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元勇者の趣味1

 皆さん、こんにちは。

 みんな趣味というものをお持ちだろうか?

 人生や生活の中であった嫌なことや思い出したくない事を忘れさせてくれる趣味。

 趣味に没頭している時は、心が癒される。

 そんな趣味についてだが、俺にも三つほどある。他にもあるのだが、それが主なものだ。

 これから普段俺が楽しんでいる趣味の様子を語っていきたいと思う。

 最後まで付き合ってくれるとこれに勝る喜びはない。       

                                by元勇者


 とある日。

 

 元勇者自宅の裏庭で頭部に白いタオルを巻き、熱い直射日光に汗水垂らしながら、一生懸命くわを振るう一人の男がいた。

 そうだ、何を隠そう元勇者の俺である。

 


 数年前突如勇者になり、祖国を魔国の侵攻から退け勝利に導いた。

 濃密な数年間を生きてきた俺は現在、勇者を引退した後、癒しを求め俺が打診・・・・し、王国の計らいで王都近辺の湖畔に建てられたマイホームでスローライフな日々を送っていた。



 そんな俺がなぜこのクソ暑い中鍬を握っているかというと、もう薄々気づいている人もいるかもしれないが土を耕すためである。

 鍬なんだからそれぐらいしか用途がない。

 もし、特殊なプレイに使っているやつとかいたらそれはもう変態の域を通り越して大変態だ!

 

 …………


 くだらないギャグに付き合ってくれてありがとう。

 これで今回の話は終了です。

 ……嘘です。ちなみに今のギャグの肝だけど――

 

 そんなことはどうでもいいんだよっ! 

 早く話を進めろ! くどくどと面白くないんだよっ! 

 寒いギャグとか言って誰が喜ぶんだよ、お前だけだろうが! 

 こういう話が一番嫌いなんだよっ! 


 とかいう天の声が聞こえたので仕方なく話を進めることにします。ごめんなさい。

 

 さて、冒頭でもあったようになぜ俺が鍬を持って土を耕しているかというと、

 近隣町で、初めての農業セットと肥料を大量に買い込み、今一生懸命土を耕し、最終的に畑を作ろうとしているからだ。


 俗に言う自家農園というやつである。家庭農園とかとも言う。


 自家農園だが――スローライフの醍醐味というやつではないだろうか? 

 

 いや、あくまでも俺の主観だから思い違いだったら申し訳ないのだが、少なくとも俺のスローライフのイメージの中に畑で野菜を育てて収穫☆が存在しているのだ。

 

 だがこれが意外と大変な作業で、普段使わない筋肉を使っているせいかすぐに疲れてしまう。

 休み休み耕しているのだが一向に進む気がしない。理想の半分くらいといったぐらいだろうか。

 

 ここで、身体強化を行えばもうちょっと楽に作業を進められるんだろうが、普通の農民はそんなことをしていない。俺の身体能力だが実はそこまで高くない。

 まあまあ、運動神経が高いぐらいである。

 いいや、ちょっと盛りました、平均ぐらいです。

 

 俺が勇者や冒険者をやれていたのはある程度鍛えていたというのもあるが、身体強化の術に長けていたからでもある。それでも実際のところはそんなに体力もない。

 

 だからそれほどまでに身体強化の術は便利なのだ。

 その便利さ故に使えるものも少ないのだが。


 一つは俺みたいにたまたま才を持っていたタイプ。二つ目は努力で勝ち取ったものだ。

 身体強化の術を使える者は上級の戦士ぐらいのレベルまでいかないといないのである。

 

 また、クロエにでも頼めば土魔法ですぐに耕すこともできるのだろうがそれもまた趣の問題で却下である。何よりこれは趣味であり、世の中には楽をしない方がいいこともあるのだ。

 


 そのような取り留めもないことを考えながら、えっほらえっほらしていると――


 「シン様、何をしていらっしゃるんですの?」

 

