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賢者


 俺たちが小部屋に入ると、開いていた扉と思わしき部分がシュッと閉じる。

 次の瞬間、地面に張り付けられる感覚が襲う。

 その後軽い浮遊感を覚える。


「うおっ?! なんだこの感じは、なんかむかむかするな……」

「うえぇ~、気持ち悪い」

 

 俺とイリスがその不快とも思える感覚に対して表情をしかめながらそれぞれ感想を述べる。

 ソフィーとクロエも同様で、不快気な顔をしていた。

 その数十秒とも思える――実際は数秒だったが――気色の悪い感覚は唐突に終わりを告げ、俺たちがこの小部屋に入ってきたときと同様に、扉と思わしき部分がシュッと開いた。


 「こちらです」


 そう俺たちを手で促しながら告げる女性――彼女の主人によるとマドールさん――の後に続く。

 そしてしばらく、先ほどいた部屋と似ている真っ白な、置物なども何もない廊下を進むとマドールさんが立ち止まる。


 「ご主人様、お客様をお連れ致しました」


 と報告するマドールさんに対し、


 「はいはーい、お疲れちゃんね~、今開けるから少し待ってね~」


 と誰かの声がしたと思ったら、行き止まりかと思っていた目の前の白い壁が先ほどと同様に――ではなく、プシュ―ッ音立てながら開き、その扉の先に一つの人影が見えた。


 「いらっしゃい! 私のラボへ! とりあえず中へ入ってくれたまえ!」


 傲岸な態度でずいぶんとテンション高く話しかけてくる人物こそ。


 「……賢者マーガレット」


 俺が会いに来た本人であった。



 「いやあ! さっきは面白いものをみせてくれてありがとうね! おかげでいい実験データが取れたよ! ついでに楽しむこともできたし、私は満足だっ!」

 「満足だっ! じゃねえよ! 俺の方はおかげでとんだ災難だったわ! 危うく俺の大事なファーストキスが奪われる所だったぞ!」


 満足げな表情でそのようにのたまってくる賢者マーガレットに向けて俺は苦情を言う。


 「何を言うんだ? 私の言う通り良いことが起きたじゃないか、なぜ文句を言われないといけない。他の三人も満足だっただろう?」


 しかし、彼女にとって俺の言葉なんて初めから眼中になかったようで、他の三人に感想を求める。


 「ワタクシは、その~、悪くはありませんでしたけれど……その間の記憶がちょっと曖昧なんですわ」

 「私もシンになんであんなことしたなんて分からないわよ、正気を失っていたとしか思えないわ。じゃなきゃ、私があんなことするわけないじゃないっ、べ、別にぃやだったわけじゃないけど」

 「シンの性欲魔人」


 クロエは何か納得のいかない様子で、イリスに関しては最後の方が声が小さくてよく聞こえなかったが、いつも通りだ。

 ソフィーに関しては――


 「だから俺は悪くないって言ってんだろ。そこにいるやつが犯人だよ。というか私が犯人だって言ってただろ」


 不名誉なことを言ってくるが、俺はマーガレットを睨み据えながら先ほどの元凶の彼女を指し示す。

 どちらにせよ、三人も良い事だったとは思っていないようだ。


 「はっはっは……あれ? あまり皆の様子が芳しくないねっ! まっ、それはそれ、これはこれ、っということでさっきの件は忘れようじゃないかっ!」


 俺たちの責めるような視線に焦りをきたしたのか、あわあわしながら水に流し、濁そうとする賢者マーガレット。

 そんな都合のいいマーガレットに対して、


 「忘れられるわけねえじゃねえかっ!」


 ――と、ケガさせない程度に頭をはたくのだった。


 「んうぅ~……イタイじゃないか。私は暴力は反対だぞっ。勇者のろくでなし。童貞。先生に言ってやるっ」

 「ど、ど、ど、童貞じゃないしっ! 馬鹿にすんなし! 俺だってその一度や二度くらい……、というかお前に先生なんていないだろ! くそ、俺としたことがこんな言葉に惑わされるなんて……」


 つい俺の漢としてのコンプレックスを言われてしまい動揺してしまった。

 それよりも――


 「さっきの薬はなんだったんだよ?」


 ふーふーと呼吸を整えてから気になっていたことを賢者マーガレットに尋ねる。


 「ふんっ、童貞でろくでなしで暴力勇者なんかに教えてやるもんか」


 チッと舌打ちが出そうになるが、紙一重のところで我慢して、


 「……はたいて悪かったよ」


 ついさっき勢いで頭をはたいてしまったことを謝罪する。


 「えっ? なんだって? よく聞こえなかったなぁ?」

 

