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王都観光

 とある日。


 元勇者一行である俺を含めたいつもの四人は王都に来ていた。

 

 『王都ラムダ』


 今、世界で急激に発展を遂げる都市の名だ。

 そして、俺たちの住む王国の中心地であり、首都でもある。

 その人口は湖の近くにある町の人口をはるかに超え、百万以上の人々が暮らし、そして出入りしている。

 

 元々は半分くらいの人口であったのだが、戦争により生まれ故郷を失った難民や復興のために呼び寄せられた人材が来たことで、世界で見ても少なくなかった人口にさらに拍車をかけたのである。

 

 おそらく今世界で最大かつ最先端をいく都なのではないだろうか。


 「はぇ~、ほんとすげぇ変わったよな、ここ」

 「そうですわね。ワタクシ興奮しちゃいます」

 「ほへぇ~……」

 「……」


 俺の感嘆に各々も感嘆のついでに肯定を返してくれる。

 ソフィーに関しては度々帰ってきているので大した驚きはないようだが。

 

 ここ一年とちょっとでここまで変わるのか? というぐらい本当にこの王都の姿は変わっているのだ。


 その都市には――ソフィーに大体聞いたのだが――高層ビル?などが立ち並び、家も石造りや木造建築という部分は変わらないがその外装を大きく変化させていた。

 

 王城に関しては、何あれ?

 

 という感じである。

 増築されたのか、建て直したのかわからないがさながら荘厳健美な要塞みたくなっている。

 もはや美しいのかそれとも厳かなのかその違いがわからない。

 だけど一つ言えるのはゴツイ、ということだった。


 一年間講和会議で王都を留守にしていた王様は我が城と王都のあまりの変容ぶりに驚いて、思わず、


 『ワシ、この国にいらないんじゃ……?』


 と言ったぐらい発展を遂げていた。

 まぁ、その陰には超優秀な執政官の苦労もあったのだがそれはまた別の話。


 

 で、なんで俺たちが王都まで出向いてきたかというと王都にある王立学校に俺が特別講師として招かれたからだ。

 

 こんななりと言動でも一応は勇者をやっていた元勇者である。

 それに冒険者時代は一線と言わなくともそこそこ活躍? していた記憶はないが、それなりに実績と経験もある。

 また祖国の英雄が講義をしてくれる、という部分が今回招待された主な理由なのだろう。


 そういった理由でわざわざ数時間かけて王都に赴いてきたわけだが講義は明日なので一日余裕がある。

 今朝早くから出てきたため、日もそんなに高く昇っていないうちに到着できていた。

 一日早く来たのは念のため早く来た、ぐらいの理由に過ぎない。

 

 しかし、もしかしたら楽しみに待っているかもしれない子供たちに――ちょっとトラブルがあって今日勇者様は来れないそうです――などと悲しませたくない。

 もちろんそうした理由もあった。

 俺はデキる大人なのだ。

 自分で言うと子供っぽく感じるが……。

 

 


 それで、半日とちょっと空いている俺たちだが何をするかはもう大体決まっている。

 

 一つ目は王都まで来たんだし観光して帰ろうぜってことで、王都観光。

 二つ目は王都にいる知り合いに久しぶりに会っていくか、ということだ。


 この王都の様変わりした町並みを楽しみたいし、気になるお店なんかもちらほらある。

 また王都には戦時中にお世話になった人もいるので、別に旧交を温めたいわけではないが、せっかくきたならお礼でもやはり言いに会いに行くのが常識だろう、と思って一日の目的のうちに入れたのだ。


 観光に使える時間は三から四時間くらい、知り合いに会いに行くのに三時間くらいを見積もって行動すれば大丈夫かなっとある程度の目算をして予定を考えている。



 んじゃまあ、とりあえず先ずは王都観光から行ってみよーということで、


 「でかッ!? 何コレ! でかっ!!」

 「なんだかワクワク致しますわねっ!」

 「ほへぇ~」

 「この中に店が沢山入ってる」


 ある一つの超大型ともいえる――これまたソフィー曰く――ショッピングモール? なる建物の目の前まで来ていた。

 クロエはもはや王都の変貌に順応したようで、イリスは未だにほへっているようだ。

 

 それにしても、


 「これって一つの大きな店なんじゃないのか……?」


 ソフィーが言うには超特大の建物は一つの店ではなく、この中にさらに店が沢山入っているとのことだ。

 

 普通の店でも色々な種類のジャンルの異なる雑貨を置いている複合店なるものがあるが、基本的にはここまで巨大な建物ではないし、同じ建物の中に別の店が入っている、などというものは聞いたことがない。

