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噂の正体


 次の日。

 

 「みんな今日は悪いな。俺の用事に付き合わせちまって」


 そうみんなに詫びる俺だが――


 「むしろもっとこき使ってくださいませっ!」

 「別にっ。しょうがなく付き合ってあげるんだから、勘違いしないでよね」

 「(コクッ)」


 詫びた先の三人は大して気にないよ、といったような(・・・)答えを返してくれる。

 別に返答の内容は最初から気にしないことにしてたんだ。

 例えそれが変な内容であったとしても付き合ってくれると同意を示した時点で、問題ないのね、と分かっていたのである。勿論その時に礼も述べてある。

 まぁ、それでももう一度詫びを入れておくのが『気配りのできる漢ッ』って感じがするだろ? 俺はできる漢なのだ。そういう小さな積み重ねがあって漢ってもんは磨かれるんだと思う。持論だが。

 

さて、そんな俺たちが今いる所だが昨日うわさで聞いた魔物が根城にしているとされる森の前だ。

 昨日酒場をいつもより早めに退散し、うわさの真相を確かめるべくギルドに赴いたのだが、そこで受付のお姉さんに聞いた話は以下の通りだった。


 曰く、最近俺の住む湖近辺の村々で村人同士の喧嘩や騒動が多発している。

 曰く、その原因は一体の魔物ではないか。その魔物の目撃情報が多いため。

 曰く、魔物が人に物理的危害を加えた形跡は見受けられない。

 曰く、その魔物を見たことがある者が言うには一つの森の方へ向かうのを見た。

 曰く、人間の敵意に敏感なため討伐にでてもその姿をみせることが少ない。

 

 以上の情報を得られた。

 ほぼほぼ、酒場で聞いた話と同じであった。

 またどうやら本当にそのような怪事件が多発しているらしいということで、俺ののんびりスローライフの脅威へと少しでもなるかもしれないので、そういった芽は早くに摘み取っておこうと、こうして酒場のうわさとギルドのお姉さんから聞いた話をたよりに例の魔物がいるという森へと討伐せんと赴いたのだ。そしてその魔物がいるとされる森が俺の自宅から遠くはないということも一つの理由であった。

