ファンタジー世界の軍事
ファンタジー一般に対して特にマニアだとは思いませんが、RPGやMMOはずいぶんやってきました。特定の時期と地域のこと以外は割とどうでもよいのですが、行き掛かりだったりついでだったりで多少は和洋中世の武器や組織のことも知っています。「軍事的にそれっぽいファンタジー」はどんなものになるか、ちょっと語ってみましょう。
「皮留め」という言葉があるように、武具材料の他領への販売を禁じたり、関係する職人の移籍(?)を制限したりすることは、戦国時代には時々起きました。その世界の技術・魔術体系で、武器や防具に関係する人、素材、あるいは武器そのものには何らかの国家統制がかかっていると考えるのが自然でしょう。逆に軍隊が使うものでも、食料品などであれば、民間商人に任されていても不思議はありません。
経済取引である以上、成功もあれば失敗もあります。例えば戦争が急転直下の講和で終われば、不良在庫を抱えた政商は倒産するかもしれません。例えば1812年にイギリスがナポレオンに勝って(もう一度脱出されましたが)戦争が終わったとき、イギリス海軍はぐっと縮小されたので、西インド諸島の大商人だったトマス・ピンカートンは高い戦時価格で買い集めた物資が売れず、破産しました。
食料は民間商人、武器弾薬などの統制品は制服軍人か、少なくとも政府に雇われた軍属が運んでいて、護衛の充実ぶりに差がある……などということもあるかもしれません。地形や輸送手段によっては、独立性の高い「水軍衆」のような集団がいて、戦略輸送を請け負うかもしれません。アイテムをそのまま運べる「インベントリ」「アイテムバッグ」といった道具立ては多くの「なろう系」ファンタジーに登場しますが、例えば第2次大戦の諸国陸軍にとってフォークリフトは夢の存在でした。現実離れしていると言っても程度の問題に過ぎないとも言えます。ですからそのアイテムバッグ持ちをめぐって、その世界なりの兵器と部隊を使って大小の襲撃作戦も立てられるでしょう。
例えば耳を覆う兜には、指揮官の指示が聞こえなくなる欠点がありました。乱戦になったら、もう勝つか散り散りに敗走するか、そこで死ぬかしかなかったわけです。もちろん信号弾のようなものがあれば話は別でしょう。多くの「なろう系」ファンタジーで、主人公たちは通信上の優位を持っていて、連携の悪い敵を一方的に苦しめます。ただし、現場の状況をリーダーが細かく迅速につかめるほど、ひとりひとりに任される行動が減って、リーダーが決めることが多くなるでしょうね。もちろんそうすると、リーダーの地頭と言うか、処理能力が問われてきますが。
もう少し近代的な組織だったら、情報処理と判断を分担するでしょう。雑然とした情報を受け取った参謀役が、ノイズを除いた情報にしてリーダー役に示し、行動を提案します。情報の解釈が正しいかどうかも含めて、リーダー役がそれを採るか判断します。社会事情によっては、主君に「行動を提案」するのは非礼かもしれません。つまり、主君が何を望んでいるのか臣下が決めつけることになるからです。
どんな時代であれ、敵に遊兵を作り、味方を最大限に戦力として生かすことができれば勝利のカギとなりえます。だからますますそうなるのですが、互いの戦力比がどれだけあったら勝てるとか負けるとかいう議論は、その戦力をどう数値化するかによって結論が違ってきます。兵器のカタログスペックは比較的簡単に集まりますが、弾薬の補給状況などは資料が見つからないのが普通です。生産量は在庫量ではないし、生産量も在庫量も前線に届いた量ではありませんからね。航空優勢を戦力比で判断するには、地対空ミサイルと航空部隊をどうにかして足し算しなければいけませんよね。その難しさはどんな時代も同じです。




