ゲー研からの呼び出し
やたら細い大根や普通はサラダに入れるだろうラディッシュなどが入ったお雑煮を文句も言わずに食べたアキラは、両親が箱買いしたみかんに手を伸ばすところで、スコープグラスに点滅している呼び出しに気づいた。
「あ、やべ。着音切ってた」
VRゲームをやっているときに外部からの余計な干渉があるとうざいので、音の鳴るものは全部切っておくのがアキラの流儀だ。昨夜は突然VRからはじき出されたので、その手の設定を戻すのを忘れていたのだ。
視線操作でメニューを開くと、学校の部活であるゲーム研究会、通称ゲー研の仲間である桜山ゆえりからのメールだった。
アキラの学校は帰宅部をゆるさないところなので、先輩有志が仕方なく立ち上げたゲーマー用の部活である。
厳しいようでゆるい学校なのだ。
『部の会議室に来て!』
メールにはそれだけが書かれていた。
「正月から部活かよ」
もちろん今回の件についての話だろうが、アキラとしてはもう少し独自に情報を集めたり、いろいろ実験しておきたい気持ちがあったのだ。部活のことは忘れていたとも言う。
しかし放置していると特に女子がへそを曲げるので、仕方なしに、アキラは部屋に戻るとスコープグラスを外し、VR用のマシンを装着した。
シュオン! という効果音と共に、独特の浮遊感が体を包み、選択したVR会議室に入室する。
この会議室はゲー研専用なので、関係ない人間は入って来ない。
『あ、やっと来た! 遅い!』
開口一番文句を言って来たのはメールを寄越した桜山ゆえりだ。
彼女のアバター、つまりVR空間でのキャラクターは直立歩行の猫である。ネコミミではない、完全な猫だ。
アキラ的には大変素晴らしい姿だが、部活メンバー内男子には不評だった。
そいつはゆえりに萌えがわかってないと言うが、アキラに言わせればその萌えはお前にとっての萌えであって、自分にとっての萌えではないというところだ。
ちなみに実物のゆえりもそれなりに可愛い。
『俺の予想するところ、アキラっちはゲームの検証に夢中だったと見た!』
ビシィ! と、人に向けて指を突きつけて語るのは、このゲー研の部長、今田洋介である。
彼のアバターはリザードマンをベースに自分で改造した直立ドラゴンだ。
『検証魔だもんね、アキラっち』
ゲー研の希少な女性二人の内もう一人がこの発言をした村上幸子だ。
ゆえりと仲がよく、常に二人一緒に行動している。
百合っぷるかと疑いたくなるが、二人に言わせると、女子とはそんなもんだとのこと。
彼女のアバターは正統派のエルフに蝶の羽がついたよくある美形キャラクターだ。
無料アバターにプレゼントされたアクセサリーを乗せただけの無課金勢である。
『検証魔言うな。それにゲームじゃねえし』
いつもの調子の仲間たちにアキラは反論した。
『そうだぞ、アキラの言う通りだ。もっと真面目にやらないと命が懸かっている状況なんだ。あまり浮ついたことは言わないほうがいい』
この神がかった真面目な男子は神谷祐希。
アキラはかみやんと呼んでいるが、部活メンバーにはときどき神さまと呼ばれることもある。
暴走しがちの部長のストッパーであり、親友だ。
彼のアバターは竜騎士。
なんでそのアバターを選んだのかとアキラが聞いたときに「ジャンプが凄いんだ」とはにかみながら答えてくれた。
カッコイイくせに萌え要素もあるという実に恐ろしい先輩であった。
ちなみにこの会議室で使っている各自のアバターは、仕事や勉強にも使える公共のタウン用アバターで、遊び心のないノーマルバージョンもある。
『緊急招集みたいな呼び出しだったのに、人数少なくない?』
アキラは会議室に入って来たときの疑問をぶつけた。
ゲー研は男子六人、女子二人の合計八人の部活だ。
現在は男子三人、女子二人しかいない。
『それが、残り三人には連絡がつかないんだ』
『マジで?』
鎮痛な声音で告げる神谷の言葉に、アキラは驚きを返した。
『あいつらが年越しのカウントダウンをゲーム外で過ごすとは思えないんだけど』
酷い評価である。
しかしゲームを愛するゲー研のメンバーなのだから妥当な判断と言えるだろう。
『アキラんちは郊外にあるから知らないかもしれないけど、繁華街近くでは大変なことになってるんだよ。パトカーや救急車や消防車がひっきりなしに走ってて』
ゆえりの言葉にアキラはハッとした。
『危険なモンスターが出たのか!』
『それならよかったんだが、いや、よかったというのは語弊があるな。だが、今の状況はある意味人類の恥とも言える』
部長の含みのある言葉に、アキラは首をかしげた。
ちなみにアキラのアバターは包帯で顔を隠した殺人鬼のふりをしたホットドッグマニアだ。
腰にはガンベルトのようなものがあり、右のホルスターにはトングが、左のホルスターにはケチャップとマスタードが刺さっている。
妙に設定に凝っているのはアキラの趣味だ。
『どういうことです?』
『彼奴ら、いや、何人かの舞い上がったゲーマー連中が、街中で大魔法をぶっ放した』
『は?』
『もちろんなかにはモンスターに襲われて、思わずやらかした者もいるだろう。しかし、確実に何人かは試し撃ちをしたのだ。それで建物が吹き飛んだり、ケガ人が出たりしたのだ。ニュースやSNSは見てないのかね?』
部長の言葉に、アキラは驚きと呆れと納得を同時に感じた。
現実で魔法が撃てるとなったら、試してみたい。その誘惑に抗えない者は確かに多いだろうと思ったのだ。
同時に、なんで街中でやるかなとも思う。
自慢したかったのだろうか?
『ニュースは政府の発表だけ、SNSは現実でゲームのシステムがどうなっているかということを調べてたので』
『実にアキラらしいな』
アキラの返事に部長が納得したようにうなずき、ほかのメンバーも同意する。
ぬぬぬ、何かディスられてる? とアキラは思ったが、別に悪口という訳でもないので黙して語らなかった。
自分でもこんなときにシステム周りの検証をはじめてしまったのは言い訳出来ないと思ったのだ。




