顔になる。
「田中さん、この子は放っておいて家に帰りましょう」
「え、でも……」
「礼儀がなってない人は放っておくに限ります」
いやいや、それ貴方が言う?イロイロと段階ぶっ飛ばして私の家に住み着いた貴方が言うことですか?
と思ったが、口には出さない。
この場から逃げたい気持ちの方が何倍も強いからだ。
「行きましょう」
西守さんが私の手を引いて歩きだした。
弟くんはまだ厳しい目付きでじっ私のことを見つめてきていた。
結局、私は西守さんに引っ張られるまま歩き進み家に帰った。