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スローライフの脅威達

 それなのに――

 

 「あんた今ずるしたわねっ!」

 「何を言っているのですか! これは正当に認められたルールに基づいてますよ!!」

 「言い訳はダメ」


 これはどういう――


 「ほら! ソフィーだってそんなルール知らないって言ってるじゃない。あんたの負けよ! 潔く負けを認めなさい!」

 「なっ?! イリスさん知らないんですか! これはワタクシの里に伝わる――」

 「はぁ?!このゲーム最近発売されたばかりじゃないの――」


 ことだろうか……。

 たまらず俺は優雅な朝に欠かせない朝食後のアフターカーフィーを一気に飲み干し、


 「うるせーーーーーー!」


 勢いよく立ち上がりリビングで何かのゲームに興じて喚いているバカどもに声高にそう叫んだ。


 「うにゃっ?!」

 「きゃぁっ?!

 「っ?!」


 俺の叫びに叫ばれた三者は三様にビクッとしながら個性的な可愛らしい悲鳴を上げる。


 「急に叫ばないでよ! びっくりしたじゃないっ! 口から心臓が飛び出るかと思ったわよ。急にうるさいわよ気取り勇者」

 「シン様、急に叫ばれると体によろしくないですよ?」

 「うるさい」


 「うるさいのはおまえらだ! 朝からギャーギャーワーワーと。というかお前らいつまでうちに居やがる気だ?! 二日で帰るんじゃなかったのか? そう言ってからもう十日も過ぎてるぞ!最初のうちは大人しくしていたからよかったものの慣れてきたら勝手気ままに生活始めやがって。俺の優雅な朝が台無しじゃねえか! あと、イリス! 何が気取り勇者だ!!」


 「気取ってるじゃないのよ! 何が『ふっ。優雅な朝だぜ』よ! あんた冒険者の時も勇者の時もそんなエレガントさの欠片一ミリも見せたことないじゃないのよ! それとここにいるのはね……思ったよりここ居心地いいのよ。精霊も多いし、ご飯もでるし。あと、別にあんたのことが気になってここに残ってるわけじゃないんだからね! そこんとこ勘違いしないでよねっ! ふんっ!」


 今、可愛げもなく言い返してきたのは妖精種エルフ族のイーリスだ。

 

 明るいエメラルドグリーン色の瞳と髪、長い耳が特徴の少女だ。

 俺が勇者をやっていた時の仲間の一人で、とにかく言動と態度がトゲトゲしている。

 その癖、精霊術と弓に長けていて、やるときはやるやつだから中々表立って文句も言えなかった。    

 二番目に長い付き合いであり、愛称はイリスだ。

 だけれど、俺だって勇者の役目が終わったのだから文句の一つや二つ言ったところで問題にはならないだろう。

 というか飯が出るのは俺が作ってるからだ。

 別にこいつらのために作っているわけではない。単に料理が好きで、ついでに作ってやっているだけだ。そこんとこ勘違いしないでよねっ! である。

 ちなみに朝は各々の起きる時間が違うからセルフサービスだ。



 大体故郷に帰るって言ってパーティーを離れたはずなのにそんな日も経っていないうちに突然俺の自宅に来て、


 『二晩ここに泊まるからよろしくー』


 とかなんとか言って突然押しかけてきたのだ。

 そして何故かまだ家に居座ってやがる。

 一体何がしたいのか俺にもさっぱりだ。

 


 小ばかにしたような顔でそう言うイリスに対して


 「おまっ! どこで聞いたその言葉! 心の中でしか言ったことないはずなのにっ!?」


 俺は顔を引きつらせてイリスに問うと


 「そりゃ、何年間も一緒にいたらあんたの考えている事の一つや二つなんて分かるわよ。ここに来た二日目にはもう気づいてたわ。アフターカーフィーだか飲んでるあんたのニヤニヤしている顔を見て分かったわよ。今朝もそんな事考えている顔してたわ。うわぁ、あの顔思い出すと鳥肌立ってきたわ……気持ち悪っ!」


 心底気持ち悪そうにイリスは両手を組んで二の腕の部分をさする。

 そんなイリスに対して心の中の言葉が聞かれていた恥ずかしさでもう何も言い返す気力もなくなった俺はクロエに話を振ることにした。


 「ハァハァっ。シン様に罵られましたわ。ハァハァっ。」


 「ハァハァうるせー。で、クロエも2日だけのはずだったよな? 確か、お前も一旦里に帰らないといけないとか何とか言ってたなかったか?」



 イリスの正面で一緒にゲームに興じていた黒髪、オッドアイのハァハァ言ってる少女もまた俺の古くからの仲間である。



 俺たちの労働が終わった後、こいつもまた一度里に帰るとかで別れたはずなのにイリスと同様で同じ日に押し掛けてきたのだ。


『シン様っ! ワタクシ我慢できなくなって来ちゃいました!! キャッ♡ ッ?! イリスあなた何故ここにいるんですの?! 抜け駆けは許しませんわよ!』


とかなんとか言って、十日経った今日もいる。



 もうクロエに関しては昔からおかしいやつだから半ば諦めているのだが、


 「それは決まっているではありませんか! シン様のいるところがワタクシの居場所、ワタクシのいるところがシン様の居場所。愛に生きるワタクシは愛するシン様の元を離れることなんてできません。そういうわけでシン様今すぐワタクシと結婚致しましょう! そして永遠の愛を誓いましょう! あとよろしければもっと罵ってくださいませ!」


