ダンジョンアタックは廃墟の香り
「ダンジョン?」
ゆえりがまたもやオウム返しに口にする。
逆側に首をこてんとかたむけた。
これは俺を誘っているだろうとアキラは思ったが鉄の意思でこの直立猫をモフるのを我慢する。
以前我慢出来ずにモフってしまったら、「アキラくんはチカンです」というエンブレムをアバターに貼り付けて一週間過ごす羽目になったのだ。
このアバターを使って授業を受けたりするので大変恥ずかしい思いをしたものである。
「ああ。ダンジョンだ」
「ん~だけどこの世界のシステムの中心になっている通称EOM、エピソードオブマインではダンジョンは特殊フィールド扱いでクエストを受けることで入れるようになるシステムだったよな。現実に最適化した場合ダンジョンを出現させるのは難しいとかゲームクリエイターが言ってたんじゃなかったっけ?」
元部長洋介が疑問を呈した。
「もったいぶっても仕方がないから言うけど、廃墟がダンジョン化してたって言うんだ」
「廃墟? 廃墟か! なるほど」
直立ドラゴン姿の元部長がウロウロしながらブツブツ呟く。
「廃墟というものは現実世界において人間社会から隔離された一種の非現実世界だ。少なくとも人々の意識においてはね。そこにリンクしてダンジョン化したということなのだろう」
「待ってくれ」
一足飛びに結論へと導こうとする元部長に待ったをかけたのは元副部長の祐希である。
「まずは検証だ。一の検証は百の理論に勝る。アキラじゃないけど、ネットの情報を鵜呑みにする訳にはいかないよ」
「だな。俺もそれを提案しようと思ってさ」
祐希の言葉にアキラがうなずく。
「ぐぬぬ……こんな大事なときになぜ俺は一人で首都圏なのか……」
元部長が悔しそうである。
元部長の今田洋介は、世界が変わったほぼ一年後に父親の転勤で首都圏へと引っ越すことになった。
高校受験は出願時期がかなりギリギリになったが、元が優秀なので書類さえ間に合えば受験自体は問題なかったらしい。
「部長はさ、はやくそっちで友達作りなよ」
「そーそー」
アキラとゆえりの冷たいツッコミに直立ドラゴンが涙のアクションをする。
「ほらほら、また話が脱線しているぞ。検証するとしても廃墟は危険じゃないか? 床が抜けたりして事故が不安だ」
祐希がすぐに逸れる話を元に戻した。
「私、おばけ出るとこは嫌!」
幸子が強く主張した。
「おいおい今どきおばけが怖いなんて……」
「私も嫌だから」
アキラがからかうように言いかけたが、ゆえりも幸子に同意する。
「それならあそこはどうだね? 廃ホテルレオウイング」
元部長が遠い地からでありながら、その豊富な知識で提案してくれた。
「あ、あの、完成した途端に会社が倒産して新品のまま廃墟になったホテルか」
アキラがぽんと手を打った。
「そうそう。あそこなら変ないわくはないし。少なくともおばけは出ないだろう。建設からの年数もまだ数年だし、劣化の危険も少ない」
「さすが部長だぜ! さす部長」
「ハッハッハッハッ! これしきこの私にかかれば当然の結果!」
アキラが持ち上げると元部長は高笑いを響かせた。
このノリが都会で受けるかどうか、元部長の今後の交友関係に一抹の不安を隠せない仲間達である。
それから数日後、学校も養成所も休みの休日が訪れた。
満を持してアキラ達は噂の廃ホテルへとやって来ていた。
「……なんで俺、ここにいるんだろう?」
積極的なゆえりに引っ張られる形で、休日の約束をさせられた斉木祭が遠い目をしている。
ハニトラか?
「まーまー。強くなりたいんだろ? ハンターになるまで待ってたら自分のための属性武器とか手に入らないじゃないか」
「うっ、確かにそうなんだが」
アキラの言い分は正しい。
今、世界的に武器のオークションなどは行われていない。
理由としては物流が崩壊しているからだ。
仲間同士で取引するか、自分で取得するしか武器を得る方法がないのである。
「それにさ、道でモンスターに出会ったら結局戦うよな。そういうのと狩りがどう違うのかってことだよ。矛盾してるんだよな。今のハンター制度」
「職業として扱うかどうかってことじゃないか? 犯罪者が襲ってきたら自衛するけど、警官以外は逮捕は出来ないみたいな」
「いや、緊急性のある現行犯逮捕なら一般人でも可能だよ」
アキラと祭の話に祐希が一言を添える。
「マジか……」
「マジだ」
斉木は祐希の言葉に心を動かされたようだった。
「俺も、街のみんなを守っていいのかな?」
「誰かが危ないときにいいも悪いもないだろ。まぁこうやって積極的に狩りに出るのはアキラはどう言おうと違法行為には間違いないんだけどね」
祐希は苦笑する。
祭の横でその言葉を受けてアキラがぺろりと舌を出してみせた。
「ところで斉木。お前魔銃使えない? 確かカリテンの弓使いの武器に銃タイプあったよな?」
「え? ああ。名前はボウガンなんだが、どう見ても銃と言われている奴だな」
「使ってみるか?」
「へ?」
「実は俺らEOM組だからジョブに合致しない武器は使えないんだよ。と言うか使っても威力が出ない」
「なんだっけ確か隠しステータスがあるとか」
「それそれ。一応俺、投擲武器は使えるんだけど、魔銃は基礎魔力がないと無理みたいなんだよね。うちにはバリバリの近接かバリバリの魔法職しかいなくてさ。せっかく手に入れたのに勿体ないと思ってたんだよ。確かカリテンの設定ではカリテンのハンターは魔力で身体強化しているとかなんとかだったよな」
「それ、裏設定な」
アキラの提案に祭もまんざらでもなさそうだった。
どちらにせよ魔力を帯びない攻撃はモンスターに一切通らないので、祭が活躍するためには属性武器が必要なのだ。
たとえ魔力で身体強化しているという設定があろうとも、単なる物理攻撃である以上は攻撃は通らない。それはカリテンプレイヤーがさんざん検証したことだ。
「じゃあ、一時的に借りてやる」
「おう、頼りにしてるぜ!」
アキラの言葉に一瞬嬉しそうな顔をした祭だったが、すぐに表情を引き締めて前を見る。
「お前らのやっていることは悪いことだ。そして俺が今からやろうとしていることも」
「おう」
祭の言葉にアキラが元気よく答える。
ゆえりと幸子がそんなアキラに苦笑した。
「だけど、俺様には守りたいものがある。そのためなら人の定めた法を破る覚悟はある」
「やだ、カッコイイ!」
アキラが変な声を出した。
祐希がそんなアキラの頭を軽くはたく。
「ちゃかすな」
「うい」
祐希は祭を含めた仲間たちを見渡した。
「それじゃあ行ってみるか。くれぐれも無理はしないように」
「はい!」「おっけー」
廃ホテルへの侵入によるダンジョン検証が始まった。




