1 はじまり
私こと田中咲はなんの変哲もない普通の生活を送っている。朝起きたら顔を洗ってご飯を食べる。学校に行く準備をして家を出た後、コンビニにより昼御飯にする菓子パンやお弁当を買う。時間があれば本を立ち読みしてから学校へ向かう。
教室のなかに入れば数人の生徒が椅子に座ってスマホをいじったり、友達とおしゃべりをして笑いあったりしている。私はどちらかというと前者の方で生来の人見知りなせいもあり自分から話に行くことはほとんどない。でも友達がいないわけでもなく、それなりに充実した日々を送っている。
そんなザッ平凡な私だけど今ものすごい状況に立たされています。
「田中さんて吸血鬼ですよね?」
そう言ったのは同級生で同じクラスの西守時音さん。彼女は凡人な私と違ってすごい人だ。成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、質実剛健といった四字熟語がお似合いな人である。
私は放課後、西守さんに呼び出しを食らった。重要な話があるとかなんとかで。
そして今、私は促されるまま西守さんに着いていき、校舎裏まで来ている。西守さんは真剣な表情で真っ直ぐ私を見つめてくる。
「な、何言ってるんですか……? 吸血鬼って……そんなのいるわけないじゃないですか。……あ、もしかして西守さんてオカルトとか好きなんですか? ごめんなさい、私そういうのよく分からないので他を当たってもらえます?」
笑顔を浮かべて流す。いやぁな汗が背中から出てるけど気にしない。
「……そうですか。分かりました」
案外すんなりと受け入れてくれた。拍子抜けしたが、今が帰れるチャンスである。
「じゃ、じゃあ、私はこれで「なんて、簡単に言うと思いましたか?」……え?」
「誤魔化しても無駄ですよ。調べはついているんですから」
「な、何いってるの?」
「……田中さん、あなた一昨日誰かの血を飲みましたよね」
「なんで私が血なんか……」
「嘘をついてもダメ。私には分かるの」
やばい。私の本能が悲鳴をあげている。はやく彼女から離れないといけない。じゃないと取り返しのつかないことになる。
「あー!私お母さんに買い物頼まれてたの忘れてたー!ごめん西守さん、私もう帰るね!」
逃げるが勝ちだ。
まず早足で歩いて角を曲がったら全力で走ろう。できるだけ西守さんから離れよう。うん、そうしよう。
「田中さん一人暮らしですよね?」
ギクッ。
「ご両親とはもうずいぶん前から会ってないんじゃないですか?高校受験に合格したと知るや否や田中さんは一人暮らしを強要されたと伺っているんですけど」
「……」
「あ、その様子ならビンゴみたいですね。よかったぁ。これで外れてたら恥ずかしすぎますからね」
ニコッと私に笑顔を向けてくる。
ブルッと身震いする。まるですべてを知っているかのような口ぶりだ。
私は西守さんの様子を見て理解した。これはもうダメだ、と。
なら私がとるべき行動は何か。
それは――――
「ふん……っ!」
「え……」
何も言わず全力疾走で西守さんから逃げる。
西守さんは私の行動が予想外だったのか呆然と立ち尽くしていた。
私は走り続けた。
とにかく走った。
家まで走った。
家についた後、疲れたのでソファーに寝転んで眠りについた。
私、運動はあまり得意じゃないのです。
足腰が悲鳴をあげて辛いです。
泣きたいです。
ぐすん。