 ……。


 「あああああぁぁっ、だから俺が悪かったよ! 頭叩いて悪かったて言ってるんだよ!」


 いやらしい顔で問い返す賢者マーガレットに怒鳴る手前の口調で再度謝罪の言葉を述べるのだった。



 「で、さっきクロエとイリスとソフィーが飲んだ薬って何だったんだ?」


 機嫌を取り戻した賢者マーガレットに気を取り直して尋ねる。

 俺の問いに、ニヤッと笑みを浮かべた賢者マーガレットは、


 「『媚薬』さ」

 「媚薬? なんだそれは?」


 聞いたことのない薬の名に首を傾げながら、同じ言葉を繰り返す俺。

 そんな俺の不思議そうな顔を見ながら、


 「ああ、媚薬だ。効果は、ふっふっふ、人の性的欲求を高めるっというものだね! 記憶が曖昧になっちゃうってところが今後の課題だね!」


 と自慢げに告げてくる賢者マーガレットに――


 『パッシーン!!!』


 媚薬を飲まされた三人が改めて頭をはたき直した。


 「なっ?! 痛いじゃないか!」 

 「痛い――」

 「――じゃない――」

 「――かじゃないですわよ!」


 「なんてもの飲ませてくれてるんですの! どうせならシン様に飲ませて下さればよかったのに!」

 「そうよ! 危うくシンに――えっ? クロエ?」

 「シンのエロじじい」


 賢者マーガレットに文句を言うかと思いきや――イリス以外とんちんかんなことを言い出した。

 というかソフィー、お前はもう俺の悪口を言いたいだけだろ。

 あとで覚えてろよ。

 しかし三人は怒り心頭と言った感じで、


 「それは一先ず置いといてですね、一本頂けますか?」

 「私も一本もらっといてあげる」

 「……、十本」


 ――でもなく、なぜか媚薬のあまりを催促するのだった。

 そんな三人に、


 「いやあ、すまないね。サンプル以外余りはないんだよ」


 俺の時とは打って変わって、いやらしい顔もすることなく、立ち直っていた賢者マーガレットが申し訳なさそうに告げる。

 その事実に三人は、ならしょうがない、といった感じでしぶしぶながらも納得するのだった。



 「そういえば、今日は何の用事で来たんだい?」

 

 場の空気を切り替えるように、賢者マーガレットが今日俺たちがここに来た理由を尋ねてくる。


 「ん? ああ、そうだったな。ちょうど王都に来たからな、戦争の時世話になったし、その時の礼を言おうと思ってな」


 そう、俺たちが魔王国との戦争をしていたときに少し世話になっているのだ。

 といっても、直接戦闘で世話になるということはなかったが、賢者マーガレットの言う実験の合間に息抜きで作るハイポーションの斡旋を優先してくれていたので、ずいぶん戦闘で助かっていたという恩があったのだ。

 ちなみにこいつは自分のことをマッドサイエンティストだかなんだかと言っている。

 意味は分からないが、ろくな意味ではないだろうということは字面からなんとなく分かる。

 また、王都が急激な発展を遂げているのもこの賢者の功績だったりする。

 本人は好き勝手に研究し、開発や発明を行っているだけだが。

 彼女の研究で出てきた副産物の技術を国の機関が拝借しているというわけである。

 そんな彼女だが――

 

 「いやあ、それはわざわざ悪いね! まっ、私としてはちょうど実験台が欲しかったからナイスなタイミングだったよ。その時の礼は今日付き合ってくれた実験でチャラということで一件落着だね! よかったよかった!」

 「よかったよかった、じゃねえよ……、はぁ、もう突っ込むのも疲れたわ。そうだな、もうそういうことでいいわ」


 才あるものはなんとやら、なのかどうかは分からないが突飛な性格をしていた。

 その性格に引きずられて、発言の内容もちょっと、どころではなくかなり変わっている。

 そして、お調子者とくるので話していて疲れてくる。


 「すまん、もう今日は疲れたから帰るわ。とりあえず、もっかい礼だけは言っとくわ」

 「あれ? もう帰っちゃうのかい? 来たばっかりじゃないか。もう少しゆっくりしていってくれればいいのに。まだ、君たちで試したい実験がいくつかあったんだけど――」

 「じゃあなっ!」

 「あっ! ワタクシも!」

 「待ちなさいよ!」

 「待って」


 また不穏気なことを言い出したマッドサイエンティストマーガレットの言葉に、俺+手に何か入った小瓶を持った三人はその場を慌てて立ち去るのだった。


お読み下さりありがとうございます。

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