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元勇者の趣味2

 聖剣ステラ。

 

 俺の愛剣の名だ。

 


 俺が聖剣ステラに出会ったのは2年前のこと。

 

 ちょうど勇者になったその日に俺はこいつに出会った。

 こいつが俺を選び、英雄の資格を与え、自らを抜かせた。

 聖剣ステラを抜いた当初は英雄に俺が選ばれたんだと舞い上がったものだが、その後、過酷な日々を過ごしていくうちに聖剣ステラを抜いたことを後悔するようになった。


 しかしながら、時に敵を倒す矛となり、時に俺を守ってくれる盾となる聖剣ステラは幾多の戦場を共に駆け抜け、その過酷で苦汁な日々を一緒に過ごしていくうちに俺の愛剣となっていた。


 所謂、愛着が沸いたというやつである。

 

 よく、こんなことはないだろうか。

 いつも同じ服を着てしまう。

 だがいつも着ているからボロボロになってきた。

 だけれど、なかなか捨てることができない。

 そのような服が一着や二着あったりしないだろうか。

 それは長い間着用するうちにその服に愛着を覚えたからではないかと思う。

 

 このような例で例えるのは聖剣ステラに失礼なような気もするが、俺はそれ以上にこいつに愛着を抱いているからこいつも怒らないだろう。

 

 だから、今では聖剣ステラは俺の相棒だと思っているし、こいつも同じように思ってくれていたら嬉しいなと思っている。

 

 そういう理由もあり、俺は毎日聖剣ステラの手入れすることを欠かしたことはない。

 戦闘時は流星のように眩くキラキラと輝く聖剣ステラだが、常時は普通のブロードソードと変わりはなく、ただの武骨な金属の塊という感じだ。

 

 

 だが、そのような姿で俺が許すわけがないだろう。

 せめて、ピカピカで綺麗な状態でいさせたい。

 聖剣なのだから武骨ながらも聖剣にふさわしい姿で保っててやりたい。

 

 何よりも愛剣と称しているほどだ、俺に妥協するなどという余地は存在しない。

 

 だから、毎日毎日欠けるはずのない刃を砥石で砥ぎ、羊毛で拭うのである。

 それが決して壊れることも傷むということもないと言われる(・・・・)聖剣ステラでもだ。

 

 ようは心の問題であった。

 自己満足と言ってしまえばそれまでだ。

 

 けれど、そんなに時間もかからないし、ついつい忘れてしまいがちになりそうな単純な作業なのだが、欠かすことは決してなかった。

 


 そのように趣味とも言える日課をリビングで行っていると、丁度俺の正面でソフィーが謎の物体を一生懸命俺と同じように磨いていた。


 「ソフィー、一体何を磨いているんだ?」


 気になった俺は単刀直入に尋ねてみる。

 すると、それまで俺と同じように一心不乱に黙々と謎の物体を磨いていたソフィーは俺の言葉に耳をピクピクッと動かし、ゆっくりと顔を上げてこう返してきた。


 「水晶」


 (はぁっ?)

 

 あっぶねー! 思わず口に出す所だった。


 いやいやいや。

 今、この方『水晶』って言ったよね。そんな見た目微塵もしていないし、見るからに歪な形をし、禍々しい黒色のオーラを放っているのだが――


 「本当に水晶なのか?」


 俺が訝し気に聞き返すと、むっ、と少し不満げな雰囲気で肯定の頷きを返す。


 だが、普通、水晶っていうものは透明色をした手のひらサイズでガラスの球体をいうのではないだろうか。

 それが俺の認識であり、世間でもそういうものなのだと思っていたのだが……。

 

 しかし、俺が――彼女が磨いている物体を謎の物体Xと呼称しよう――彼女曰く水晶だという謎の物体Xを二度見、三度見、四度見してみてもその姿は当たり前だが変わることなく、黒色のオーラを発する歪な形をしている物体のままであった。

 

