第3話「進行」
シロはどうやら会話が苦手というよりも、考えすぎてしまい、結果言葉が短く単語ごとに出てくるタイプのようだ。しっかりと会話中、何を考えているのか俺も一緒に考える必要がある。
「質問に答えてくれるか?」
その後、いくつか会話に謎な部分はあったものの、何とか現状について知ることが出来た。
・シロは俺の所有物らしい
・俺の名前は知らない
・俺は死んだ、そして違う世界に飛ばされたらしい
・シロはこの世界の常識を持っているがなぜかは不明
・スキルとスキルレベルですべてが決まる世界
・神殿でのみスキルとスキルレベルは見れる
・鑑定というスキルがあれば見れるがほとんどいない
・ここは盗賊のアジトで、捕まっている人がいる
・俺のスキルは不明
・シロのスキルは多すぎて言いたくないほど
大体こんなところか。俺の最悪な予想は正解だったようだ。異世界転生、日本にいたころは何度も憧れたが、そういった主人公は大抵チートを持っているからこそ死なないんだ。俺にはそんなスキルは持っていないだろう。だからこそ最悪なんだ。
しかも、常に自分のスキルレベルをみることができないというのもデメリットだ。鑑定持ちが敵に居たら、一瞬で殺されてしまうことがあるということか。なんとしても、鑑定への対処、もしくは鑑定持ちを仲間に入れる必要がある。とりあえずの目標にしよう。
名前は分からないという事だから、もう楠木集でいいだろう。シロと呼ぶのだから、俺のことも集と呼んでくれといったら、うなずいてくれた。少し残念な気もしたが、兎に角現状は何となくわかった。
「俺はシロの強さを正確には分からない。さっきの敵のレベルで何人くらいまでなら倒せそうだ?」
「ん、2万くらい」
シロ、強すぎました…。
恥ずかしいが、ここは俺の命を最優先としよう。女の子に守られるというのは、絵的にどうかと思うが、生き残ってから恥ずかしがることにしよう。
「シロ、捕まっている人を救出したのち、一番近い村に撤退。この世界のことを知ってから、さらに今後の方向性を決めたいと思うけどどうだろう?」
シロからの返事はなく、静かに頷きを返してくれた。なんでだろう、シロは俺のことを尊敬しているわけではないが、命令でなくてもすべて守ってくれるような気がする。変な感じだが、悪い気はしない。というか、こんなに可愛い子が俺の所有物とか言った瞬間にびっくりして気絶しそうになったのは内緒だ。
できる限り平常心でいることが、判断するうえでは最も大切である。そのためには、順応性を高めていかなければ、すぐに死んでしまうような気がする。気を張っていかなければ。
まずはこの狭い空間を再確認してみる。入口は一つ、先ほどの男たちが入ってきたところのみだ。出口が明らかではなく、シロしか戦闘員がいない今、狭い空間で順番に待ち伏せして倒すのが最善ではないだろうか。
「シロ、ここの地図…なんてものは分からないよな…流石に」
「うん」
流石に地形把握するスキルは持ち合わせていなかったか。探索とかいうスキルでもあるのだろうか。とりあえず今は置いておこう。
この空間を仮の拠点として、少しずつマップ埋めをするように慎重に動くことにしよう。先ほどの男たちが持っていた少し錆びた剣も持とうと力を入れてみたが、ひ弱な体では金属の塊は重かったのだろう、しりもちをついてしまった。恥ずかしい。
「…」
シロからの無言、視線が痛い。
もう一度、次はもっと重いものを持つように腰を落とし、しっかりと柄を握ってみる。少しふらつくものの、何とか構えることはできそうだ。
(アニメのようにうまくいかないもんだな…これが今の俺の筋力では限界か)
改めて、自分に筋力増強系スキルがないことを悟った俺は、少し強引にその剣を持ち上げようとしたものの、上手く運ぶ方法が思いつかず、最終的に引きずる形に収まった。
「うるさい」
シロさんに怒られました。俺だってわかっていたよ、こんなに金属音を響かせながら歩くことは自殺行為だという事くらい。
このままでは最低限の見せ場もなく終わりそうだ。いかんいかん、俺は今命を最優先にするんだ。四の五の言っている場合ではなかった。
「シロ、すまないが戦闘は任せてもいいか?」
「うん。集、足手まとい」
思いのほか使えないやつ認定されていることに悲しくなってきた。うなだれていると、シロがゆっくりと近づいてきた。身長差から、うなだれていながらも、見上げたその顔は、相変わらず可愛い。
「行く?」
そうだ、俺はシロと行動を共にしているが、他の人が捕まっているはずだ。最悪の結末が待っていないためにも、素早く行動しないと。
入口に差し掛かり、喧騒が聞こえていた方角を聴覚だけで探ってみるが、如何せん反響していてうまく位置がつかめない。
さてと、ここから先を見渡すが、細い一本道となっているようだ。おとなしくシロに先頭、戦闘を任せつつ、後方をしながら進むとしよう。大きな音を立てないようにゆっくりと歩みを進めていく中、ふとシロが時折こちらを振り向いていることに気づいた。
「どうした?」
「集、他の人、助ける?」
何を当たり前のことを聞いてきたんだとすぐに言い返しそうになってぐっと飲みこんだ。確かに不安要素は多い。もし、目の前で死んでしまったら俺は悪党でない人間の死に向き合うことが出来るのだろうか。そもそも、言語は通じるのだろうか、シロですら勝てない敵などの未知数など。
人を救う力も無く、安全も確保されていない。そんな中で、生きている人を救いたいと思っているのはエゴなのだろう。シロがいるからという慢心もあると思う。けれど…それでも。
「もう、後悔はしたくない。いや、後悔はきっとすると思うけれど、考えて考えて、そして出した答えならきっと未来の俺は納得してくれると思うんだ。
だからこそ、俺は今救える可能性がある人間を助けたい。シロにはその助けをして欲しい。頼む」
「わかった」
そう言い終えると、踵を返して早歩きで歩き始めたシロ。彼女がなぜ早歩きになったかは言うまでもないだろう。俺もその後姿を見失わないように追いかけた。
シロの横顔は少し笑っていた。
結局名前、分かりませんでしたね…