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拾漆ノ月; 火の瞳

始めの、残酷的描写が〜〜を消して見た。

当初考えていたより、あんまり怖くなかったのがその理由。

まあ、大丈夫ですよね?

「ハハッ! ……なんだよ、ニセモノって……僕はちゃんとした人間で、その……えと…………これは  僕の  意  思で」

 少年の言葉がたどたどしくなっていくのを俺は聞き逃さなかった。

 気付いた時には少年の歯車は狂っていた。少年はただ、俯いたまま笑う。

 ただ、その笑みに先ほどの余裕はない。それは、まさに破滅への笑みに、俺は感じた。


「なら、その花を作ったのは誰だ?」

 俺は少年が持っている花へ指を指し、トドメと言わんばかりに最後の疑問を少年にぶつける。

 これは非情なのかもしれないが、この惨劇を引き起こした相手に躊躇を考えるほど、俺の心にはもう余裕なんて残っていなかったのだ。

「花は  ――――が……? あれっ? 誰が? ――――? 誰?」

 少年が一度顔を上げ、答えようとするが、言葉が出ない。言葉の代わりに顔がどんどん青ざめる。


「誰? だれ? ダレ?  だ  

             れ 

              ?」

「お前も犠牲の一つだったんだよ! お前がさっき足蹴にした少女は作り物なんかじゃない! あの子はお前より『人間味』があった!」

「はっ? 人 間  味?」

「あの子はニセモノなんかじゃない! ニセモノは…………お前だっ!」




「僕がニセモノ? アイツがホンモノで  僕がニセモノ!?」

 少年は錯乱する。

 多分、もう前のような笑みを浮べる事はないのであろう。

「ウソだ! ボクはホンモノで  アイツ  

       が  ニセモノ だ!

 ボクがホンモノで  アイツがニセモノ……

  ボクがニセモノで  アイツがホンモノ       エッ? 

