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12 西守時音という人物

 私は西守時音という人物を誤解していたようだ。


 西守さんと暮らすようになって私はそんな風に思うようになった。


 学校での西守さんしか見たことなかった前の私は、西守さんの事を漫画の中に出てくる可愛くて、頭がよくて、優しくて、何でもできでしまう完璧超人だと思っていた。


 だが、実際は全然そんなことはなかった。


 ……いや、大体はあっているのだが、西守さんは時折抜けているところが見られる。


 例えば、ちょっとした段差に気づかずつまずいてしまったり、小さな寝癖をなおさないでそのまま學校に行こうとしたりと何かと抜けている。


 そして、その度に私の中の何かが撃ち抜かれている感じがする。


「んー……」


「考え事ですか、田中さん」


「うん。学校での西守さんと家での西守さんを見てたらなんか感慨深い気持ちになっちゃったって言うか……」


 家ではのほほんとした感じの西守さんだが、学校では家での出来事が嘘かのように隙がない。

 美少女はそういうものなのだろうか。


「? 全くわかりません。田中さんが見ている私はどんな感じなんですか?」


「一言で表すなら美少女」


「へ?」


 ……はっ!しまった!


 つい本音がポロっと……


「そ、そ、そそそそそうですか……」


 ……めっちゃ動揺してますやん。


 極め細やかな頬っぺたを赤く染めてうつむく西守さん。


 ―――どうしよう……つられてこっちまで恥ずかしくなってきたんですけど!



 お互い顔を真っ赤にしてうつ向き合う。


 ええい!これじゃ埒があかない!


 考えてみれば西守さんが美少女なのは紛れもない事実なんだし、事実をいって何恥ずかしがってんだって話だ。


 とにかく話題を変えようと口を開こうとしたそのとき。


「えーっと……ありがとう、ございます……」


 西守さんが顔を真っ赤にしながら必死にお礼の言葉を口にした。

 普段から容姿の事を褒められていると思うのだが、どうしてこんなに照れているのかがわからない。


 もしかして西守さんて初なの……?


 容姿を褒めただけなのにこんなに顔を赤くするのだ。

 きっとそうに違いない。

 そういえば料理を褒めたときも顔を赤くして照れてたっけ……。


「ど、どういたまして……」


「……」

「……」


 会話がない。

 お互い気恥ずかしくて顔が見えない。


「わ、私っ、晩ご飯の材料買いに行ってきますね……!」


「そ、それじゃ、私も着いてくよ……!」


「え?!」


「前に言ったでしょ。材料買うときは私も着いてくって。その方が私も食べたいもの提案できるしいいでしょ?」


「そ、そう……ですね……」


 西守さんらしからぬ乾いた笑い声を出す。

 私も何だかいたたまれなくてそんな笑いかたになっていたと思う。




 ◇




「……今晩は、何が食べたいですか?」


 一緒に家を出たのは良いものの会話が一つもない、と気まずさを覚えてきた頃に西守さんが聞いてきた。


「んー、たまには西守さんが食べたいものにしない?」


「そんなの悪いです。居候の身ですから気にしないでください」


「いや、気にしちゃうから。西守さん好きな食べ物とかないの?」


「……あるにはありますけど」


 少し言いにくそうにしている西守さん。


 不法侵入まがいのことは出来るのにどうしてこんな所で気遣ってくるのか。

 不思議だ。


「じゃあ、それ!今晩のメニューはそれに決定!ちなみどんな料理なの?」


「料理と言うか……鯖を焼いたものとご飯と味噌汁が好きなんです」


「お、いいじゃん。鯖の塩焼きとか美味しいよねぇ」


 ご飯が進むね、こりゃ。

 西守さんの料理はどれもおいしくてほっぺが落ちるほどだ。


 でも以外だなぁ。


「西守さんて私のなかで洋食のイメージ強かったけど、和食が好きなんだね」


「はい。洋食も好きですけど、私お米と魚が好きなので家ではよく和食を食べてました」


 西守さんの家かぁ。

 吸血鬼殺しとか言ってたけどあれはほんとなんだろうか。

 あのときは慌てててすっかり信じちゃったけど、普通に考えて吸血鬼殺しなんて本当にいるのだろうか。


「ねぇ、西守さん。吸血鬼殺しってほんとにいたの?」


「いましたよ」


 即答。


「具体的にどんなことしてたの?」


「その名の通りですよ。吸血鬼殺しは吸血鬼を殺す事を役目とした人たちのことです。吸血鬼を殺す事を生き甲斐としてきた人たちともいいますね」


 ゾクッ。


 殺しに生涯を捧げた人たちって……。


「狂ってますよね。私は、小さい頃聞かされたときそう思いました。吸血鬼っていったって姿は人間と同じようなものじゃないですか。それこそ田中さんみたいに」


「う、うん」


「確かに悪い吸血鬼もいたんでしょうけど、良い吸血鬼だっていたと思うんです。吸血鬼だからって殺すのって馬鹿馬鹿しいと思いませんか?」


「……うん」


「私は、そんな人たちの子孫なんです。田中さんは怖くありませんか?」


「え」


 西守さんが怖い?

 この天使な西守さんが?

 んー……


「怖くない、かな。吸血鬼殺しの人とかよくわからないけど西守さんは全然怖くない。怖いなんて思ったこともないけど……」


「……そうですか」



 え、また黙っちゃうの?

 私変なこといった?


 結構真面目に考えて言葉を選んだつもりなんだけど……。



「……やっぱり、田中さんは良いですね」



 西守さんは頬を緩めて、はにかんだような笑顔を浮かべる。



 ……褒められた、のかな?





 良くわからないけど、西守さんが笑っているから良しとしよう。


 


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