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現実と非現実

「えっ、それって……」

「クローゼットに入ってた」


 なぜすり鉢を探してクローゼットを開けたのかはともかく、副部長が手にしていたのは凶悪な外観を持つ大鎌だった。コレ持って外歩いたら一発で逮捕だろう。


「それおそらくスラッシュスパイダーのレアドロップだ」

「ということは、リュックに入らなかったからうちのクローゼットに出現したということか」


 副部長はため息をつく。

 いきなり自宅でそんな凶器を発見したらびっくりするのは当然だ。

 アキラはしげしげとその武器を見た。


「確か、それデフォで風属性付いてたはず」

「マジで? ……鑑定。あ、ほんとだ。村上さん使う?」


 副部長は天然を発揮して村上幸子に確認した。

 女子に大鎌。副部長もわかっているなとアキラは思った。

 しかし、残念ながら。


「私格闘家ですよ?」

「だよね」


 幸子に使えるはずがないのだ。

 

「それ特殊武器だけど、カテゴリー的には両手武器扱いだから」


 アキラが無駄知識を披露する。


「両手武器となると、俺、かな?」


 部長がしみじみと大鎌を見た。

 黒騎士に大鎌。サマになりすぎる。


「凶悪な取り合わせだ」

「ロマンを感じます」


 アキラとゆえりの評価である。

 二人共ファンタジーにロマンを感じるタイプだ。


「ふむ、俺としては使うのはやぶさかではないが、それを持って歩くとたちまち職質を受ける可能性が高いな」

「警察機能してるかな?」


 部長の言に幸子がツッコミを入れる。


「政府自体は動いているし、警察にも魔法使える人がいたらそのうち動き出すんじゃないかな?」


 と、アキラ。

 そのアキラの発言に、部長がなんとも言えない顔をした。


「警察と消防は昨夜かなり動いていたんだが、今朝は全く見なかったな。犠牲者が出たから出動が一時見合わせになったのかもしれん」

「犠牲って?」


 部長の言葉にアキラは不安そうに聞いた。


「ほとんどはモンスターに車両を潰されたんだが、なかには頭の茹で上がった魔法使いの攻撃を受けた事件もあったらしい。火事場泥棒というか、人がいなくなったコンビニとかに押し入って食料などを盗んでいた奴がいたらしくてな」

「うわっ、そんなことしている場合じゃないのに」

「いや、逆だよ。そいつおそらく今後のためにやったんだろう」


 部長の話にアキラがドン引きしていると、副部長が淡々と言った。

 全員の視線が副部長に集まる。

 未だ大鎌を持っている副部長は、本来の穏やかな雰囲気が逆に威圧感を与える存在となっていた。


「さっきアキラも言っただろう。今後の流通が不安だと。食料や水が災害時どころじゃなく滞る可能性が高い。その犯人はそう踏んだんだ」


 全員がゴクリと生唾を飲み込んだ。

 まさかモンスターだけでなく、人間も敵になるというのか、無政府状態の世紀末な世界に……みんなの顔がそう言っていた。


「そうだ! もうお昼のニュースの時間じゃない? テレビ、観よ?」


 ゆえりが提案する。


「そうだね」


 副部長も時計を見てうなずいた。

 スコープグラスのなかで副部長が瞬きをすると、広々とした壁の一部が映像を浮かび上がらせる。


「デカ!」

「映画館かよ」


 幸子とアキラが驚きの声を上げた。

 実際、壁にしか見えなかった場所がテレビ画面を映すと、窓のカーテンが自動で引かれ、さながら映画館の様相を呈している。


「別に俺が買った訳じゃないから」


 そっけない副部長の声に、その辺の話題はデリケートらしいとアキラは思った。


『それでは、今回の非常事態に対する政府からの発表を繰り返します』


 どうやら既に政府発表はあったらしい。

 今はその発表を周知するためのリピート放送のようだ。


『自宅にいる方は、お手持ちの情報登録機器の設定画面からプロフィールを選び、ホーム設定をONにしてください。現在避難中で自宅に帰宅出来ていない方は、外に通じる空間のない場所に身を置くようにしましょう。駅や空港は危険です。既にほとんどの場所では退避が完了していますが、これから避難をするという方はお気をつけください。情報端末にアクセスをして、緊急避難場所を確認し、そこに避難するようにしましょう』

「どうやら緊急避難場所がセーフティゾーンという考えはあたっているようだな」


 部長がニュースを聞いて確認するように言う。


「そう言えば駅に避難している人いなかったけど、危険だから退避させたのか」


 アキラがいまさらのように発言した。


「いまさらそれを言うのか」

「駅構内に入ったときにおかしいとか思わなかったの?」


 部長とゆえりのダブルパンチでアキラは「うぐぅ」と、ノックアウトする。

 そんなアキラのスコープグラスから電子音が響く。


「お?」

「ご家族じゃないか?」


 副部長に言われてアキラが発信相手を見ると、確かに父からだった。


「ったく」


 アキラはボヤきながら全員に背を向けて窓のほうを向き、電話をONにしてスコープグラスからインカムを引っ張る。

 電話している様子を見られるのが恥ずかしかったのでみんなから離れたのだ。

 親と距離を置きたいお年頃であった。


「なに?」

『今大丈夫か? 帰るときには父さん迎えに行くから連絡してくれよ』

「いいよ、武器を試したいし」

『お、属性武器出たのか?』


 父の声が弾む。

 ゲーム脳なので、息子がゲットした武器が気になるのだ。


「……うん」


 アキラのテンションが下がる。


『でも、ほら、試し撃ちはうちの近くでもいいだろ? そっちにほかのお家の子もいるんだろうし、一緒に家に送ってあげるから』

「あー」


 そう言われてみると、さすがに女子メンバーを単独で家に返すのはマズイ気がして来たアキラだった。

 いくらゆえりの魔法が強いとは言え、数の多い敵に囲まれたらヤバいし、幸子に至っては攻撃手段がまだない。

 二人共家はこの近くのはずだが、距離が短いから安全ということはないのだ。


「んー、まぁ」

『じゃ、待ってるからな。無茶するなよ』


 そう言って父からの電話は切れた。

 ふうとため息をついて振り向くと、みんながアキラのほうを見ている。


「あー、うちの親父が連絡したら迎えに来るって」

「え? お父さん大丈夫なの?」

「親父聖騎士だから」


 ゆえりの心配にアキラは答える。

 すごいな、親が聖騎士とか無茶苦茶現実味がない言葉だ。そうアキラは思ったのであった。

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