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拾伍ノ月;  可視・不可視

「○○○、居るか?」



 革のソファーに座って青年が誰かを呼ぶ。



「――――ここ。  居る。」



 出てきたのは小柄な少女。言葉遣いがカタコトなところを見るとどうしても体躯以上に幼く感じてしまう。



「今あの人たちが山中を下りてる所だから、招待してきてくれない?」



 青年は傍らに置いてあったジュースを口にしながらニヤリと笑う



「わかった。ここ、に   連れて来る」



 少女は詳しい事は何も聞かない。



 ただ、青年が言った事に答えているだけ。まるで操り人形の様に……



 少女の影が消えるのを気配で確認した青年は笑みを一層深め――



「頼むね〜……お人形さん――――」



 少女に向けられた言葉は少女の耳には届かず、暗い部屋の闇に静かに吸い込まれていった。





「ふぅ……ふぅ…………」

 暫く歩いていると優一君の足は少し震えだした。


 息も切れ始め、私に悟られまいと抑えてはいるが口からは息切れした吐息が零れる。

 無理も無いと言われればそれまでだ。確かに、あの不可解な街で私が最初に目を覚ました時はまだ空は明るかったのだ。それから優一君は旅館を歩き回り地下に潜り。今、私を背負っては急な山道を下っているのだ。



 人の手がまるで加えられていない山道はコンクリートの補整された道など無く、それどころか人の手によって作られた看板すらない。

 頼りは、時々見える麓の明かりだけでそれ以外はまだ何も手がかりが無いのが現状であった。


「優一君、大丈夫?」

「大丈夫だ。それより今は早く麓に下りる事が先決だ」

 何でそんなに急いでいるかは私にはわからなかった。

 今直ぐにでも優一君の背中から離れて自分の足でこの山を下りたい気持ちはあるのだがだからと言って足元が覚束無い状態でこの急な山道を歩けば間違いなく転倒してしまう。それは優一君を心配させることにも繋がるし何より地下通路での血の記憶が鮮明に私の脳裏に映る。

 今度転んで出血してもし止まらなくなってしまったら……そう思うと私の腕は優一君の肩の腕で小刻みに震えていた。


「?」

 ふと、優一君が歩いていない事に私は気付く。

 別に懐中電灯を照らしている位置がずれているわけでもない。だが、優一君は懐中電灯の光が届いていない更に奥の方を凝視して動かなかった。

 もちろん私にはそこに何があるのかはわからない。特別目の良い訳でもない私だが、悪くも無い。それは優一君も同じでこの距離で優一君が見えているものを私が見落とすはずが無かった。


「……お前は誰だ?」

「えっ? 倉嶋あけ――――」

「――――さっきも会ったな? お前は何故俺の前に現れる?」

 私に向けられた言葉だと思っていたがどうやら違うようだった。優一君は暗闇から目を逸らさない。

 ただ一点だけを見つめ、喋っている。

「優一君、誰と喋ってるの?」

「誰って……目の前にいるだろう?」

 優一君は緊張した口調のまま、視線を外さず私の質問に簡潔に答える。だが、私には何も見えない。


「見えない……けど?」

「見えないって、ちょっと下りてくれるか?」

「えっ? うん」

 私の答えに疑問を持ったらしく私を背中から下ろして今いた位置から数歩下がって私の顔を覗く。



「充血はしているけど、特に出血はしてないよな?」


「うん、名前もわかるよ」

「――――じゃあ何でアイツが『見えない』?」

 不思議だった。

 この状態で嘘をつくとは思えない。ただ優一君の不思議そうな顔は私から離れると再び暗闇の方へ目をやる。


『――――――』

「一緒に行くつもりはないな」

 優一君は誰かと喋っている。私にはその『相手』が誰かはわからないが確かに誰かが喋ったような『感じ』がした。


『――――――』

「っ!?」

 いきなり動揺した様子を見せる優一君。何を話しているかはもちろん知る事は出来ない。


『――――――』

「くそっ! わかった」

「えっ? 優一君!?」

 優一君は再度私を抱上げると明かりもつけずに暗闇の中を走っていく。


 その顔は真剣そのもので冗談でやっているとは思えない。

「ゆ、優一君待って!」

 しかし、優一君は私の言葉が耳に入っていないかのようにそのまま走り続ける。





 私と優一君はそのまま暗闇の中を走っていった……

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