F-15EXって何
このところアメリカ空軍がF-15EXを買うという報道がにぎわっています。個人的まとめ程度のものですが、ここにもアップしておきます。
日本のF-15戦闘機には、近代化改修を受けたJ-MSIP機と、受けていない機体があります。後者は2018年12月時点で99機です(2019.01.05、『乗りものニュース」』竹内修「空自F-15J/DJ戦闘機、新たな改修でどう変わる? 新中期防、まずは20機から実施」)。
さらに諸事情で更新が遅れたF-4EJ改があります。学校などを除くと、第301飛行隊に残ったF-4EJ改の機数は小美玉市議会議事録によると「約20機」とされ、2020年度にF-35に改編を受ける予定です。
日本は2011年、F-4EJ改を更新するためとりあえずF-35Aを42機購入することを決め、現在順次届きつつあります。第302飛行隊がすでにF-35に改編され、残り半分が第301飛行隊というわけです。
2018年12月に決定した「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画(2019-23)」では、99機の未改修(pre-MSIP)F-15の更新のため、訓練機6機を加え105機のF-35を買うこととし、うち中期防の期間内に18機、最終的には最大42機を垂直離着陸型のF-35Bとする構想を打ち出しました。
約90機あるとされるF-2支援戦闘機の後継については、2020年に開発計画が固まってスタートする予定です。延命のため近代化改装も盛り込まれる可能性があり、当面「いつ何に更新する」ともわかりませんし、論じる時期でもないでしょう。
さて、ここで降ってわいた、アメリカ空軍がF-15EXをいまさら買い始めるという話です(2019.05.10『WING』(航空新聞社)、「F-15X予算案盛り込みで新生F-15現実化へあと一歩」)。
F-15が登場したころは、「戦闘機は戦闘機、攻撃機は攻撃機」と別々に用意するのが普通でした。A-10はアメリカの専業攻撃機として今のところ最後の機体です。F-15は高価だったので、アメリカはF-16と同時配備して数をそろえる方針を取りました。
ところが1990年代、湾岸戦争を経験するころから雲行きが変わりました。パイロットの訓練には巨額の費用と長い時間がかかるようになり、戦死者を出すことの政治的ダメージも昔の戦争より高まったため、いちばん生存率の高い機体を用意して何でもそれにやらせる方向へ多くの国が舵を切ったのです。デュアルロールという考え方です。
まず登場したのが、戦闘機だが地上攻撃能力も高いF-15Eストライクイーグルです。F-16にも様々な改修が施されて地上攻撃能力を持ち、当初は想定していなかった夜間や悪天候にも対応できるタイプが現れました。日本のF-2もこの方向にF-16を改修したものと言えます。
そして次世代戦闘機F-35は、飛躍的に向上したネットワーク技術を生かして、他の戦闘機が撃ったミサイルまで最新鋭の機体が集中管理できるものになりましたし、F-15がまったく持っていなかったステルス性能を持つようになりました。
さて、ロッキード・マーチンのF-35に大きなビジネスをかっさらわれたボーイング(かつてのマクダネル・ダグラスを吸収合併)は、F-15を近代化してある程度のステルス性能を持たせたF-15SEを日本を含めた世界各国に売り込みましたが、まったく売れませんでした。その間にも日本同様、アメリカ空軍のF-15C/Dも多くが近代化改修を受け、今でも改修内容そのものがときどき更新されています。
ボーイングは開き直ってステルス化をあきらめ、F-15EをF-35と一緒に働くミサイルキャリアに改造したタイプを提案しました。これがいま話題のF-15EX(複座型)で、パイロットの訓練が進んだら単座型のF-15CXにも注文が来るのでしょう。アメリカ空軍も、調達費も維持費も高いF-35ですべてのF-15を置き換えることにげんなりして、この決定に至ったようですが、現在残っているF-15C/Dの1/3ほどを置き換える数しか購入計画はないと報じられています。まあ空対空ミサイルを16発積める機体はそれはそれで特殊で、使いどころも限られるでしょう。
アメリカはF-15だけでなく、F-16も近代化改修してまだまだ使い続ける予定ですから、同じような「F-35を補完する、F-35よりは安い機体」はまだまだ登場するのだろうと思います。日本もまだまだF-15を近代化し続けるのでしょうし、その過程でF-15系の新造機体を買ってF-35の費用負担を下げる可能性もありますが、F-15CX/EXは日本にとってはそのままでは使いどころが難しいように思います。たくさんミサイルを釣れるように胴体内の燃料タンクを広げているのは好都合ですから、ウェポンベイをちょっと減らして安くした機体なんかが日本に来る日もあるかもしれませんね。