最終話 王立学校冒険科
「えー、こんにちは! 勇者です! ん……? いや、今は元勇者か? まあ、そんなことはどうでもいいな。――改めまして、今日特別講師として呼ばれた、勇者をやっていたシンだ! 気安く、勇者とか、シンさんとか呼んでくれ」
俺は今日、王都にある王立学校に来ていた。
元々王都まで出てきた理由が――この王立学校で一日だけだが――この王立学校に特別講師をしてくれと頼まれたからだ。
特に断る理由もなかった俺は二つ返事で了承し、指定された前日にこの王立学校がある王都まで赴いた。ちなみに、他の三人は依頼を受けていないため今日も王都観光に行っている。
昨日は、街でショッピングをしたり、食事をしたり、殴られたり、頭のおかしい奴に会ったりと忙しかったが、そんなことを理由に一度引き受けはずの依頼をドタキャンするほど非常識な人間ではない、と思ってる。
そう。
今日になって、物凄く面倒くさいな、などと思っていてもだ。
いや、だって、昨日があまりにも疲れる事ばかりだったからさ。
主に後半。精神的に。貞操の危機だけに!
「んじゃ、さっそく特別講義を始めよ――」
――うか!
と、王立学校冒険科に在籍している目の前のお坊ちゃま、お嬢様方に言おうとしたところ。
「――俺はこんなやつの講義なんぞ受けないぞっ!!」
急な横やりが入ってきた。
いいや、教室に入ってきて中を見渡した時に、薄々こういった展開になりそうだなとは思っていたのだが。
「ああ! 俺もだ! こんなどこの馬の骨だかもわからないやつの講義なんざ受けられるか!」
「そもそも本当にこいつ勇者なのか? 貧相な見た目してるじゃないか!」
そして、そう発言したやつらに同調して周りのやつらも、俺もだ、俺もだ、俺もだ、と騒ぎ立てる。
そんな奴らに俺は額をピクピクさせながら――
「んあーーーーーーーっ! うるせー! 俺もだ俺もだ俺もだって! お前らは俺もだしか言えない呪いでもなんかかかってんのか! 貧相な見た目して悪かったな! これが俺のスタンダードだよ! ちょっと自分ではイケてるかな? とか思ってたのにこともあろうにお前ら、俺の自信作にケチつけやがって……。今日のために新調したんだぞ! いくらかかったと思ってやがる!」
「スタンダードじゃないじゃねえか! おい! お前ら聞いたか、こいつ今日のためにこのダッサイ服新調したんだってよ! プーッ」
「はっ! ダサッ! 自称勇者ダサッ! プーッ」
「プーッ!」
俺もだ、俺もだ、俺もだループの次はプープープーループが始まりやがった。
はぁ。
来て早々もう帰りたくなった……。
帰っていいかな先生?
という視線をこのクラスの担任に送ったのだが――
「プーッ!」
――てお前もかよっ!
このクソ担任絶対あとでしめる。
そもそも今日ここに俺を招待したのはこの担任ではなかった。
この王立学校の理事長。
王都の主にして、この国のトップ。
つまりは王だ。
なぜ俺が二つ返事で了承したのか、というわけもここにあった。
王の命令に背けば、良いことなどあまりない。
絶対的ではないが、少なくとも強制力はある。
それは俺にも言えたことで……、何よりも今一緒に自宅で――公務がない時以外だが――なぜか生活しているソフィーに迷惑がかかる。
元勇者の仲間、とは言っても今でも仲間だと思っているソフィーに迷惑がかかるようなことはしたくなかったのだ。
また、もし王都観光もするなら宿代も出すよ、と言ってくれた王に対して断る理由も大して見当たらなかった。
そして、ダメ押しは、破格の報酬。
これが一番大きかった。
戦争の後に少なからずの報奨はもらっていたのだが、何分、金のかかる家に住んでいるのでお金が沢山あるに越したことは無かった。
さて、未だに生徒と一緒になってプープー、プープー言っているお貴族様の担任含めた全員に――
「……買った」
「「はっ?」」
「その喧嘩買った! て言ってんだよ! さっきからプープープープー散々こけにしやがって。どこの馬の骨だかも知らない自称勇者だと。……ダサい、見た目だと。ダサいだと。もう、許さねえ。なにせ、俺は元勇者だが元冒険者でもある。冒険者の中にはな、売られた喧嘩は買うって主義があんだよ。少なくとも俺がいたところはそうだった。いいか! よーく、聞けガキども! これからお前らが飛び込もうとしている世界は強さこそが全て! 強さこそが正義の世界だ! そんなお前らに俺の強さでもって、俺が正真正銘の勇者であると証明してやらあっ!」
♢
と意気込んだのだが――
「ちょっ、お前ら三十対一とかズルくねっ?!」
