セーフティゾーンの条件
狩りは順調に進み、最後に駅構内がセーフティゾーンかどうかを確かめることとなった。
釣り役は、今はアキラと交代して格闘家ジョブの村上幸子が行っている。
アキラは周辺に別モンスターがいないかの確認役だ。
「お、来た」
幸子が引っ張って来たのはカマキリと蜘蛛が合体したようなモンスター、スラッシュスパイダーだ。
素早くて毒も持っている面倒な相手だが、今回は万が一の場合はトイレ通路から一方的に魔法をぶちこむ作戦となっているので、大柄な相手を探して釣って来たのだろう。
「キシャー!」
「ファイヤーアロー!」
今やパーティのダメージメーカーである桜山ゆえりが炎の矢を叩き込む。
スラッシュスパイダーのヘイトがゆえりに移り、一挙に駅へと直進して来た。
「来た!」
「奥へ!」
部長の指揮の元、全員が駅構内へと引っ込む。
いざ駅構内に飛び込む際に、「扉開いているかな?」というアキラの問いに、副部長以外の全員が真っ青になった。
幸い施錠する暇がなかったのか、もしくは逃げ込む人のためか、駅の入口は開放されていた。実は事前に副部長が確認してくれていたらしい。
「誰も聞かないからみんな確認済みかと思っていた」
とは副部長の弁である。
もし誰も確認しないまま入れないということになっていたらと考えて、アキラは自分たちの考えの足りなさに戦慄した。
ガランとした駅構内は以前の日常を感じさせない廃墟のようだ。
そんななか、ガシン! バリン! という音が響き、入口のガラス扉が破壊される。
「これ、怒られないかな?」
「モンスターのやったことだから大丈夫だろう」
部長の根拠のない断言に、全員が苦笑いを浮かべながら、突入にそなえて構えた。
「シャー!」
「入ってきたあああ!」
「知ってた!」
「セーフティゾーンなんて幻想だったんや!」
ゆえり、アキラ、部長、それぞれの叫びがスラッシュスパイダーの叫びと重なる。
「バカ言ってないで戦うぞ!」
副部長にたしなめられながら、トイレ通路へと向かう。
「ニャー、合流」
別入口から大回りして来た幸子が合流し、全員が揃った。
トイレ通路の曲がり角の手前で、魔法職を全面に配置してスラッシュスパイダーを待つ。
「シャッ!」
「来た!」
「あ、こいつ、壁に飛び移って横になって入って来た、ズルい!」
「言ってる暇に撃て! フラッシュボム!」
モンスターに文句を言う部長と違い、的確な判断の元、副部長が魔法を放つ。
その魔法の勢いにスラッシュスパイダーが通路から押し出された。
同時に、ふらついている。
「畳み掛けるね、灼熱の監獄!」
スラッシュスパイダーの周囲を炎の檻が囲む。必死で逃げようとするが叶わず、モンスターは真っ赤に溶けるように輝き、砕け散った。
「こええ……」
「電子レンジかな?」
アキラと幸子がそれぞれの感想を漏らす。
「ふう、これでラストだね。最後ちょっと焦った」
副部長が爽やかなイケメン顔で微笑んでみせる。
「いや、神さま一人冷静でしたし」
「さすが神やん」
「ほんと、その呼び名やめて、頼むから」
アキラと部長の評価に、内容よりも呼び名にへこむ副部長であった。
「でも、これで駅のなかがセーフティゾーンじゃないことがわかったね」
ゆえりが空気を変えるように結論を言う。
全員がうなずいたが、アキラが首をかしげた。
「そもそもセーフティゾーンなんてあるのかな?」
「あるよ」
アキラの疑問に答えたのは副部長であった。
「マジで!」
「さすが神!」
「いや、これ、俺の手柄でもなんでもないからね。実はうちのマンションのエントランスがセーフティゾーンだった」
部長とアキラの絶賛を軽く流して、副部長は既存のセーフティゾーンについて説明する。
「俺が思いついて鑑定した結果なんだけど、問題はどの時点でそこがセーフティゾーンになったかだと思うんだ」
「と言うと?」
アキラの問いを受けて副部長は話を進めた。
「うちのマンションはエントランスに避難して来た通行人を受け入れているんだ。もしかしたらそのせいでセーフティゾーンになったのかな? と思って。アキラが最初言っただろ、家はホームに設定しないと安全地帯じゃないかもしれないって。そういう判断が共有の安全空間であるセーフティゾーンの場合はどうなるのか知りたかった」
「そのための実験も兼ねてたって訳か」
「そうだけど、同じ共有空間でも駅はダメだったみたいだね。条件がわかればなぁ」
副部長は悔しそうだ。
しかし、アキラはそれほど深刻に捉えてはいなかった。
セーフティゾーンが実際にあるのだから、ほかにもあるはずだと考えたからだ。
「駅はダメでもほかにも大丈夫なところはあるかも。ほら、災害のときに避難する……」
「指定緊急避難場所か」
「そうそう、それ」
「なるほどな」
アキラの言葉に副部長は納得したようにうなずいた。
そこへ、ほかのメンバーから声がかかる。
「ね、とにかくここ移動しよう? 安全な場所じゃないってわかったんだし」
ゆえりである。
彼女は慎重派なので危険地帯にいつまでもいることに絶えられなかったようだ。
「わかった。じゃあ、ちょうどいいからうちのマンションでいいかな?」
副部長の言葉に、全員が一も二もなく了承した。
彼のマンションはこの辺りで一番の高級タワーマンションなのだ。
安全性というよりも、高級マンションへの興味が全員の顔に浮かんでいた。