 あえて水晶と同じ点を挙げるとすればその大きさが手のひらより少し大きいという所だけだろう。

 

 まあ、でもだ。

 彼女が水晶だというのだから水晶なのだろう。

 

 俺の先入観で物事を決めつけるのはよろしくないことだし、ここは俺が妥協すれば済む話だ。

 俺の心の中が驚愕で渦巻いていた間もソフィーは相も変わらず謎の物体Xを磨いていたが、俺が聞いたのに何の返答もないことに疑問を抱いたのか首を傾げ、不思議そうな無表情で俺の顔を見つめてくる。

 

 思考の渦からやっと我に返った俺は会話を再開する。


 「それが……仮に水晶だとして何に使うんだ?」


 それをまだ水晶だと信じ切れていない俺の言葉を気に留めることもなく、ソフィーは淡々と単語を返してきた。


 「占い」


 まあ、そうだよねぇっ!?

 水晶の使い道なんてそれぐらいしかないしなっ。

 

 仮にその歪な形をしている物体Xを鈍器として用いるとしたら命の保障などないだろう。

 確実に死ぬね。その形は危ないもん。

 武器ではないことを聞いて安心した。

 

 そもそも、ソフィーは神官なのだから水晶の一つや二つ持っていたとしても不思議ではない。


 「そうか、じゃあ試しに俺を占ってくれないか?」


 その物体Xでどう占うのか興味をそそられた俺は、恐る恐るといった様子で半々の心境でソフィーに頼んでみた。

 

 俺の言葉にソフィーは的中率半分だけどと言いながらコクンとうなずき返し、俺の占いを開始した。

 それから、物体Xをソファーから取ったクッションの上に置き、その上にソフィーは徐に両腕の手のひらをかざし、目を閉じる。

 

 (使い方は意外と普通なのね)


 とか思いながら、ソフィーの占いが終わるのをじっと待つ。


 しかし、いつまで経っても終わる気配がなかった。

 

 五分、十分、三十分。

 

 まだ終わらない。

 だが、ソフィーの無表情は真剣そのもので話しかけられるような雰囲気ではなかった。

 

 それからさらに三十分経ったくらいだろうか。

 俺がウトウトと船をこぎ始めたころ、突然ソフィーの目がパッと開き、小さな口を開けて一言こう俺に告げた。

 

 「何も見えなかった」


 (おいっ! 一時間かけて収穫がそれだけかよ!! 俺の一時間返せッ)


 流石に一時間も占ってくれたソフィーにそんなこと言えるわけもなく、密かに心の中で突っ込んだ。

 

 なぜに一時間もかけて何も見えなかったんだよ。

 そしていかにもなにか見えましたよ――と言った仕草はなんだったの?


 「……あ、今見えた。水だって」


 (水っ?! 水だってて何! 何なのさっ!?)


 漏らしちゃうとかそんなんじゃないよね?

 おしめとかしといた方がいいのだろうか?

 

 ……なんともまあ、曖昧な占いである。

 それも的中率半分か……。

 あまり、気にしない方が吉かな?

 流石にこの年で漏らしたりするわけないし……。

 

 まあ、それでも一時間もかけて俺のために占ってくれたわけだし、礼はしっかり言わないといけない。


 「俺の頼みを聞いてくれてありがとうな、ソフィー」


 丁度いい、手ごろなサイズのソフィーの頭を撫でながらそう告げると、気持ちよさそうに目を細めんがら無表情でコクンとうなずくのであった。

 癖でいつも頭を撫でてしまうが特段嫌がっているようすはないのでよいことにしよう。


お読みくださりありがとうございます。

ブックマークつけてくださった方がいたので四日連続投稿です。

それはさておき皆さんは無口女子ってお好きでしょうか?

ちなみに自分は大好きです。いつも何考えてるか分からない子がふと自分のために何かしてくれるっていいですよね。

たとえそれが自分から頼んだことでもです。


ということで次回の更新も未定です。

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