表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

情けは人の為にならない

作者: 一日一説

 パパからの手紙が届いた。月に一度、決まって木曜日に真っ白な封筒に入ったそれは送られてくる。

 これを書いているであろうパパの顔を最後に見たのは、あたしが小学4年生のときだったから10歳。パパと一緒に暮らした時間と離れ離れになってからの時間がとうとうおんなじになってしまった。

 パパはかれこれ10年ばかし、刑務所にいる。


 個人の能力向上、経験機会の確保がなによりも叫ばれ続けた現代。個人の価値を最大化させることで国の競争力を高め、人生の謳歌を奨励する価値主義が繁栄した時代である。

 行き過ぎた個人の優先が叫ばれながらも、政策はそれらの声を軽やかに聞き流したまま着々と彼らの設定したゴールを目指した。その結果、「実践によってこそ己は磨かれる」というスローガンを政府が掲げた。うねりをあげながら道徳を置き去りにしていく刻一刻に、一部の妄信的な信者を除いてただの国民に過ぎないあたしたちは振り落とされまいと必死だった。戦時中のようなトップダウンの熱狂が通り過ぎたあと、あたしたちの眼前に残ったのは声なき無数の蝸牛と凶弾に倒れたマザーテレサたちだった。


 パパは生来のお人好しだったという。その懐は人間を圧死させるほど深く、人々に翼を与えるほど愚かだった。キリストの親戚みたいなパパは変化する時代に合わせて自分を捻じ曲げられなかった。

 パパはいま、刑務所にいる。ほんの10年ばかし、情を捨てきれぬがゆえに彼は犯罪者であり続ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