 またもや変なことを言うクロエに向かって、


 「よろしくもないし罵りもしない。 もう、お前に関しては諦めてるからいいわ。後は好きにしてくれ。あと、結婚はしない」


 冒険者時代からの一番長い付き合いだからクロエとは気心が知れたところがあるが、ここ数年間の濃密な生活を考えると恋愛や結婚などと言ったいかにも気を遣いそうで面倒そうなことに時間を費やす気力なんて今のところ起きないのだ。

 それになにより、こいつの場合は変態だし、なんか怖い。

 たまにこちらをジーっと笑顔で見つめていることがあり、その笑顔を見ると背筋がゾクッとするのだ。

 

 そんな訳で、二人目も早々に諦めをつけ、最後の一人に話を振ることにした。


 「ソフィー、おまえに関しては公務大丈夫なのか? とだけ言っておきたい」


 丁度イリスとクロエの斜め中間地点でまたもや同じく何かのゲームに興じていたソフィーに問いかける。

 

 祈祷師のような純白の衣装を身にまとった赤色の髪の毛をもつ小柄な少女がソフィーである。

 基本的に言葉少なで仲間になった当初は小さな口から発せられるその単語の意味を理解するのに苦しんだものだが今では大体理解できるようになった。

 理解できるようになったのも少しはしっかりとした言葉を発するようになったからだ。

 しかし時たま思い出したように単語のみで話すことがあるのでいまだに苦労することはある。

 

 そして、俺が公務といったのは、ソフィーは王族だからだ。

 仲間になったときはそんなこと知らなかったし、あとから国のヤバい奴らが来て、国に召喚されるまでは分からなかった。

 


 そんなソフィーもさっきの二人と同様急に家に押し掛けてきて、


 『休暇、二日』


 とかなんとか、ではなく、

 とだけ言って家に居座っているのである。



 そんなソフィーだが、


 「問題ない」


 そう言ったきり、もう話は終わったとばかりにサッと顔を逸らす。

 

 いや、それ絶対大丈夫じゃないやつだろう。

 顔を逸らしながら問題ないと言う言葉のどこを信じればいいんだよ。

 戦時中だったあの時はともかく平時に一国の姫が十日も城を空けて、問題ないはずはないと思うのだが……。そしてソフィーのことだから誰にも告げずに出てきたに違いない。

 

 だが、いつも最低限のことしか話さないソフィーに対して何を言っても無駄だろうと結論付けた俺は、


 「国の奴らが来ても知らないからな。俺は一応忠告はしたし、国への義理は果たした。あとは自己責任でやってくれ」


 ソフィーにあとは丸投げしたのだった。

 

 ソフィーももう子供ではない。

 成人している立派なレディーとして自分のことは自分でね、という何かあっても自己責任で解決してもらうことにした。


  何よりもソフィーの前のさらに個性的な二人とのやり取りで疲れていたため、もうそれぐらいしか口から出る言葉はなかったのが本音だ。

 三人目もまた早々に諦めてしまった、そうした俺に、


 「そんなことよりも、アンタも一緒にこのゲームやりましょうよ。作りが凝っててかなか面白いわよ」

 「そうですわ、シン様! このゲームならばシン様と結婚も夢ではありません。さらに子供も作り放題! ウフフ、ジュルリッ」

 「遊ぼ?」


 そんな彼女らにもう何も言う気にもなれなかった俺は、ええいっ! と吹っ切れて、


 「しょうがねえ! やるからには全力で勝ちに行くから覚悟しろよ!」


 と、一旦頭を空っぽにして彼女らと一緒にゲームに興じることを決めたのだった。

 


 (一体いつまでこの騒がしい朝がつづくのだろうか……)



 そう思う元勇者であったが、一度頭を空っぽにした元勇者はすでに仲間三人同様もうゲームに夢中になっているのであった。

 

 そうして、元勇者の理想としていた(・・・・・・)スローライフは開始早々幕を閉じたのである。


今朝サイトを開いてみるとブックマーク登録してくださった方がいて嬉しかったので二日連続投稿することにしました。ありがとうございます。今回はキャラ紹介でしたが次回からは美少女たちとの触れ合いがきっとあります。

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