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陸ノ月;  指輪

「少し休もう、水脈に出ても、近くの町までは1時間以上歩かなければならない」

 地下を歩き続けて一時間ほど経って尚吾さんはそこら辺から適当な石を持ってきて、休憩するように促がしてきた。私はその言葉に甘え、石に腰を掛け、休憩を始める。

 実際、こんなに長い距離を歩いたのは久しぶりで足も少し疲れていた。


「俺の懐中電灯を付けておくから、あんたの懐中電灯は切っといてくれ。水脈を歩いている時に2つとも切れましたじゃ洒落にならないからな」

「わかりました」

 私は、懐中電灯のスイッチをOFFにする。


「あんた、さっき言ってた。『優一』って彼氏かい?」

「いえ、…………私の、おっと……です」


 自分ではわかっていることを言うのは少し恥ずかしいが、まあ隠すこともない。


「そうか、あんたみたいな美人な人を貰えるなんてね、その『優一』って奴は運が良いな」

「……いえ、そんな事はないです。まだ、結婚して1ヶ月ぐらいしか経っていませんし……」


「! そうか……なら、何としてもあんたをここから脱出させねぇとな」

 尚吾さんは少し驚いたような様子を見せると、急に穏やかな表情になり、私にそう言って来る。


「尚吾さんは?」

「ん…………ああ、俺も妻と子供がいるな」


「今は?」




「『月の満ち欠け』が始まって直ぐ、この町から脱出させたよ、多分今は窮屈な生活をしているだろうがな」

「窮屈な生活?」

 その言葉に私は、ふと疑問を抱き、聞き返す。


「ああ、『月の満ち欠け』は発症してしまうともう治せないが、発症する前にその伝染区域から抜けて暫くすれば、発症はしないんだ。だから、今、俺の家族は隣町の緊急倉庫で軟禁されてる。まあ、軟禁といっても食べ物もあれば、トイレも風呂もある。空が見えないだけだから、暫しの辛抱って奴だ」


「そうなんですか」

「おっと、長く話しすぎたみたいだな、もう大丈夫か?」

 尚吾さんは腕につけていた時計を見て、私に聞いてくる。


「はい、十分休憩も出来ましたし、行きましょうか」


 私と尚吾さんは2人で頷き、そのまま長い地下をゆっくりと前進していった…………









 カツンッカツンッ



 俺の靴が地下への階段を踏みしめるたびにカツンッと言う音が鳴り、反響し俺の耳に届く。

 手に入れた懐中電灯は切れることなく俺の行く先を照らし続けてくれている為、俺は順調に長い地下への階段を降りていた。

 日の光が無いせいか? 時期は夏と言うのに肌寒い。薄い長袖を着ていた俺にはこの肌寒さが少々気になる。



「終わったのか?」

 段差の終わりが見え、俺は地下の地面に降り立つと、懐中電灯で周りを照らす。


「ん? …………これは?」


 俺は足元に何か光る物を見つけ、照らしながら近づいてみる。



「指輪…………か?」

 少々歪んではいるが、確かにこれは指輪であった。ふと、朱里の物かと背筋を凍らせるが、良く見てみるとデザインから大きさまで全然違うものだった。

 大きさからして、男物であろう。多分、ここに逃げ込んだは良いが力尽きて倒れてしまったのであろ…………ん? 待てよ。

 俺は一瞬、大切な事をスルーしてしまったと思い、もう一度良く考える。



「『ここに逃げ込んだは良いが力尽きて倒れてしまった』なら、死体は何処だ?」



 俺は裏側に名前のイニシャルが入っていることに気付いたからこれが指輪だとわかったんだ。

 この指輪はもう原型を留めておらず、イニシャルは擦れて読めない。


 ここまで破損している指輪なのに、何故、血の一滴も付いていない? 外れた指輪の血を態々ふき取り、そのまま息絶えたのか?


 やはり、どう考えても疑問が、残る。

 もし、血をふき取り息絶えたのなら、死体は何処に行った? もし、まだその男が生きているなら何故、血までふき取った指輪をその場に置いて行った?



 壁に飛散した赤い染みから凶器は刃物や重量のある鈍器と言う事は推測できる。


 部屋一面に血が飛び散っているのだ、もし、この場で殺された男がいるのなら、何故犯人は武器を持ち替えた? そのまま刃物や鈍器でよかったはずだ。


 俺は、違和感を覚え、辺りを懐中電灯で照らす。

 しかし、他には光に反応するものはなく。

 もちろん死体や犯人の人影もない。



「急いだ方が良いかもしれないな……」




 俺は不安を胸にしまいこみながら呟き、そのまま地下の通路を駆けていった…………




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