1.素人でもいいから数を揃える件
ロジット分析という統計手法があります。ロジット関数の値は0~1ですが、その裏に0か1であらわせる現象があります。これは「購入する/しない」「特定政党に投票する/しない」「特定の病気と診断される/されない」といった、「それぞれの人、企業、その他のサンプルについて、どっちだったか客観的に判断できること」をあらわします。ロジット関数の値が上がると言うことは、1になる確率が高まると言うことです。
例えば喫煙者かどうかが各サンプルについてわかっていれば、それは特定の病気になる確率をどれくらい上げるのか評価できます。ただしロジット関数の形に工夫があって、1が出る確率はけっして1にも0にもならないようになっています。
皆さんの周りにも、長生きしている喫煙者がいくらかはいるはずです。買うつもりのなかった、いつもなら買わないものを買ってしまうこともあるでしょう。
例えばタンネンベルクの戦い、カンネの戦いなどは、兵力で劣った側が作戦で勝ったとされる戦いです。まあ簡単に言うと、「そんなことは滅多に起きないから、歴史に残る」のです。「滅多に起きないことが起きてしまった原因」は勝った側にあることもありますし、負けた側にあることもあります。
人間は確率の絡んだ事柄を客観的・整合的に判断していくことが苦手です。実際には全体像が見えにくい事柄について、たまたま知っている事例を使って、他もそうだろうと決めつけてしまうことがありませんか。例えば「作家は食えるのか」「漫画家は食えるのか」といった、多くの人が知りたがっている問いに短く正しく答えることは困難です。しかし「自分の周りの事例」をもとに一般化して考えてしまう人はよくいますよね。むしろそれは、仕方のないことかもしれません。皆さんも進学とか就職とか結婚とか、大切なことをエイヤッと決めたことがあるでしょう? 1年延ばせばもっといい判断ができたでしょうか?
ネットワークトラブルに対処してきたベテランの人が、ある時ボソッと「人員の数より要員の数」と言ったことがあります。素人でもたくさんいたほうがいい時もありますし、管理・教育負担も考えれば多数の素人が短期的に状況を悪化させ、その間に決定的な破局が起きてしまうこともあります。ただ危機が長期にわたるなら、逆に要員を休ませるために素人を盾に使い、ある程度の状況悪化を受け入れたほうがまだましかもしれません。
主語を大きくすればするほど、その言葉が正しくないケースを見つけることは容易になります。まあ〇〇警察の鉄則ですよね。今回も、「素人でもいいから人数がいたほうがいい」と一般的に言い切ってしまったので突っ込まれ放題になったのだと思いますが、「クオリティで優れた側が兵力差に敗れた」事例は拾えば拾えるでしょう。
「第2次大戦のソヴィエト軍は人海戦術でドイツに勝った」というイメージは広く受け入れられていると思いますが、じつはこれも難しいのです。ソヴィエト軍が甚大な人的被害を出したことは広く認められた事実で、ソヴィエト崩壊後の研究で「軍民合わせて死者不明2660万人」と増加し、なお研究が続いていますが、これと「特定の戦場で数的優位を得ていた」ことは別の話です。例の「親衛軍」「親衛戦車軍」といった称号は戦いに勝って獲得したものが多いのですが、いくらかの待遇改善と引き換えに、そうした相対的にハイクオリティの部隊は重要作戦に呼ばれて勇戦を期待されました。砲の数、弾薬量で人数以上の差が付き、目端の利いたドイツ軍司令官はソヴィエト軍捕虜の話などから準備砲撃の来るタイミングを割り出し、自分の歩兵をいつもの場所から数時間退避させて損害を減らしていました。人数で物を言うこと自体、戦いの一面でしかないわけです。