 さっき心の中で噂をしていたからだろうか、クロエが白いTシャツの上からオーバーオールを着て、つば広の麦わら帽子を被り、いかにも農民の娘です! といういでたちをしてそう尋ねてきた。


 (まて、というかその格好思いっきり手伝う気満々で来てるじゃん)


 心の中でそう思ったが、言わぬが花という事であえてそこには触れず、


 「畑を作っているんだよ。家庭農園でもしようと思ってさ。せっかく周りに広大な土地があるんだからもったいないだろ? 作った野菜でシチューを作るのが今の目標だなぁ。といってもまだまだその目標には届きそうもないけどな」


 クロエはそうした俺の小さな野望に目を輝かせて――


 「それはいいですわね! ワタクシもシン様の汗のにおいをかぎ――ゴホンッゴホンッ……お手伝いをさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 「……あ、あぁ、構わないが……俺も人手が欲しいなと思っていた所だから助かるよ。だけど魔法はなしで頼むぜ? ここまできたらせっかくなら最後まで純粋な肉体労働だけで畑を作りたいからな」


 なんだかクロエから欲望のような危ない単語が発せられた気がするが、物凄い満面の笑みで見つめられているから断るに断れなかった。まあ、最初から断る気はなかったのだが。

 実際、一人じゃ限界を感じていたしな。この調子じゃ土を耕すだけで今日が終わってしまいそうであった。

 

 さっき言った言葉は実際に感じた素直な本音であったのだ。


 「はいっ! ワタクシ張り切って誠心誠意シン様にご奉仕致しますねっ♡」


 ……うん。

 俺の理解力が足りないのかハートマーク付きのピンクピンク色したなぜだか意味が分からない言葉が聞こえた気がしたが、行動自体は俺の近くに来て、壊れた時ように念のため買っていたスペアの鍬を握って一生懸命土を耕し始めてくれているから気にしないでおこう。


 クロエが加わったことによって順調に作業は進みようやく土を耕し終わる。

 その後、余計な砂利や雑草を取り除き堆肥を入れ、畝を作った。


 そしていよいよ作った畝に種をまく作業に取り掛かるのだが、

 俺が黙々とその作業を行っていると、土を耕し終わった段階で疲れ果ててしまい、家の縁側で休んでいたはずのクロエが、いつのまにか隣でご奉仕を再開していた。

 すると、


 「ウニャアアッ! シン様あぁっ!!」


 突然奇声を発したクロエがま隣で作業していた俺に抱き着いてきた。

 長い時間の重労働で結構足腰にきていた俺はクロエを抱きとめることができずに抱き着かれた勢いのままクロエもろとも地面へと倒れ込んでしまう。


 「シン様ぁ! シン様ぁ! シン様ぁ!」


 『ムニュ』

 

 (えっ。ナニコレ新触感)


 なんだか一瞬気持ちのいい感触がしたが、泣きじゃくるクロエの声を聞いて冷静に戻る。

 目に涙を浮かべながら俺に必死にかつ強く抱き着いてくるクロエの肩を強引に掴み俺の身体から引き離す。

 実に残念であるがしょうがないのである。俺は漢だが、クロエの求婚を断っている以上男ではないのだ。こんな役得はゆるされないのだ。実に無念だが! 無念だが……。

 というか、結構ガチで抱き着かれて痛かったのである。爪も背中に食い込んでたし。

 

 とりあえず何があったのかをクロエに確認してみることにした。


 「それで、急にどうしたんだよ? まあ、まずは落ち着けって。泣いてたら分からないだろ?」

 「うぅ。グスンッ。虫が……虫が急に穴からニョロっと出てきたんですよ。虫だけは……虫だけは苦手なんですぅ」

 「虫って……お前、さっきまで俺と一緒に土耕してたじゃないか。その時は平気だっただろ?」


 そうである。

 さっき俺の隣で鼻をフガフガさせ、ハァハァ言いながら超満面の笑みで俺と一緒に土を耕していたのだ。 虫が嫌いだとかそのような素振りなんて微塵も見せていなかった。というか疲れた原因そのフガフガハァハァだろ。