 完璧主義者というわけではないがなるべくそういった脅威にも目を配らせないと後々面倒を被ることもあるかもしれないので、俺の行動は意外と早く実行されることになった。

 そうして討伐に来たわけだが――


 「そういやその魔物ってどう見つけりゃいいんだ……? 来たはいいがその魔物って敵意あるやつの前には姿を現さないんだったよな」


 わざわざ一時間くらいかけて討伐まで来たのに、見つかりませんでした、じゃとんだ無駄足となってしまう。そう思った俺だが、


 「じゃあ、私の精霊魔術で引き寄せてみる?」


 名案ね、といった顔で告げるイリスに、


 「お前もう前のこと忘れたのか? それでとんだ目にあったじゃねえか。俺はもうあんなことごめんだぞ」


 呆れたように首を横に振ってイリスの言葉に難を唱える。

 以前イリスとの約束で出かけた際、イリスの言う精霊術のせいで幻獣とされていたベヒモスと戦闘になるという悲惨な目にあったのだ。

 あわや死んでしまうのではといった原因になった精霊術を忘れるわけがない。

 そうしてイリスの言葉を否定した俺に、


 「ワタクシにお任せくださいっ! シン様にお話を聞いた後に、しっかりとその準備もしてきてありますよ!」


 と、救いの言葉が差し伸べられる。

 クロエの言うことだからちょっと怖いのだが他に案もなかった俺は一応期待の思いも込めて、それはどういったものだ? と問いかける。


 「はいっ! それはですね、イリスさんの精霊魔術から着想を得て作ったんですけれど、この魔道具ですわ!」


 そう言って、ポケットに入れていたものを取り出して俺たちに片手を差し出しながら見せてくれる。

 差し出された手の上にのっていたのは鈴のような形をした魔道具であった。

 見た目は普通のベルと大差なく、鈍色をしたどこにでもあるような球形の鈴といった感じだ。

 しかし、この鈴は一点においてだけ他の一般的な鈴とは違う部分が存在した。

 その部分とは音が鳴らないのだ。

 先ほどからクロエが俺たちに向けてその魔道具を見せてくれているのだが一向に音が聞こえてこない。

 どういうことだろう、そう思った俺は率直にクロエに質問してみた。


 「クロエ、その鈴だけどさっきから音が鳴っていないようだが?」

 「ああ、それはですねっ! 先ほども言いましたけどこれは魔道具でして、魔力を流すと発動する仕組みになっているんですよ! 例えばこんな風に――」


 クロエは俺たちに説明しながら鈴本体の上部についていたひもの上らへんをつまんで軽く鈴を振った。

 鈴を振った次の瞬間――


 『チャリーン、チャリーン』


 まるで銭貨を石造りの地面に落とした時のような音が鳴り響いた。

 仕組みは分からないがさきほどまで静寂を保っていたのが嘘のように意外と大きな音でなっている。

 何回か音が森の中で反響したのち鈴らしくない音は鳴りやんだ。

 ふむ。これで例の魔物は現れるのだろうか?

 あと、そういえば重要なことを一つ聞き忘れていたことに気が付いた。


 「ところでこの鈴型の魔道具ってどんな効果なんだ? まさかイリスのように生物の好戦意欲を刺激するようなものじゃないだろうな?」


 魔道具を使ってしまった後に気づいたのは痛恨のミスだが、過ぎてしまったことはしょうがない、と割り切り魔道具を使用したクロエにまた質問をする。

 一度あることは二度ある、二度あることは三度あるという諺のようにそうはならないことを願いながら神妙な表情でいる俺に向かって、


 「大丈夫ですよ。これはイリスさんの精霊術と根本的な仕組みは同じですが、好戦意欲をもたせずに対象の魔物だけを呼び出すものですから」


 何も心配する必要はないといった表情で告げてくる。

 

 まあ、ここはクロエを素直に信じようと思った俺は、とりあえずクロエの言葉に頷きを返した。


 そうして俺とクロエがやり取りをしていると

 

『ンニャア』


 と、気の抜けるような鳴き声がどこからか聞こえてきた。

 いや、気の抜けた鳴き声か?

 どちらにせよそんなことどうでもよいことだ。

 

 さっきの鳴き声はどこからしたんだ? とキョロキョロと俺を含めた全員が四方に首を振ると――


 ガサッ


 草音を立てながら目の前の茂みから一匹の丸っこい黒色の猫が姿を現した。

 猫? 

 その猫のような見た目をした生物は猫のような耳と尻尾を持ち、愛くるしい瞳でこちらをジッと見つめてくる。

 まるで、私を愛でて? と訴えかけるような眼差しだった。


 こいつがさっきの鳴き声の正体だろうか? そう疑問に思っている間に、


 「キャーッ、カワイイッ!」

 「むっ、抗えない」

 

 ちょっと待ってくださいませっ! 

 慌てて叫んだクロエの制止の声も無視して、その猫の愛くるしさに考える暇もなく膝を屈したイリスとソフィーが駆け寄り、イリスが抱きあげてソフィーも一緒に撫で始めた。

 そんなイリスとソフィーのことをなおも愛くるしい瞳で見つめた丸い黒猫は、


 『ンニャアァ』


 と再度鳴き声を上げた。

 次の瞬間――


 「いつもひどい態度ばかり取るけど、本当はあんな態度とりたくないの」

 「本当はもっとおしゃべりしたい」


 突然自分の口が勝手に動き、紡ぎ出される言葉に、えっ?! と驚く猫を愛でていた二人。

 

