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参ノ月;  満ち欠け

 私はどこかもわからない暗い地下室で目を覚ました。



 何故ここに居るかは覚えていない。



 私は身体を起こし、とり合えずこのくらい部屋に僅かに差す光。つまり出口へと見にくい足元を確認しながら一歩一歩進んでいった。



「ここは……何処?」

 見たことの無い風景。ただわかるのは標識や町並みから見てここが日本であるというだけである。

 私はふと、ポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話を取り出して優一君に電話をかけようとする。


「あれ? ……圏外?」

 携帯電話の左上には確かに『圏外』と言う文字が刻まれ、電話をかけても優一からの返信は返って来ない。

 私は誰もいない町で、1人、孤独を味わい。初めてこの恐怖に気が付いた。右を向いても左を向いても、誰一人、いや生き物すらいない。

 目に入るのは車や町を彩るビルのイルミネーションだけである。



「優一君を探さなきゃ……」


 誰もいない町。どうやってここに来たのかもわからない状態で私は自然とこの町には優一君もいると脳が、かってに断言する。

 何の根拠も無い断言なのだが、私の第六感がそういっているのだ。

 優一はこの町に居て、今私のことを探してくれていると……


              ガタンッ


「っ!?」

 私は不意をつかれた大きな音に驚き、悲鳴を上げそうになる。

 私はその音のしたほうをゆっくりと見つめる。




「? 優一君?」

 霧の向こうに見えたのは、何度も見た愛しい彼の背中に間違いは無かった。例え霧で隠れていてもあの背中を間違えない自身が私にはあった。


「待って! 優一君」

 私は走り出した。走るのは余り得意ではないのだが、優一君は慌てて自分のことを探してくれていると思うと、自然にそれも苦ではなかった。

 私は霧を抜け、うっすらと映る背中を追うと……




「ここは? 旅館?」


 古い、純和風造りの旅館がそこには立っていた。

 引き戸になっている旅館の裏玄関は微かに、それこそ人一人分が通れそうなぐらいの隙間が空いていた。



「ここに優一君が?」


 私は再度、その旅館を見上げる。



 純和風造りの旅館は空を包む霧を被りながら、そこに静かに佇んでいる。

 ただ、この旅館は人をひきつけるような引力を私は微かながら感じ取った。

 ここにいてはいけない! 私の心はそう思った。


「だけど、ここには優一君が……」


 そう、愛しい彼がこの旅館の中に入って行ってしまったのかもしれない。

 もし、そうだとしたら、この危険な旅館のことを伝えないといけない。

 私はそう思うと、もうこの旅館を怖いとは思わなかった。




 次の瞬間。私は旅館へと一歩、また一歩と足を進めていた……







「……優一君?」

 私は恐る恐る、その旅館の中に足を踏み入れると、そこは大きなロビーになっており、中は荒れて、廃墟の様になっており広いロビーには窓からうっすらとした光が差し込み違和感のある旅館の様子を更に加速させる。

 しかし、ここで戻ることはできない。

 私はゆっくりとロビーの奥に進んでいく。


「優一君! 私! 朱里だよ。返事して!」

 私が出した大声は一度奥の暗闇に吸い込まれ、数瞬のうち山彦やまびことなり返って来る。

 もちろん耳を澄まして聞いてみるが、物が動く音や優一からの返事は返って来ない。

 聞こえてくるのは反響し、段々小さくなってくる自分の声のみであった。





「優一君? ……何処にいるの?」



 私は心の中からこみ上げる孤独感を心に留めて置く事が出来ず、思わず声に出してしまう。



         コトンッ


「えっ?」


 不意に、私の耳に物音が聞こえてくる。

 別にこれは空耳とかではない。確かに聞こえてきた音である。

 私はその物音の方向へ進む。


「これは…………懐中電灯と? …………封筒?」



 カウンターの裏側に災害用の懐中電灯と、一通の封筒が置かれていた。しかし、先ほど聞こえた物音の正体はわからない。周りに動かせるような物はなく、辺りに散らばっている物はどれも軽いものばかりで自分の耳に届くほどの物音が鳴るとは思えない。

 とはいえ、何も手がかりが無かったこの町でやっと手がかりになりそうなものを見つけた。私は閉じられている封筒を懐中電灯で照らしながら中の手紙をゆっくりと引き出した。







「――――!?」


 私は驚愕の余り、懐中電灯と手紙を取りこぼし、甲高い悲鳴を上げてしまう。

 身体が震える……しかし、私はゆっくりと取りこぼした手紙を震える手で持ち、読み始める。


「これは……血…………だよね?」


 手紙は真っ赤に染められており、文字がかすれている所から見ると殴り書かれた事がわかる。

 まだ、震える手が止まらない。私は震える手を自分で握り、大きく深呼吸をしながら、自分の身体を制し、そして文字を読み始める。




『    始ま  っ てし まった    月の満 ち  欠けが   

                 もう止め  られ な   い。    始まる     最後の     時が  

      殺     され

             る   』




「なに? これ、何なの? この町で…………何が起きてるの」






 止まったはずの震えは再度始まり、私は初めてこの旅館の真の恐ろしさに気が付いたのであった…………



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