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ゆえりナンパされる?

 シャトルバスは養成所の終了時間に合わせて駐車場に待機しているので、祭はそのままバスに乗って駅へと直行した。


「そう言えば副部長は駅から近いんだからシャトルバスで帰ればいいんじゃ?」


 すでに中学校を卒業してゲー研の部員ではなくなったアキラだったが、祐希を呼ぶときにはだいたい副部長と呼んでいる。

 慣れ親しんだ呼び方だからだ。

 それ以外だと神様とか呼んでしまうので、祐希からは不評である。


「いや、巡回バスのほうが停留所が近いんだ」

「あ、そっか、副部長のマンションは大通り沿いだもんな」

「そういうこと」

「巡回バス助かるよね。今となってはガソリンももったいないから個人で車を走らせるのは贅沢だし」


 ゆえりがしみじみ言う。

 ゆえりの家は父親が会社員の典型的なサラリーマン家庭だ。

 今回の世界の変化によって幸いにもゆえりの父の会社が倒産することはなかったので、父親が失業するという事態にはならなかったが、母親のパート先は営業が出来なくなったので、少し生活が苦しくなっているようだった。


「あ、そうだ。情報確認、と」


 アキラはスコープグラスをチェックする。

 電波を発信している基地局のいくつかが破壊されてしまったが、ハンター養成所の周辺は電波が強いので安心だ。


「今のところユニークモンスターがこの辺に出たってことはないみたいだな。あ、復旧作業中の高速道路がやられたっぽい」

「高速はな、高架だから杭の力がうまく作用しないらしいんだよな」


 アキラの報告に祐希がうなずく。


「そのせいで陸橋とか橋とかが未だに不通なんでしょう。斉木くんのところは大丈夫なのかな?」

「山間部には橋とかが多いからな」


 三人はそんな話をしながら巡回バスを待っていたが、そこへ少し遠巻きに見ていた男子が一人近づいて来た。


「あの、桜山さん」

「はい?」


 やって来たのは有名な進学高校の制服をピシッと着こなした男だ。

 

(学校なんてほとんどバーチャル授業なのになんでこいつ制服着てるんだろう?)


 と、アキラは不思議に思った。


「ブルーカード組でカラオケに行く予定なんだけど、君も一緒にどうかな?」


 ブルーカードとは魔法スキル持ちのハンター予備生の通称だ。

 魔法スキル持ちは青い予備生カードを所持しているのでそう呼ばれるようになったのである。

 アキラなどは入ったばかりなのでまだそういう常識は知らず、男の言っている意味があまりわからないでいた。


「え? 行かない」


 ゆえりはほとんど考えることもなくそう返事した。


「えっ!」


 誘って来た男は、全く断られることを想定していなかったらしく、ものすごくショックを受けている。


「ど、どうして?」

「だって、そんなに親しくないじゃない。ああいうのは親しい友達と行くから楽しいんだよ」


 非の打ち所のない断る理由だ。

 そもそもそんなに親しくないのになんで断られないと思ったのか?

 イケメンだから女子はみんな僕のものとでも思っているのだろうか?

 アキラはものすごく残念な相手を見る目でその男を見た。


「いや、だって、魔法職同士で親交を深めたほうがいいだろ」

「どうして?」


 ゆえりはキョトンとして問い返した。


「えっ、どうしてって、ほら、魔法職はハンターの花形だから」

「魔法職ばっかりのパーティだと動きの早いモンスター相手だとすぐに崩壊するよ。物理職がいないパーティなんて怖くて組めないよ」


(いいそ~言ってやれ!)


 アキラは隣でうんうんうなずいた。

 それを祐希が困ったような顔で見ている。


「おい、そこのホワイト!」


 ホワイトとは珍しい名前だな、と、アキラはキョロキョロとした。

 外国人がいるのかと思ったのだ。


「お前だ! ホワイトというのはこの養成所で物理職のことだ!」

「ああ、白カードだからホワイトね。なるほど」


 アキラは得心してうなずく。


「お前、さっきから桜山さんの隣で偉そうにしているが、何のつもりだ? 知っているぞ、ホワイトなんだろう?」

「そうだけど」


 アキラは何を当たり前のことを聞くのだろうと思いながら返事をする。

 そもそもアキラをホワイトと呼んだのはこの男だ。

 ダメ押しする必要もない。


「お、お前、恥ずかしくないのか?」

「へ?」

「魔法職として高い能力を持っている桜山さんと、ただの物理職のお前が一緒にいることが恥ずかしいとは思わないのかと聞いているんだ」

「いや、思わないけど」


 あっさりと答えたアキラに相手が虚を突かれている間に巡回バスが来た。

 ゆえりに声をかけた男達はこのバスには乗らないようで、何やら顔をぴくぴくさせながら三人を見送ったのだった。


「なんだあれ?」

「さあ?」


 アキラはゆえりに聞いたが、わからないらしい。


「あれはおそらくスカウトだよ」


 さす神、祐希がすかさず答える。


「おお、さすが神様、知っているのか!」

「その呼び方はやめるように」


 祐希はアキラの頬をぐいっと引っ張った。


「ボウイイバセン(もう言いません)」


 仏の顔も三度まで。

 神とて我慢の限界はある。


「えっと、神谷先輩、スカウトって?」

「ハンターギルドがあるだろう」

「ああ、ハンターの派遣会社とかのやつ」


 アキラは身も蓋もないことを言った。

 ハンター自体は国家資格だが、資格を取得した後はフリーランスのようなものだ。

 自分で仕事を取って来て会計も自分で行わなければならない。

 大手の警備会社などはハンター部門を作って資格持ちを雇っていたりはするが、何しろ新しい業種なので所属出来る場所が少ないのだ。


 面倒なことをしたくないというハンターのための受け入れ口となったのがギルドという名前の派遣会社である。

 せっかくゲームっぽい名前をつけても実情は夢も希望もなかった。


「その派遣会社がどうして私を誘うんですか? というかあの人高校生でしたよね?」

「ハンター養成所卒業前に優秀な子に声を掛けるんだよ。優秀な看板ハンターがいるほうがいい仕事を受けやすいからね。彼はおそらくもう仮契約をしていて、優秀なハンターを誘うことで何か特典があると言われているのだと思うよ」

「おお、さすがか……副部長、詳しい!」


 アキラの称賛に、祐希は苦笑する。


「いや、俺も誘われたから知っているだけさ」

「なるほどー、副部長は賢者だからな」


 ゆえりは、ん~っと何かを考え込んだ。


「あのさ、アキラくんのご両親はフリーランスタイプのハンターなんだっけ?」

「ああ。まぁ俺もあんま詳しくないんだけど、パーティ単位で活動しているみたいだよ」

「ふむふむ」


 ゆえりはキランと目を輝かせると、祐希に向かってにっこりと微笑んだ。


「ね、神谷先輩! 私達でクランを立ち上げませんか?」

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