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弐ノ月;  霧

「ねえ、優一君。見える?」

「ああ、見えるよ」

 俺より頭2つ分ほど小さい少女は俺にじゃれ合うようにして俺に擦り寄ってくる。



「ねぇ、優一君?」

「なに?」

 愛しい彼女は俺の顔を不安げに上目遣いで見上げてくる。俺はそんな彼女が堪らなく愛しくなり、彼女の頭を優しく撫でる。

 彼女はまるでじゃれあう猫の様に俺の手を受け入れ、頭をもっと触ってと言うように身体を近づけてくる。



「ずっと……ずっと、一緒にいようね。優一君」





「ああ、ずっと、一緒だ。離さない、絶対、一緒に居よう、朱里あけり





 俺と朱里はその日、永遠の愛を誓った……












 何で、ここに居るのだろう?

 俺は信号の壊れた横断歩道を渡っていた。

 道路を通る車どころか、辺りを歩く人すら居ない。



 誰もいない。俺は朱里を探していた。


 俺はどうしてあの、暗い地下室で横たわっていたのだろう?


 思い出せない、目が覚めたときには暗い地下室に横たわっておりとり合えず、今の状況を確認しようと飛び起き、俺はこの誰もいない町に出てきていた。




 携帯電話は圏外のまま動く気配も無い。朱里に連絡を取りたいのだが自分の現在地もわからない状態では連絡の取りようも無い。



 標識や町並みから言って、ここが日本なのは確かなのだ。しかし、町は深い霧に包まれ、10m先はもう、白い霧に包まれており見えない。




       カタンッ   


「誰か居るのか?」

 視界が限られている中で唯一研ぎ澄まされていた耳が不審な音を聞きつけ俺は振り向く。

 振り向いた先には誰かの影が目に映り、その影は奥にある建物に入っていった。



 もちろん、俺は追いかける。この不可解な町でただ1つの手がかりを見つけたのだ。追いかけない理由が無い。






「ここは…………旅館か?」


 影が消えて行った場所は大きな旅館だった。

 その旅館の玄関はまさに今、誰かが入ったかのように止まっているはずの自動ドアは、人一人分。小さく開いていた。



「ここに、誰か居るのか?」






 一度、旅館を見上げた俺は、一瞬、今まで味わった事の無い恐怖に陥る。

 悪寒――なんてものじゃない、これは絶望――



 何者も寄せ付けない、真っ黒な絶望の色が旅館を纏っている。



 逃げ出す事も出来る。しかし、今はこの不可解な状況で朱里を探す事が必要とされる。

 こんな状態だ。朱里を一刻も早く見つけてあげないといけない。





 俺はそう思い、額にうっすらと浮かぶ汗を軽く拭い、その絶望の旅館へと、入っていった


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