 ボク   ニセ    モ 

         ノ? ああああああああああああああああああああああああっっっっ!?」



 それ以上は聞かなかった。聞く必要が無い。聞きたくない。




 俺は壊れ行く少年から目を離して、ドアの向こうに居る朱里の元へと駆け寄った。




「朱里! 大丈夫か?」

「優一君。私は大丈夫だよ」

 朱里は少女に膝枕をしながら壁にもたれ掛かっていた。

 少女は薄く笑みを浮かべ、安らかに眠っている。それは、少年の黒い笑みと違う。いや……少年もある意味では純粋だったのかもしれない。

 少女はまるで母親に抱きしめられているかのような安心感に浸った笑みをしていた。

「あの子は?」

 朱里が俺にそう聞く。

 もちろんあの少年のことをさしているのであろう。

 カケルと名乗った少年。多分それも、あの少年を生み出した奴らが考えもなしに付けた名前なのであろう。

「あの子は――」


「チガウッ!」

「!?」


 部屋中に響く声はドア越しでも俺たちの耳に届いていた。

 俺は慌ててドアを開けると、そこにはさきほどまで頭を抑えて蹲っていたはずの少年がフラフラと立ち上がっていた。

「お前!」

「ボクはニセモノじゃない! ボクを認めない奴なんて死ねばいいんだぁ!」

 狂った眼をした少年は不意にあの赤い花の鉢を床に叩き付けた。

「消えろ消えろ消えろ消えろっ! ボクを認めない奴なんて死ねばいいんだ!」

 鉢は床に当たった瞬間。砕け散った。そして、砕けた破片と共に目で視認できるほどの真っ赤な花粉が飛び散る。


「死ね死ね死ね死ね!」

 何処からか持ってきた同じ鉢を少年は次々と床に落としていく。

 その度に舞い上げられた赤い花粉が少年の周りに舞う。



「死んじゃぇ! しんじゃぇ! シンジャェ! アハハハハハッッッ!」

 最早、壊れた歯車は暴走を続けるだけしかなかったようだ。少年は壊れて、そして倒れ、赤い花粉の中で動かなくなった……


「うっ……あっ!?」

「っ!? 朱里!」

 俺は少年から視線を直ぐに朱里に移す。朱里は苦しそうに胸を押さえ額に汗を溜めている。


「朱里! 大丈夫か!? 朱里!」

 俺は勢いよくドアを閉めて、朱里に近づく。


「ゆう い  ち  く    ん 

     痛い

 よぉ」

 朱里は胸を掴みながら駆け寄った俺にもたれ掛かってくる。

「朱里! しっかりし――」

「何でお前は痛くない?」

「えっ?」

 驚いた。

 驚きの余り固まる俺。

 背筋の凍るような低い声。それは俺の声じゃない。なら、誰だ? この少女? いや、相変らず目を瞑り、起きる気配はない。じゃあ誰?

「何で痛くない!?」

「うがっ!?」

 急に首を絞められ俺は変な声をあげ、苦しむ。首を絞めたのは――


「朱……里?」

「誰だ!? 私は誰だ! お前は誰だ! 痛い痛い痛い痛いぃぃぃっ! 何でお前は痛くないっ!? 私はこんなに痛いのに!」

 朱里の小さな指が俺の首に埋まる。

 意識が遠退きかける。脳に酸素がいかない。振りほどかなきゃ、振りほどけ、動け!

「うぐっ!?」

 しかし、容赦ない攻撃に、俺は戸惑い、そしてその戸惑いが隙を作った。

 腕に力が入らない。視界が歪む。

 朱里……あけ…………り……


「ダメッ!」

「ぐっ!? ごはっ!?」

 急に首を解放され、俺は冷たい空気を肺に大きく吸い込み、そして咳き込む。

 今、静止の言葉を掛けたのは紛れも無い朱里だった。だが、しかし、朱里の左手は、まだ俺の服を爪を立てて掴んでいる。


「朱里!」

「いやだ、辞めてよ! 傷つけたくないのっ! どんなに辛くても優一君を巻き込むのはやめて!」

 自分の意思に反し動く左手を右手で必死に静止する朱里。

「ウッ……ゲホゲホッ!」

 朱里は盛大に咳き込み、吐血する。

 鮮血な血は、自分で受け止めようとした右手から零れ、飛び散り、床と俺の頬に朱里の血が付く。

「朱里!」

 俺は、朱里を抱きしめる。

「何で、おまえばかり楽になれるっ!?」

 また低い声が俺の耳に届く。


 俺の背中に回っていた手に爪を立てられ、俺は苦痛で顔を歪める。

「だ  め  ! 傷つけたく  ない

           のに……なんで…………」


 意識が混同している。これが赤い月の末期症状なのであろう。

 己の欲求に答える自我と相手を思う自我。それが今、朱里の中で戦っているのだ。


「朱里……大丈夫。一人にはしない」



「優一君、ダメ。逃げて、私、優一君を殺しちゃうよぉ」

 朱里の顔は抱きしめていて見えなかったが、多分泣いている。

 俺の手に朱里の体温が伝わってくる。まだ……まだ! 生きている。




「忘れたくないよ……優一君……忘れたく 

      ない  」



「大丈夫、朱里の事は俺が覚えている。お前が忘れた時は、俺が思い出させてやる」



「ああああああああっっっっ!? 痛い

      いたい

      イ       タ  イッ!?」


 朱里の爪が俺の背中に食い込む。



「大丈夫だ、朱里。」


「っ!?」


 一瞬、低い声のままの朱里の動きが止まった。

 抱きしめていた腕の力を弱めて、朱里の顔を見ると、血の涙を流すその目は赤く燃えていた。


「何度でも、俺はお前を読んでやる。何度でも、俺はお前のことを抱きしめてやる」




 俺は朱里の瞼の上に傷だらけになった手を軽く乗せる。


「だから――」


「ゆう  い

  ち  

くん?」









「ゆっくりと、おやすみ…………………………あけり」




 俺はゆっくりと被せていた手を動かして、朱里の燃える瞳をゆっくりと閉じた……

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