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ジュエリーツリーの森

「キャンプで出来ることはやったし、先へ進むか。あんまりぐずぐずしていると終わるのが夜になったりしかねないし」

「うえっ、ダンジョン攻略しても外はフィールドだから、夜になったら危険度アップだもんね。疲れてるのにそうなったら地獄すぎるよ」


 祐希の言葉に幸子がうわーという顔をしつつ愚痴った。

 アキラやほかのメンバーも同じ気持ちだろう。

 それにあまり遅くなると家族が心配して捜索依頼を出したりする可能性がある。


「斉木は戻りの列車の都合もあるんだろ? 今運行が減ってるし、最終は何時だっけ?」

「あ、ああ。今日は休日運行だからいつもより早くて十八時半だ」

「うわっ、はやっ! ってことは遅くてもここを十七時ぐらいまでには出なきゃね」


 アキラの問いかけに祭が答えると、ゆえりが心配そうにそう言った。


「いや、ここ駅のすぐ近くだし、十八時でも余裕じゃね?」


 アキラが不思議そうに返す。


「アキラくんってダンジョン攻略のことしか考えてないけど、斉木くんにダンジョンだけでとんぼ返りさせる気なの? 買い物とか何か用事があるかもしれないでしょ」

「え、それはそれで一時間だけってのはどうなんだよ。半端な時間があっても持て余すだけだぞ」

「一時間あればたいがいの買い物は出来るわ。今買い物出来る場所は全部固まってるし……あっ、わかった! アキラくん、自分で買い出しに行ったことないんだ」

「うっ」


 ゆえりの鋭い指摘にアキラはぎくりとする。

 実際、家の買い物は母か父が仕事帰りにまとめてしてくれる。

 アキラはただ欲しいものをメールしておけばいいだけだ。


「全く。アキラくんと違って斉木くんは家の手伝いをしているって言ってたでしょ。せっかくこっちに出て来たら買って帰りたいものの一つや二つあるよ」

「あー……」


 祭はゆえりの言葉が当たらずとも遠からずだったのか、否定も肯定もしない範囲でごまかした。

 祭なりにアキラに気を使ったのだろう。


「そっか、悪かったな斉木。じゃあこれからは全力で行くぜ! さっ、神さま、さっさと次へ行こうぜ!」

「アキラ落ち着け。桜山さんも。斉木くんが困っているだろ。これはVRゲームじゃないんだぞ? 常に慎重に行動するんだ。落ち着いたら次のアタック行くぞ」

「はい」


 全員が神妙な面持ちで返事をする。

 穏やかな言い方だが、祐希の言葉にはわずかな厳しさが混ざっていた。

 これを繰り返すと、祐希は突然静かにキレる。

 昔部長が祐希を怒らせたときの凍えるような言動を覚えている元ゲー研組は、軍曹に付き従う新兵のような心地で何度も首を縦に振ったのだった。

 過去を知らない祭も何かただならぬ雰囲気を感じて、おとなしく祐希に続いた。


「階段か」

「昇りしかねえ」


 慎重にサーチをしながら探索した結果、廊下の先の曲がり角に昇り階段を発見した。

 昇りしかないということは、やはり先へ進むしかないということである。


「俺が先行するから範囲から出ないように。慣れてない斉木くんは真ん中に入って」

「わかった」


 祐希の指示通り、陣形を崩さないように階段を昇る。

 途中の踊り場手前で祐希がストップをかけた。


「桜山さん、あの踊り場の鏡に単体攻撃魔法をお願い」

「了解。爆炎(ボムフレイム)


 ゆえりが祐希の指示を受けてノーマルの初級攻撃魔法を放つ。

 魔法が命中すると鏡が砕けて、何者かの不気味な悲鳴が響いた。


「うへっ、(トラップ)か」

断層転移ディメンションピットフォールだな」


 アキラの言葉に祐希が答える。

 

「事前に何の罠かわかるのか?」


 祭が興味深そうに尋ねた。


「いや、看破(インサイトアイ)がある訳じゃないから、単なる経験則だよ。鏡の(トラップ)は高確率で転移系の罠か死霊系の出現ポイントなんだ。このダンジョンのテーマには死霊系はふさわしくないから転移系の罠でパーティ分断だね。一番いやらしいタイプだ」

「うへえ」


 祐希の説明に祭は嫌そうに割れた鏡を見る。

 そんな危険な踊り場を越えると、後は普通の階段を昇るだけだった。

 

「おお、あからさまだなぁ」


 階段を昇り切るとそこには森が広がっていた。

 ただの森ではない。

 キラキラと七色に輝く幻想的な森だ。


宝玉の樹(ジュエリーツリー)だ」

宝玉の樹(ジュエリーツリー)だな」


 もともとVRMMOゲームEOMを遊んでいたメンバーにはおなじみの光景だ。

 だが、ここにはEOMを遊んでいない者もいる。


宝玉の樹(ジュエリーツリー)ってなんだ?」


 祭が尋ねた。


宝玉の樹(ジュエリーツリー)ってのはいわゆる木の姿をしたモンスターなんだけど、木の実の代わりに宝玉を実らせているんだ。その実らせている宝玉の属性で攻撃して来る」

「宝玉いっぱいくっつけてるからテンション上がるだろ? だがな、あれはフェイクだ」


 祐希の説明にアキラが付け足す。


「フェイク?」

「倒しても滅多にドロップしない」

「せこいよね」


 アキラの言葉に幸子が同意するようにうなずく。

 EOM初心者あるあるで、あのきらびやかな見た目に騙されて、勇んで攻撃するのだが、そのドロップのほとんどは木の枝というしょぼいアイテムだった。

 なんと店売りで十リフだ。

 リアルだと十円ぐらいの感覚である。

 とは言え、生産のスキル上げには有用アイテムだったので、ゲーム内オークションではもう少し高かったが、それでもせいぜい百リフぐらいだ。

 ちなみにリフとはVRMMOゲームであるEOMの金銭単位である。


「しかもこいつら仲間を呼び寄せるんで、ちまちま削っているといつの間にか周囲を囲まれてしまうという最悪なモンスなんだよな」


 アキラがふうとため息をついたが、祭は実感のなさそうなへーという声を上げるだけだ。

 祭の遊んだゲームにおいてゲーム内通貨はそれほど重要視されない。

 プレイヤー間の取引も盛んではなく、ゲーム内オークションなどもないのだ。

 プレイヤー同士でアイテムを譲渡したりすることはあっても、それは必須ではない。

 祭の遊んでいたカリテンには武器や防具の消耗がなかったからだ。


 しかしEOMでは全てのものが容赦なく劣化するので、プレイヤーは常に資金稼ぎやアイテムドロップに汲々としてしていたという特徴があったのである。

 ゲーム性の違いというものだ。


 その、EOMプレイヤーに評判の悪い宝玉の樹(ジュエリーツリー)が、風もないのにあちらこちらにゆらゆらと揺れている。


「このフロアの攻略面倒だなぁ」


 アキラはそうぼやいたのだった。

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