 

 俺の疑問に対し、


 「だって、その時は立ってたからあまり気にならなかったんですもん。それに武器も手に持っていましたし、大丈夫かなって。グスン」

 「武器って……お前…………」


 鍬を武器というのはどうなんだろうか。

 

 いや、まあ確かに一見武器に見えなくもないけど俺たちの生活を支えてくれている鍬さんにその言いようはちょっと失礼な気がしないでもなかった。


 そう思った俺だが、一旦その思いを端に追いやり未だにグスングスン泣きじゃくるイニアをなだめることにした。


 「分かったからもう泣くなって。ほら――」


 そう言葉をかけてふるふると震えている手をギュッと握ってやる。

 すると先ほどまでグスングスンとうめいていたクロエは一応の落ち着きを取り戻した。

 そして残った目元の涙を拭いながら――


 「ありがとうございます、シン様。あと背中汚しちゃってすみましぇん。ワタクシダメですわね。シン様のお役にたとうと思ってたのにこんな邪魔しちゃって」

 

 泣き止んだばかりで呂律が回らないクロエは噛みながらもまた泣き出しそうな悲しい顔で謝罪してくる。

そんな落ち込んでいるクロエを元気づきたくて、


 「邪魔なんかじゃねえよ。クロエに手伝ってもらってからここまで作業が進んだし、もう畑の完成も近い。俺一人だったらまだ畑耕してたと思うぜ。だからクロエが邪魔だなんて思っていないし、むしろ感謝しているくらいなんだぜ。それに虫くらいなんだ! もしまた怖い虫が出たらいつでも俺の胸貸してやるよ。なんてなっ!」


 二カッと笑ってクロエにそう告げる。

 最後のは元気づけるためのちょっとしたつい口から漏らしてしまった冗談だ。

 我ながらキザでクサいことを言った自覚があるので、ちょっとばかし照れくさい。


 「えっ?! 本当ですか、シン様っ! じゃあ今すぐに――クンカクンカ、ハァハァ、シン様の汗のにおい美味ですぅ! ワタクシ急に元気なってきました!」

 「ちょっ! まてっ、クロエ冗談だって! 離せっ! 今すぐやめろぉぉ――」


 俺の冗談を真正面から素直に受け止めたクロエが速攻で、俺に抱き着いてくる。

 そして汗のにおいをかいで堪能している。

 こんなことなら元気づけるためだとしてもあんな冗談言うんじゃなかった……。

 

 いや、冗談と分かっていて抱き着いてきているだろっ。

 さっきまで泣きじゃくっていたのが嘘のようにニヤニヤと鼻頭をこすりつけてくるし。

 とんだ変態である。

 やっぱりこいつはヤバい奴だっと俺はクロエを再認識した。



 それから、なんとかクロエを引きはがし、その後無事種まきを終え、畑に水をかけて俺の農園は完成した。

 

 

 なんだかんだあったが、蒔いた種が無事に育つことを心の中で願うのだった。



またまたブックマーク登録してくださった方がいたので調子に乗って三日連続投稿です。

ありがとうございます。

うーむ、前半がちょっとくどいかなーと読み返して思ったけど直しはしないことにしました。

自分への戒めのためにそのままでいきたいと思います。

もうちょっとクロエをクローズアップしたかったんですけど構成ミスですね。

人に見せる分に関してはそうしたことも考えないといけないなんて……、それを上手に構成する作家さんたちはすごいな~とつくづく思いました。

一つの文を極端に膨らませるとこうなるんですね~。反省です。


あとがきが長くなってしまいましたが今回も、また新しく読みに来てくださった方も最後まで読んでくれてありがとうございました。次回の更新も未定です。

追記:クロエの名前に誤表記があったので修正しました。


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