元勇者の優雅な朝
労働の対価として休日も大事だよね、て思うわけですよ。
非定期更新です。
IF
俺の朝は小鳥がさえずり出す頃と時を同じくして始まる。まだ意識がぼんやりとしている起き抜けに小さなあくびし、ベッドの上で両手足に力を入れ、大きく伸びをしてようやく目が覚める。
まだ気怠い身体をなんとか起こし、おもむろに席を立ち、ベッドわきのカーテンを左右に開ける。すると今までカーテンにより遮られていた朝陽が部屋中に一気に射し込んだ。
その陽ざしを余すことなく大の字になって全身でうけとめた俺は、陽の光による反射的なものと夜の寒さにより冷えていた身体が温かくなる気持ちよさで猫が首を撫でられた時のように目を細める。温もりを感じたことで、体の奥からどんどんエネルギーが出てきて、それがみるみると対流していくのを感じる。
(今日はいつもより気持ちのいい朝だな)
ベッドわきに置いていた愛剣を手に取りながらそう思い、これから行う稽古へと気分よく向かったのだった。
予定通り、日課である戦闘の型と剣技の稽古を終えた後、浴室にて、湖から引いてきている水で軽く水浴びをする。
魔石によって水を出すという方法もあるのだが、浴室に関しては結構な量の水を大量に毎日使うため、コスト削減のために、わざわざ湖から水を引いているのだ。
こんなところでいちいちケチケチしているほど金銭面では困ってもいないのだが、これに関しては生来の性質であるためしょうがない。ちなみに引いてきている水はしっかりと浄化はされている。
稽古をしたことで火照っていた身体に夜の間に冷えた水が程よく感じ、とても心地がよかった。
水を被った後は、ふわふわのタオルで全身を拭く。
このふわふわとした優しい感触が肌に触れると少しくすぐったくてまた気持ちがいい。
そして、水浴びを終えたことで汗などの汚れを落とし切った綺麗な体になり、運動したことでいい具合に空いた腹を満たすために朝食を作りにいつも通り自宅のキッチンへと向かうのだった。
朝食は、お気に入りの店のパンを2枚スライスし、その間にベーコンエッグとレタスを挟んだものとここ一年で普及したカーフィーなる飲み物で済ますのがこの十数日間のマイスタンダードだ。
この組み合わせは、言葉で言い表すならば、『ザ・優雅な朝』という感じがして個人的にお気に入りなのだ。別に『ザ』を付ける必要はないのだがなんとなくいつもつけたくなる。 そういうものなのだからしょうがないと割り切っている。別に誰に言い訳するでもないから俺の勝手なのだけど。
(ふっ。優雅な朝だな)
と、心の中でつぶやく。
優雅な朝。
優雅な朝食。
優雅な日常。
『優雅』という自分の嗜好が少し入ったが、総じていえば平和な日常だ。
そう……、それは俺がある時からずっと望んで止まなかったもの。
当然だが、それを望んだことには訳があり、それはここ数年の出来事のせいである。
カーフィーが出来上がるのを待ちながら、少しの間、ここ数年間の異常なほど濃密だった時間を思い出しながら、思考に入る。
俺は初め英雄伝説に憧れて、冒険者をしていた。
時にドラゴンと戦い、時に妖精たちと戯れ、時に国の姫のピンチを救う英雄。そして待つ先には人々の英雄を称える声と憧れの眼差し。
今となってはおとぎ話となっている英雄伝説の物語を聞きながら、かっこよく語られる英雄像を想像して憧れない子供などいないのではないだろうか。
もしそうでない子がいたとしても世の子供たちの大半はその姿に憧憬の念を持つと思う。
子供ながらにカッケー! 自分もそうなりたいっ! と無邪気にそう考えるのは不思議ではない流れだ。
そしてその内の一人が自分だったわけである。
しかし、残念なことに本当の英雄というものは想像していたものとはずいぶん違った。仮に想像通りだったところがあるとすれば、『幾多の死地を乗り越え、少なからず脚光を浴びる』という点だけだろう。その脚光にしたって基本的にむさ苦しい男どものものだったが……。
何が『カッケー』だよっ!
最近王都で働く者たちの間で流行りの言葉を使うなら『ブラック』『社畜』と大差ないじゃないか! こんのクソ野郎っ!! 結局あいつらは都合のいい戦争の駒としてしかみてなかったじゃないか!!!