 「ちょ、なんで勝手に口がっ――でも、シンと話してるとなんだかいつもの私じゃなっモゴモゴモゴッ――」

 「もっと私とおしゃべりしっムームームーッ――」


 抗おうとしてもひとりでに開きだす口を強制的に両手で押さえることによって止めるイリスとソフィー。

その二人の顔は紅色に染まっていた。


 「あらら、やっぱりこうなっちゃいましたか~」


 まるでこうなることが分かっていたような態度で二人を見つめながらそのように口にするクロエ。

 そうしたクロエの反応にも気づくことができないぐらい、若干涙目になりながらも必死に口に手をあてがう二人は、ついに我慢ができなくなったのか――


 全力で回れ右をして何かを叫びながら走り出した。


 物凄い勢いで走っていったので何を叫んでいたのかは分からないが、おおかた人には言えないような内容だったのだろう。

 それぐらいの必死さを感じる猛ダッシュだった。


 走り去った後には俺とクロエ、そして丸い黒ネコだけが取り残された。


 しょうがないですね~と言いながら徐にアイテム亜空間に手を突っ込む。

 亜空間から手を出したクロエの手に握られていたのは一つの小さい首輪であった。

 走り去った二人に残された黒ネコに、クロエは徐に近づくとしゃがみ込んで黒ネコの首にさきほど亜空間から取り出した首輪を取り付けた。

 特にいやがる素振りを見せることなく首輪を着けられた黒ネコは、クロエに抱き上げられながら、クロエの眼を愛くるしい瞳で見つめて、ンニャアァ、と一鳴きするが、先ほどの二人のようにクロエが急にしゃべり出してしまうなんてことは無かった。


 「猫のように見えるこの子は実は魔物なんですの。精神系の特殊スキルを持っているから二人をお止めしたんですけど……。まんまとかかっちゃいましたわね」

 「この魔物のこと知ってたのか?」

 「えぇ、賢者様のところに引きこもっていた頃に資料を読み漁っていたんですけれど、その時に見た魔物の記述と今回の事件が似ていましたので、もしかしたら、と思ったんですが案の定でしたわね」


 なるほど。

 魔道具を出した時からなにやら割と自信満々だった気がしたのはそういう理由があったからなのか。魔道具もその魔物を知っていたからその魔物を対象に作れた、と。

 だけれど魔道具もその魔物ではなかったら意味がなかったんじゃと思うが、ある程度は俺から得た情報で確証は得ていたのだろう。


 「それでさっき取り付けた首輪はなんだ?」

 「この魔物のスキルの発動を止められる魔道具ですわ。昔、精神系の魔物の能力を封じるために実験的に作ったものだったんですけど上手くいきましたわね。よかったですわ」


 ちなみにクロエが取り付けた首輪だが、黒猫のような魔物の首に這わせた瞬間、自然とサイズが調整されていた。魔法があまり得意でない俺からすると素直にその性能に感心する。


 「さて、それでコイツどうしようか?」


 先ほどからクロエの腕に抱かれている例の魔物を見てクロエに問いかける。

 というかコイツさっきからクロエの小さくない双丘が気持ちいいのか谷間にンニャアッンニャアッと言いながら頭を潜り込ませようとしている。

 コイツ雄か?

 もしそうだったならば今すぐ首根っこ掴んで放り投げたいところだが、無害で可愛らしい動物に優しい俺はそんなことはせずに、ただ淡々と恨めしい表情をしてその猫を見つめるのだった。


 「なんだかワタクシ懐かれてしまっちゃいましたわね。もう無害ですし、家に連れて帰ってもいいでしょうか?」

 

 イリスとソフィーもきっと喜びますよ、そう続けるクロエに、


 「別に構わないが、ちゃんとクロエが面倒みろよ?」


 捨て犬を拾ってくる子供とお母さんが会話するときのような返事をするのだった。

 

 P.S.帰宅し、連れ帰った魔物を見たイリスとソフィーは猛ダッシュで逃げ出した。


お読み下さりありがとうございます。


昨日更新しようとして寝落ちしてました笑 

嘘ついてごめんなさい!


で、今新作が4万字後半。ん~、後3万文字は欲しい。けどいきそうにないような……。

次の次の作品はおっさん系書こうかと。流行ってるし。何よりおっさんネタを書きたい。

プロットの箇条書きはできたので、それをさらに詳細に箇条書きして、それにさらにストーリーを

付けていくだけ。大変ですね。

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