山間部の事情
仮のパーティを組んだら的をモンスターに見立てて実際に戦ってみる。
とは言え、的は動かない丸太なので、あまり緊張感がない。
アキラたちはそれぞれ練習用の武器を手にして実践訓練を行った。
「……和弓しかなかった」
カリテンで弓使いをやっていたという斉木祭は、支給された練習用の武器に不満を漏らす。
まぁカリテンで使うのは洋弓に似た別の何かなので、何を使っても違和感は拭えないはずだ。
「俺は短剣でやってみる」
現在アキラが使っているのは属性武器の風のブーメランなのだが、ブーメランという武器は一般的ではないので、練習用の武器にはなかったのだ。
とは言えアキラのジョブである軽業師は短剣を得意とするジョブなので、これはこれで問題はない。
そして、このパーティの頭脳である神谷祐希は賢者である。
賢者の武器と言えばロッドだが、練習用にはいわゆるタクトと呼ばれる指揮棒が与えられた。
「実はこれでも魔法は使えるんだよな」
「本物の杖を使うと威力が大きくなるからでは?」
「そうなんだろうね」
そんな風に和気あいあいと実戦シミュレーションを繰り返したのであった。
「お疲れ! 初めての養成所はどうだった?」
「う~ん、初心者向け講座?」
「あはは。その為の養成所だもの、当然でしょ」
養成所のプログラムを終えると、別にパーティを組んでいたゆえりがアキラと祐希の元へとやって来た。
元同じ部活メンバーだ。遠慮などない。
しかし、まだ一緒にいた祭は、可哀想なぐらい真っ赤になって慌てた。
「お、女!」
「ん? こちらの方は?」
ゆえりが尋ねる。
「おう、聞いて驚け! なんとカリテンメインでやってたのに逆境にくじけずハンターを目指す根性ある若者、斉木祭くんだ!」
「は、初めまして!」
「アキラくんたらまたそんな風にからかって! カリテンプレイヤーなら深刻な問題でしょ! ええっと、斉木くん? 私桜山ゆえり、ゆえりって呼んでね。EOMでは深淵の魔術師をやっていたわ」
「おーい、斉木、聞こえているか?」
すっかりガッチガチに固まっている祭をアキラがつつく。
すると、やっと再起動したらしい祭は、真っ赤な顔のままペコペコ頭を下げた。
「こ、こちらこそよろしくお願いしまっす! お、俺は弓使いで、カリテンです!」
「やべー。こっちが恥ずかしくなるぐらい舞い上がってる」
すっかり鑑賞モードになっているアキラがニヤニヤと笑う。
「こら」
その頭を祐希が軽く小突く。
「帰りはどっち方向なんだい? 斉木くんもよかったら一緒に帰らないか?」
「へ? いや、俺はシャトルバスを使うから」
「え? もしかして斉木くんって家が遠いの?」
ハンター養成所には駅からのシャトルバスが往復している。
駅を安全圏に設定してからは電車も復活して少し遠い場所とも行き来が出来るようになった。
その駅を使うということは、電車を使わなければならない場所ということだ。
ここは地方都市なので、電車は日常の交通機関というよりも遠方に行くためのものという認識がある。
ちなみに新幹線や飛行機はまだ安全が確保出来ていない。
「あ、ああ。山のほうなんだ」
「え? 大丈夫なのか? 山間の街は危ないからって避難した人が多いって聞いてるけど」
アキラはさすがに心配になって尋ねた。
山奥にある街には今の時代でもゲーマーは少ない。
なにしろお年寄りが圧倒的に多いからだ。
「うちは食堂をやっていて、避難しない人への食事の配達とかやっているんだ。街には二人ぐらいEOMの魔法職がいて、あと駐在さんが新規登録してレベル上げして頑張ってる」
「その駐在さん、いい人ね」
ゆえりがしみじみと言った。
実は、当初問題になったのは、ゲームをやっていた人間しかモンスターに対処出来ないということだった。
今やゲームにログイン出来ないのだから、今のジョブ持ちが将来的に死んでしまった未来には、人類はモンスターに対処出来ないということになる。
ところがこれを解決した者たちがいた。
アキラも常連になっている解析掲示板の暇人たちだ。
ゲームにログインしようとしても弾かれるが、ログインボタン自体は出るのである。
これはもしかして現実がゲームになったから既にログインしているという判断なのでは? と仮説を立てた人間がいて、それなら新規登録はどうなるんだ? という疑問を解決するために実験したのだ。
結果として、新規登録は出来て、キャラクターメイキングまで進めることが判明した。
キャラクターメイキングをして、ゲームスタートすると弾かれる。
つまり初期状態だが、ジョブを手に入れることは出来たのだ。
これは大いなる発見だった。
この検証結果が広まるやいなや、警察や軍などの公的武装機関所属でジョブを持たなかった人間が次々と新規登録をしてジョブ持ちになった。
だが、問題はレベル上げである。
モンスターは各地にランダムに出現する為、レベル上げに丁度いいモンスターを見つけるのは至難の業だったのだ。
それでも、高レベルのジョブ持ちの協力を得ながら、彼らはレベル上げをしているらしい。
「そっか、斉木は自分の街の人を助けるためにハンターになりたいんだな」
アキラはすっかり感心して言った。
祭は再び挙動不審になりつつ怒鳴る。
「そ、そんなんじゃねえよ! 俺は強いモンスターをぶっ倒したいだけだ!」
しかし神のごとく慈悲深い祐希や、人懐っこいゆえりにはそんな悪ぶった態度は通用しなかった。
「偉いな。斉木くんを尊敬するよ」
「かっこいい!」
そうして斉木祭は、アキラたちからすっかり凄いやつ認定されてしまったのだった。