「へっ! 強さこそが正義なんじゃなかったのか? それじゃあ俺たちは数による強さってわけだぜ!」
「覚悟、どこかの馬の骨野郎っ!」
「くたばれええ、自称ダサ勇者っ!!」
――早くもピンチに陥っていた。
この学校の生徒はどうなっているのだろうか。
あまりにも卑怯で上から目線で、人間として酷すぎないだろうか。
まあ、ある程度の予想は着く。
この冒険科の生徒の大半は貴族の三男、四男とか、家にとったら後も継げぬ厄介者。
そして立場故に卑屈さを持つ。
その卑屈さから生み出される悪心と貴族という自尊心が合わさって、このような本当の意味で厄介な者たちになってしまっているのだろう。
しかも、へ理屈までつくと来た。
もう嫌になっちゃうぜ……。
ああ、ここにソフィーとかいれば、王女様の特権とやらでこの生意気な奴らも黙らせることができたのだろうけど。
「聖剣ステラ。シャドーサーバントサモン!」
「「っ?!」」
元勇者としての汚名返上をすると言った以上、まだ冒険者にもなっていない生徒に対して卑怯かな、とは思ったものの聖剣ステラの隠し機能を使う。
ちなみに俺に歯向かってきた奴らの中にお嬢様方はいない。
彼らが俺に食って掛かった時点である程度このような状況になると予想したのか、そそくさと、それでも上品な振る舞いで静かに教室から出ていった。
悲しいことに止めてはくれなかった。
「なんだこいつはっ!?」
「どっから現れやがった!」
「なんで真っ黒なんだ?!」
急に地面からヌルっと現れた、俺が召喚したシャドーサーバントに対して驚きの声を上げる生徒たち。
「ふっ、秘密兵器というやつだ。安心しろ、かーなーりっ、強いが、怪我はしないから。ああ、でも痛みは感じるから気を付けろよ?」
俺が召喚したシャドーサーバント、実は魔物である。
といっても、人間に害はない。
聖剣ステラの隠し機能で、戦闘訓練用の疑似生物だ。
強くて、攻撃もしてくるが、なんせシャドーであるため怪我はしない。
だけど、痛みに関しては存在するため侮れない。
また、しっかりとこちらの攻撃は通るのでその辺は安心してほしい。
え? 勇者の実力を証明するのに聖剣ステラの隠し機能を使うのはズルいって?
ハッ!!
そんなこと関係ないねっ!
俺の服装を馬鹿にした罪を償わせる必要があるからねっ!
別にダサいとか言われたの気にしてないけど、俺の沽券に関わるからねっ!
生徒たち+担任の様子はっと――
「「「うぎゃあああああああああああああああああっ!!!! いてえええええええええええええええええええっ!!!!!」」」
俺のシャドーサーバントくんが三十名に無双していた。
担任とかは、腐っても担任だからある程度は抵抗できるからと思っていたのだが。
「ひいええええええええええええええええええええっ!!!」
そうでもなかったらしい。
そういえば、このシャドーサーバント複数あるサーバントの中でも三本の指に入るほどの強さだった。
ワスレテタヨ。
相手に攻撃を加えられないから 攻撃手段としては使えないけど、相手を精神的に苦しめるという手段としては使えるな。
戦争の時、もっと使えばよかったな。とはいっても聖剣の力が圧倒的過ぎてそんなこと考えもしなかったんだけどな。
そうは言っても、
『ポンッ』
薄暗い色をした煙のようなもやを残して唐突に先ほどまで生徒たち+一名を苦しめていたシャドーサーバントが消失した。
結構維持コストかかるんだよな~。
俺と一対一で戦闘訓練するに関しては大丈夫なのだが、流石にこの数を相手にするには聖霊力も足りなかったようだ。
ただでさえ、吸収効率と蓄積量が悪くなっている俺の聖霊力が大分減っているのを感じる。
まあ、それでも一定の効果はあったようで――
「「「すんませんでしたーーーーーーっ!」」」
未だに痛みに悶絶しながらも、俺に対してそのように謝罪の言葉を全員述べてくるのだった。
相当に苦痛だったらしい。
最低限以上の聖霊力を込めてサモンしたかいがあったものだった。
でも、あとで王にはちくらせてもらうのは決定事項だけどな。
IF END
ここまでお読み下さりありがとうございました。
ブックマーク登録ありがとうございます。
無事最終話を迎えられました。
あれ? 中途半端じゃね? と思った方は活動報告後でアップしますので覗いて頂ければと思います。
新連載5月1日から順次アップしていきたいと思ってますので、興味がわいたら読んでくれると嬉しいです。
作品名は「俺の蘇生スキルが優秀すぎてヒロインが死なない!」です。
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