 一般的には一つの建物に一つの店が入ると言う感じで独立しているのだ。


 だからソフィーの言った事は俺たちの常識にとっては範囲外の事なのである。

 

 ちなみに俺たちも講和会議に参加していたため王様の帰国とともに、一度王都に訪れているのだが、そのときはこの建物の存在に気が付かなかった。

 戦いが終わったとはいえ、そこから身体が動かせるようになってからは強制的に講和に参加させられていたので、立て続けに労働したためにものすんごく疲れていたのだ。

 もはや、王都観光どころではなかった。

 そのせいもあり、湖畔に家を建ててもらったわけだし。



 「ずっとここにいてもしゃあないし中に入ってみるか」


 俺がそう言うまで建物の目の前でいつまでもその建物の大きさとガラス張りの多い異様な外装に居てしまいそうだったソフィーを除く二人に声をかける

 

 さっそく回転扉になっている入り口をくぐって中に入ってみたのだが、意外と中は明るかった。

 この大きさじゃ中まで光が届かないんじゃないか、とか思っていたがそれは俺の思い過ごしだったようだ。

 

 よーく見てみると建物の中心部分が螺旋階段とともに吹き抜けになっており外光を上手く取り入れ、また各階の光が届きにくい部分には細長い棒状の物体が天井に取り付けられ光を発していた。

 どのような仕組みかはわからないが一種の魔道具なのだろうと勝手に納得する。


 入り口をくぐって少し進んだ先に案内板が設置してあり、どの階のどこどこにこの店がありますよ、と地図付きで示してくれていた。

 また先ほどは中の意外な明るさに驚いていたせいで気が付かなかったのだが、思ったよりも人がごった返していた。


 こりゃあ、はぐれないように気を付けないとなーと思った矢先にソフィーが人の流れに流されていくのが見えた――のでソフィーの手をひっつかんで引き戻す。


 危ないところだった。

 

 気を付けろよ、とソフィーに叱っておく。

 別に親子じゃないんだから叱る必要はないのだが仮に王女なのだから人ごみの多いところで一人になるな、という意味合いを含んでいるのだ。

 人がいないところで、一人でいる分には、誰もいないから誘拐とかされる危険性は少ないと思うんだが、このような人ごみの多いところのほうがむしろ危なかったりする。

 

 人が人を隠し、またその人が人を隠すのだ。

 誘拐犯にとってはいい隠れ蓑が存在するのが、ある意味集団だったりする。

 だからわざわざ、もしソフィーの顔を知っている誘拐犯の格好の餌食になる必要はない。


 まあ、それでも念のため正体がばれないようにフード付きのローブは着ているのだが。


 


 「シン様似合っていますか?」

 「ああ、似合ってる」

 「どうかしら? 悪くないと思うんだけど」

 「ああ、似合ってる」

 「シン、感想」

 「ああ、似合ってる」


 どこに行っても女子は女子ということなのか俺たちはある洋服店にいた。

 こういうと女性差別のように聞こえるがただ単に女性って服などのおしゃれなものが好きな人が多いよねというだけである。

 その例に漏れず数ある店の中で一軒目は洋服店に来てのだが――


 「「「ふざけてる(んですの)(のかしら)(の)っ?!」」」

 「いやあ、そんなこと言われても……」


 女性陣三人にブチギレられた。イリスに関しては青筋を浮かべている。クロエはただジッと微笑んでいるだけだ。ソフィーはいつもと変わらない。

 だってしょうがないじゃん。

 女性の服の良し悪しなんて分からないし、似合っている似合ってないぐらいしかぶっちゃけ分からない。

 文句を言うのなら最初から感想を求めないでほしい……。


 確かに? 俺も何も考えないで感覚だけで発言したからデリカシーがなかったかなとは思うんだけど許してほしいのが男心というものである。


 しかし、俺の素っ気なく聞こえた感想を許せないのか尚も責めるような目で見る三人に、もう一度感想をしっかり告げたのだった。


 「本当に似合っているぜ――変わらないじゃないのっ――ゴフッ」


 だが、イリスに顔面を殴られたのだった。


 その後は、魔道具店やら雑貨屋やら色々とまわって、ショッピングモールをあとにした。

 


お読み下さりありがとうございます。


この作品を書いてて思ったのが、ストーリー性のないものを描くのは難しいな、と。

今ストーリー性あるものを書いているのですが、断然書きやすい。

そう言う意味で、日常系などというジャンルを書く方たちは一話一話の構成が上手なのだなと思います。

新作は今のところ進捗具合からして1話だけ先行投稿して、正式には5月1日から連載しようかと考えています。もしよろしければ、この作品の最終話で宣伝しますので、覗いて頂ければ嬉しいです。

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