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続 ファンタジー世界の軍事

 ゲーム内の軍事組織、そしてそこに属したり協力したりするプレイヤーには、現実からズレたところがあります。それは案外、私たちが見落としている日常(の裏側)を反映しているし、その日常をシステムに任せてしまっているゲーム世界の住人が気にすることは、現実の人間社会とずれてしまうのですね。


 いい(うまい)プレイヤーとは何でしょう。まず操作上の技量があります。「上上下下左右左右ba」といった純粋な習熟・達成、そしてそうした個々の操作を組み合わせた手順への知識と、正しい選択があります。格闘ゲームで、互いに自分の武器・技で大ダメージを与えるチャンスを狙い、相手が持つ武器・技が生かせないように工夫しますよね。

 知識はこれと切り離せません。自分、敵、地形、報酬、武器や消耗品の貴重さと入手方法などなど。知識を前提とした「状況判断」もゲーム内での生死を分けます。HP回復手段がパーティにあとどれだけあるか、みんな気にしますよね。

 これらは軍事に限らず、どんなチームプレイにも必要とされることで、ゲーム内とは感じ取れる情報、連絡手段、できる動作が異なっているだけです。そのうちVR技術が進み、安価にもなれば、黒色火薬と無煙火薬の匂いをかぎ分けて敵部隊の武器を識別すると有利……などというゲームも出るかもしれません。


 MMORPGでパーティを組んだ場合、「標的の選択役(first attack=FA役)」と「リソースの配分役」がチームの攻撃力。防御力を生かすための中心になります。「集中攻撃目標の指定役(target leader=TL役)」をFAとは別に定めたほうがいいこともあります。

 FAはパーティの戦力に合った目標を選び、攻撃して戦闘に巻き込みます。多くのゲームでは「タンク」と総称される防御に優れた職種がいて、FAを担当します。敵の攻撃目標を自分にするスキルを持っていることもあります。敵の武器や危険度、戦場の地形を熟知しているタンクはパーティを勝たせます。

「リソースの配分役」は基本的にHPを回復させるヒーラーですが、魔法やスキルを使うためのMPを人に渡せる職種があれば分担しますし、戦闘に入ってから短時間のバフ(味方強化)・デバフ(敵弱体化)をかけられる職種がいれば、そのキャラクターが限られたMPをいつ誰に使うかはパーティの効率を左右します。「温存」という判断も大切になります。HPが自然回復するゲームなら、全員を常に完全に回復させておくことはヒーラーの限られたMPを無駄遣いさせていることになり、「オーバーヒール」などという言葉もあります。逆に危機にあれば、「誰を生かし、だれを死なせることで全滅を避けるか」といったトリアージも必要になります。

 実際の戦闘ではあまり起きないことですが、ゲームの戦闘では「次の敵をテンポよく戦闘に引き込む」ことでパーティの時間当たり攻撃力を最大限に発揮できます。ですからTLが今の相手をまだ攻撃しているうちに、FAが次の攻撃を仕掛ける戦術がよく取られるわけです。FAが複数の敵を引き付け、TLが1体ずつ集中攻撃を指揮していくような状況もあります。

 こうした「チームの利益」を考えて動ける人たちが、MMORPGでの「うまいプレイヤー」であり、(レベルが合えば)あっちこっちから誘われる人たちです。当然こうした能力は企業でも役所でも発揮されるので、こういう意味でうまい人たちはゲームで過ごす時間が短かったり、すぐ引退してしまったりするのですが……

 この「うまさ」には「勉強をする力」が伴います。情報サイトに書いてあることを頭に入れていないと、パッと出会ったモンスターとの戦いには間に合わないわけですね。

 実際の世界でも、士官向けの手引書や、兵・下士官向けの手引書は日本で言えば明治のころから多数出版されました。例えば、「歩兵士官でも砲兵と協力するために、最低限度は砲兵のことを知る必要がある」わけです。最初は兵・下士官は命令通りに戦っていればよかったのですが、だんだん覚えることも多くなってきて、「できる兵士」用の下士官ポストも増えてきたので、出世したい兵・下士官向けの本が出てきたわけですね。

