10お金問題ははっきりと
家に帰っても気まずい空気は続くのかと思っていたらそんなことはなかった。西守さんは普段の感じに戻っていた。いったい先程の西守さんは何だったのか。家に帰っても引きずっていた私だったが、西守さんが作った晩御飯を目の前にして他のことなど考えられようか。
「んぅ~! すっごく美味しい!」
「それは良かったです」
私は西守さんの作った煮込みハンバーグをよくかんで味わっていた。西守さんは嬉しそうにはにかみながら満足そうに自分用の煮込みハンバーグを口に放り込んでいる。
「朝は色々あって気づかなかったけど作りおきしてたんだね」
「はい、帰ってくるのが遅くなるのは分かっていましたから」
それにしても昨日作ったカレーといい、今日の朝ご飯といい。どれもお店に出せるんじゃないかってくらい美味しかった。
毎日インスタントとか冷凍食品ばっかり食べていたから余計にそう感じさせるんだろうか。やっぱりご飯は手料理が一番美味しいよね。
ま、それはそれとして。
「……西守さん、この煮込みハンバーグの材料とかカレー入れてたあのお鍋ってやっぱり自腹で買ったんだよね?」
私の家にはカレーや煮込みハンバーグを作るほどの材料もお鍋もフライパンも揃っていない。一人暮らしをし始めてからは冷凍食品しか食べてこなかったから揃える必要がなかったんだ。
「何円したの?お金払うから教えて」
「大丈夫ですよ。鍋もフライパンも家から持ってきたものですし、材料だってそんなに高くありませんでしたから」
「そういうわけにはいかないでしょ」
「本当に大丈夫ですから。田中さんの家に住まわせてもらっているんですからこれくらい当然です。家賃は田中さんのお父様が払ってらっしゃるんですから気にしないでください」
気にするなと言われれば余計に気にしてしまうのが私の特徴なのだが。
「あんまり高くなかったとしてもお金問題でいざこざになりたくないの、私は。何ヵ月もたてば西守さんだけが結構お金使っちゃうことになるんだよ?それは良くないって」
「でも……」
「でもは禁止です。はい、早く値段いってください。一緒に住むなら小さなことでもきちんとしないと後々大変なことになるんだからね」
「……わかりました」
材料費は言っていたようにそれほど高くなかった。だけど何ヵ月もたてば十万は軽く越えてしまうことだろう。
「今度から一緒に買い物行こうよ。その方が私も食べたいものとか言えるから良いでしょ?」
「……わかりました。でも良いんですか?」
「ん? なにが?」
「私と一緒にいるところ見られるの嫌なんじゃないですか?」
拗ねたように目線を横にずらす西守さん。
私は首をかしげた後、笑った。
「あはは、西守さんて結構根にもつタイプ?」
「そ、そんなことっ、ないと……思いますけど……」
段々自信をなくしていったのか勢いがなくなっていった。
「もし私に何かあったら西守さんが守ってくれるんでしょ?」
私の言葉に西守さんは驚いたように目を大きく見開いた。
あんなに宣言してたんだ。
私はあの宣言に甘えることにした。
「ま、守ります!田中さんのことは私が絶対に!」
「うん、ありがと」
すごい勢いに少し引いてしまったが、西守さんの目は真剣だった。
真面目だなぁ。
私のこと守るようにって言われてるもんね。だからあんなに私の側にいたがるんだろう。
「あ、でも学校で一緒に行動するのはなしね」
「え、一緒に買い物はいいのに、どうして学校で側にいるのはダメなんですか?」
「自分から争いの種作りたくないから」
それに西守さんにはあんまり迷惑はかけたかないし。私のこと絶対守るとか言ってるけどそれって逆効果だと思うんだよね。西守さんのファンの中には西守さんのことを思って私から遠ざけようとする人もいるだろうし、そうなった場合西守さんは全面的に私の味方をしてくれるだろう。それでまた色々とややこしくなっていくことが容易に想像できてしまう。
「西守さんもできるなら誰とも争いたくないでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
「だから学校では別行動。ね? もし西守さんと暮らしてくことが同級生にバレたら学校でも一緒にいることにしよ。でもバレなかったらこのままでいこうよ」
「……それが田中さんの望みなんですか?」
「うん」
「……わかりました」
「やったっ。ありがと、西守さん」
「でも、同棲がばれたら学校でも一緒にいますからね」
「うん、いいよ」
「絶対ですからね」
「分かってるって」
思いの外西守さんがひつこかったので、私は困ってしまい苦笑を浮かべるばかりだった。