中学生の狩り暮らし
アキラは、警察があまり巡回していなくて、かつ、モンスターが多い場所に来ていた。
それが住宅地の裏山だ。
ここには無人の神社があり、頂上は展望台公園となっている。
警察の魔法部隊は主に人が住んでいる場所を巡回していて、無人の場所まで手が回らない状態だ。
そういった警察の弱みを突いた狩りだった。
「ハンター登録は十八歳からとかズルいよな」
「大人からしてみれば当然のことだろう。俺たちだって小学生に戦わせたいとは思わないだろ?」
「むうう」
新年度の四月からはハンター制度が発足した。
アキラの父の予言通りだ。
しかし、残念なことに、その制度に中学生は登録不可だった。
なんてこったい! と、テレビを観たときには吠えたアキラである。
とは言え、大人の思惑通りおとなしくしているようなゲー研ではなかった。
大人にバレないように狩りを重ねて来たのだ。
その過程で、最適な狩場として定着したのが、アキラの家がある住宅地の裏山だった。
小学校の遠足に利用されるぐらい登りやすい山であり、頂上が公園になっていて広い。
モンスターは人気のない場所のほうが基本的には強いということがわかって来ているのだけど、住宅地近くの自然な山というこの場所は、レベルがほどほどに高いモンスターが出た。
「おしゃべりしてない! 次の獲物釣って来たよ!」
公園の脇の梅林のほうからゲー研仲間の幸子が突っ走って来る。
今や幸子も属性武器を手に入れて、普通に戦えるようになっていた。
幸子の使うのは龍鱗の篭手だ。
属性は炎。
しかも爆発という物騒な属性がある。
梅林の奥から幸子が引っ張って来たモンスターは、虹色の外殻を持つ尖った角のカブトムシだ。
ただし、その大きさは車の軽程度はある。
「おお、オパールビートルだ! 盾出ろ!」
「やめて! 出て欲しいと思うと出ないのよ、無心で倒したほうが出やすいんだから!」
それもう無心じゃなくね? と、アキラは思ったが、ゆえりの気持ちもわかるのでツッコまなかった。
欲しいアイテムに限って出ないというのはゲーマー泣かせの物欲センサーというものだ。
そんなセンサー実在はしないとも、実際に仕込まれているともいろいろなうわさがあるが、ともあれ、ゲームのドロップにおいて欲しいものは出にくいのである。
アキラは走り込んで来た幸子とオパールビートルの距離がちょうどよく開いたタイミングで風のブーメランを飛ばす。
スパン! と、オパールビートルの角が切断される。
「やた! 部位破壊成功」
「ちょ、それだと短槍が出るじゃない!」
短槍だってレア武器だぞ? アキラはそう思いつつも盾が欲しいというゆえりの気持ちもわかるので口に出さなかった。
今、オークションでは防具が高い。
オパールビートルの盾なら同じオパールビートルの短槍が三本買えるぐらい値打ちが違うのだ。
「まーまー、もし短槍が出たら俺が使わせてもらうよ!」
黒騎士の部長がデカイ大鎌を振り回しながらそんなことを言った。
大鎌はヒュンという軽快な音を立てて怒りゲージマックスといった感じのオパールビートルに突き刺さるが、深く入る前に弾かれてしまう。
さすが防御は本来のレベルのひとクラス上とされる甲虫類モンスターだ。
「くそっ、大鎌は振りが大きいんで相手が防御する暇があるのが玉に瑕だな」
「でも柔らかい相手なら、防御ごとスッパリいくんだもん。相性だよ」
本来の立ち位置についた幸子が、部長にそんなことを言う。
励ましているつもりなのだろうか? と、アキラは思った。
「いでよ闇の手、イレイザーハンド!」
黒いモヤがオパールビートルにかかり、その黒いモヤの部分が消しゴムで消し去ったように欠落する。
後ろ脚を失ったオパールビートルは、ガクッと体勢を崩した。
「轟け! 雷鳴の槍!」
とどめは副部長の魔法だ。
「どうでもいいが、雷鳴とは雷の音のことだろう? なんでそれが槍になるんだ?」
「俺に聞くな、ゲームデザイナーに聞け」
部長がしようもないことにツッコミ。副部長が真面目に応じる。
いつもの調子で狩りが終わった。
「ふー、これで十匹目。休憩を取ろう」
副部長の合図で、全員がそれぞれの武器を納める。
ゆえりが大きな釘のような杭とトンカチを持ち、杭を四方に打ち込んだ。
これは本来はフィールドでログアウトするときに使うキャンプアイテムなのだが、現在は野外で安全エリアを設置するためのアイテムとして広く使われている。
名前をテントの杭と言って、この杭によって囲んだ範囲をモンスターの入れない安全エリアにすることが出来るのだ。
もちろんエリア範囲の限界はあるが、この杭が人類にとって画期的なアイテムとなった。
政府は主要道路をこの杭で囲んだのである。
ゲームにおいて店売りの杭は使い捨てアイテムだったのだが、プレイヤー産のものは魔法を込めることで何度も使うことが出来た。
政府は生産系のプレイヤーに急ぎこの杭を作らせて、全国に配り、まだまだ足りないまでも、安全圏は広がりつつあるという感じだ。維持がかなり大変であることはさておき、国民に安心感を与えることには成功したのである。
「何が出たかな? 何が出たかな?」
ふんふ~ん、と鼻歌混じりでゆえりが自分の旅行用のキャリーケースを引っ張って来て開いた。
現在アキラたちは、男子は本格的な登山用ザック、女子は海外旅行などに使われるキャリーケースを狩りに持ち込むようになっていた。
大きいアイテムをその場でチェック出来るようにだ。
家で発見すると、次の狩りまで分配が出来ないし、なんだか自分が不公平にアイテムを収得したようで落ち着かない気分になる。
そのため、段々収納用のアイテムがクラスアップしていった結果だ。
大人なら車があればかなり楽なんだろうな、というのが全員の気持ちである。
「あーやっぱり短槍だ」
ザックを開けたアキラの言葉に「あーあ、だから言ったのに」とゆえりががっかりした。
「じゃあ鑑定するね」
副部長が、いつものやさしい微笑みでそう言う。
とりあえず、アキラたちゲー研は、変わり果てた世界でゲーマーとして充実した毎日を送っていた。