 まだ鉄砲登場前の中世ヨーロッパの話だったと思いますが、歩兵が「人々」という意味の言葉で書かれている記録があるとチラッと(Wikipediaか何かで)読んだことがあります。この場合歩兵と言っても「教練を受けていない動員住民」であって、戦士として訓練されていれば騎兵なり弓兵なり、その専門性で呼ばれたわけです。ファンタジー世界での兵士社会がどうなっているかは、けっこう考えどころで、社会を丸ごと考えないといけないでしょう。

 貴族以外を士官に取り立てるかどうか、国によっては結構もめた過去があります。軍艦名にもなっているシャルンホルストは下士官の息子で、いちおう実家は土地持ちですがちっちゃな農地しかなく、貴族の子孫でもありませんでした。実家のあるハノーファー選帝侯領で士官になり、著書を何冊も出して注目され、そういうことに非常にうるさいプロイセン王国軍にヘッドハンティングされたとき、プロイセン王国から貴族に列してもらいました。といってもフライヘア(男爵)ですらなく、苗字にフォンがついただけです。


 大勢をまとめるギルドマスターといった立場になると、人の悩みを聞いてあげたり、他の勢力と妥協して城を攻めたりと言った政治家としての能力が必要とされます。大きな戦力をまとめたいと言う小ギルドのマスターと同盟交渉をして、相手が出してきた資料を見たことがありますが、典型的な「字の多すぎるパワポ」で、実生活でも「できるビジネスマンになりたい人」なんだろうなあと思いました。「ゲームAで大勢力を率いている人が息抜きにゲームBで一般人をやっている」例も見ました。「すいません城主になりました」といってぷっつりログインしなくなり、1か月後に「落とされました」といって戻ってきました。

 今にして思えば、「みんなで実生活を犠牲にしてレベリングして城主ギルドになろう」というのと「みんなで私生活を犠牲にして売上を伸ばして大企業になろう」というのは似てますよね。脱落者が出て崩壊しやすいのも。江戸時代に起きた「郡上一揆」も、殿様が高い役職について幕閣で出世のチャンスが生まれ、出費増を補うための増税が一揆につながったもので、封建時代に上を目指して領民に負担をかけた諸侯家はまだあるかもしれません。


 じゃあ逆にダメなMMOプレイヤーがやりがちなことは何かというと、誰でも思いつくのがトレイン/MPKで、なろう系小説にもよく出てきます。有力な敵から逃げているうち、通行人を敵からの攻撃に巻き込んでしまうことで、意図的にモンスターを押し付けることもできます。もちろん、壊滅させられるぎりぎりの敵を集めて、味方の待ち構えているところに戻れば、短時間で経験値を大きく得ることもでき、そういう狩りができるゲームもありました。「迷惑をかけるくらいならその場にて腹を切れ」というのがゲーム内の仁義です。

 FAやTLを使ったチームプレイに反して、余計な敵を攻撃したり、多すぎる敵を引っかけたりするのが、もう少し頻繁に見かけるダメなプレイです。敵や戦場の勉強をせず、適切なスキルを選ばないこともすぐ仲間に気づかれ、忌避されます。「効率無視のふざけた狩り」を楽しむ人は一定数いるのですが、不思議なくらい自然に「経営者意識」が生まれて、いい装備がないままレベルばかり上がっていく(当然、強くならないまま経験値が入らなくなるので行き詰まる)プレイスタイルに我慢ならなかったプレイヤーは時々見かけました。今までの遊び仲間とモメたくないので、別人キャラを作り直して遊んでいて、所属ギルドが元の仲間と同盟組む話が出てきて「ぎゃあ」とかね。

 別にダメなプレイではないんですが、勤め人やちゃんと登校してる学生がログインしづらい時間帯ってあるじゃないですか。平日の早い夕方に定期的に集まって、倒すとしばらく出現しない有力モンスターをごっそり狩っていく人たちもいました。必ずしも働いたら負けだと思っている皆さんではなく、いわゆる自営業の人もいたようでしたが、実生活のありようがストレートにゲーム内の稼ぎに反映されることもあるわけです。

 現在のソーシャルゲームでもいくらかそういうシステムを残しているものがありますが、特定曜日の特定時間帯にログインできないとチーム成績に悪影響が出る場合、出て来ない常習犯に対して風当りやひそひそ話が生まれることがありました。

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