二階へ
「とりあえず神龍には行かない」
祐希がそう宣言すると、全員が納得顔でうなずいた。
もともとVRMMOゲームEOMを遊んでいたメンバーはレベルカンストしてはいるが、実際の命のやりとりで同レベル帯のボスとやり合うのは危険過ぎるというのが全員の結論だ。
「じゃあどこまで行く?」
アキラが真剣な面持ちで尋ねる。
勉強するときには決して見せない真面目な顔だ。
「順番通りなら火鼠の次のフロアは宝玉の樹のはずだ。レベル的に安全マージンが大きく取れる上にアイテムが美味しい。宝玉の樹をしばらく狩ったら戻ろう」
「りょーかい!」
「わかった」
仲間たちと祭も共にうなずく。
「さて、そうと決まれば次のフロアへの行き方なんだけど、階段はロビー中央の大きな階段と非常階段か。サーチしながら調べよう」
全員で戻ってまずは非常階段を調べる。
しかし非常階段の防火扉は閉まっていて、押しても引いても開かなかった。
「ということは中央階段か」
元は赤絨毯が敷いてあったのだろう大きな階段を上る。
しかし、広い踊り場に立ったゆえりは驚愕した。
「階段がない……」
なんと踊り場から先の階段が消失していたのだ。
「なるほど。ダンジョンになったせいで少々造りが変わったということか」
アキラが興味深そうに言う。
全員で踊り場のあちこちを探ったが、そこから上には手すりはあっても階段はない。
手すりは壁と一体化したオブジェのようになっていた。
仕方なく中央階段を降りる。
と、それを待っていたかのように、チーンと言う、金属的な音が響いた。
「え? これって」
幸子がビクッとしてゆえりに抱きつく。
抱きつかれたゆえりも顔色が悪い。
「エレベーターの到着音だな。行ってみよう」
アキラが率先して走り出す。
「アキラ、サーチ範囲を出るな!」
祐希が注意するが、アキラは平気な顔で答えた。
「エレベーター前はさっき通ったじゃないか」
そう客用エレベーターは最初のモンスターフロアである火鼠のいたカフェらしき場所への通路の途中にあった。
そのときは確かに稼働を示す光はついていなかったはずだ。
客用エレベーターの前に到着したアキラは、そこに大きく口を開けたエレベーターのカゴを見た。
なかの照明もあかあかと灯されている。
「なんかホラーっぽいよなぁ」
「乗ったら上から何かが落ちて来たり、エレベーターを吊り上げているワイヤーが切れたりするんだよね」
アキラの言葉に幸子が応じた。
「お前らいい加減にしろよ!」
祭が泣きそうな顔で言う。
どうやらホラーは苦手のようだ。
そしてもう一人、無言で祐希の背後に隠れているゆえりが射殺すような目でアキラと幸子を睨んでいた。
「ごめん、悪かったって、ゆえりちゃん、機嫌直して、ね?」
幸子が慌ててゆえりを宥める。
「あー、まぁここはダンジョンな訳だからホラー展開はないと思う」
「思う?」
アキラの言葉にゆえりがすかさずツッコむ。
曖昧さを許さない強い意思が感じられた。
「まぁまぁ二人共。とにかく行ってみよう。いろいろ考えるよりも行動だよ」
「神さまはいい事言うなー」
祐希の提案にアキラがうんうんとうなずく。
穏やかな知性派に見えるが、祐希も意外と行動的なタイプだ。
どちらかと言うとコンビを組んでいた元ゲー研の部長今田洋介のほうが慎重派であった。
とりあえず一人で残されるのは嫌なので、全員がエレベーターの狭い箱に乗り込む。
ホテルのエレベーターだけあって、狭いと言っても五人が乗り込んでも十分に余裕があった。
チンッと軽い音と共に扉が閉まり、全員に緊張が走る。
もしこのエレベーター自体が罠であったりしたら、下手をすると全滅の怖れがあった。
もちろん事前に祐希がサーチで調べてはいるが、変化した世界の法則を完全に解明した者はまだいないのだ。
もしもということはある。
「ボタンは無反応、と」
予想されたことだったが、階層を表示したボタンを押しても反応はない。
しばらく昇っていくエレベーター独特の浮遊感があり、スーッと止まった。
チンッと再びの軽い音と共に扉が開く。
まずは祐希がサーチをかけて扉の正面を調べ、踏み出した周辺を再びサーチした。
「大丈夫。何もないようだ」
全員がぞろぞろとエレベーターから吐き出され、カタンという軽い音と共に扉が閉まる。
そしてエレベーターは再び沈黙した。