…………。
ふぅー。
ちょっと興奮しすぎた。
一旦冷静になって、話を戻すことにしよう。
あぁ……、俺の人生の歯車が狂い出したのはいつからだっただろうか。
その時はいつだったか徐に考え出す。
聖剣に選ばれてしまった頃からだろうか。
いいや、もっと早い段階で言うなら、英雄を目指してしまったところからこの定められたような運命は始まっていたのだと思う。まるで誰かに運命を操作されているように。
まあ、それは流石に俺の被害妄想が過ぎると思うが。
でもだ、魔国との戦争で敗戦ムードが濃厚になってきた頃合いで、勇者誕生ッ! ていうこと自体がきな臭さを感じるし、俺がそう思ったとしても別に不思議ではないんだ。
言い訳がましくなってしまったが俺がそう思うのもしょうがないことだと納得してほしい。
また話が脱線してしまったな。
そうそう。聖剣に選ばれた所だったよな。
俺が初めて聖剣に出会ったのは、さきほども言ったが戦争も終盤を迎えそうな頃だった。
戦争後期、王国の旗色が悪くなり始め、敗戦してしまうのではないかという雰囲気が国中に流れ出した頃、国は苦肉の策を採ることにした。
『聖剣』 の解放である。
実はこの聖剣、この国の歴史であり、成り立ちでもある。
絶対不可侵であり、何人にも侵されてはならない。大事なことなので二度言った。
この聖剣に触れることは禁忌であると国により取り決められているほど神聖視されている重要な聖遺物なのである。
さかのぼること数千年前。
神界文明暦の話。
この世界には数々の神がいたとされる。
というのも今は神々がいない俗世、世界暦の時代だからこういう言い方をしているわけだ。
初め、神界暦の頃、神々は神同士また創造物たちと和気あいあいと暮らしていた。
しかし、数万年が過ぎた頃からだろうか。神々の中に飽きを生じ始める者たちがちらほらと現れてきた。
そのうち、新たな享楽を求めて己が知識と能力を利用して文明レベルを脅威的なほどに発展させ、己が創造物達を相争わせ始めた。
それが恐ろしいほどに神たちの『楽』という名の琴線に触れ、それまで座にさし、その様子を楽しく静観していた自分たちまでもが最終的にその争いに参加し、この世は混沌と化していった。
混沌と化した世で突如として現れた一人の英雄がいた。
今の英雄伝説の元となっている人物だ。
その者が握るは一本の輝く剣。
身にまとうは輝く白銀の鎧。
この世を混沌と化すぐらい己が理性を失うほどに享楽に興じていた神々をその一本の剣で次々と屠っていく英雄。
そして、ついに全ての神々をこの世から消滅させる。
この一人の英雄により、神界文明暦は早々に終わりを告げ、今の世である、世界ができたとされている。
世界暦の幕開けであった。
そして、神々の力で生み出された文明は争いにより破壊され、荒れ果ててしまった土地に新たに国を築いたのもこの英雄であった。
この様にして、俺たちの国が生まれたわけである。
また、この国の初代国王であった英雄は再びこの世に混沌が訪れた時に新たな救世主が現れることを願って彼の地に聖剣を封印した。
そういうわけで滅亡の危機に陥った国は古来から伝わる聖剣を一般公開し、その聖剣を彼の地から抜くことのできる者が現れるのを待っていたのである。
その実、もはやそれぐらいしか縋れるものがないほど王国は魔国の侵攻に追い詰められていたというのが真相であった。
そしてその聖剣が公開されていたとこに俺がたまたま通りかかってしまったのである。
そこでは多くの者が次々に我こそは、と、聖剣を抜いて見せることに躍起になっていたが、その悉くが肩を落としその場を後にしていくのを遠巻きに見ていたのを今でも覚えている。
ふと、
(俺もせっかくだし、やってみようかな)
という何の気なしの思いから挑戦してみたら、聖剣を何の抵抗もなしにスポッと抜い
てしまったのがその後の社畜人生の始まりとなる。
それからの展開は早かった。
その日のうちに王国に物理的に拘束され、勇者として戦争に参加するよう打診もとい脅迫された。
王と大臣、重鎮達の鬼気迫る表情と必死な気迫に圧され否が応とも言えず、抵抗すら許されず戦争への俺の参加が決定した。
その次の日には、王都を守護するのに最低限必要な人数だけを残し、他の残存する軍を引き連れ、まずは戦争に慣れるためにまだ比較的小規模な戦地に赴き、戦闘に参加した。
戦争に参加した初めは慣れない聖剣に戸惑いもしたが、元々が冒険者としてブロードソードを使っていたこともあり剣の扱いに関しては慣れていたため、すぐに馴染んだ。
聖剣の扱いに慣れ始め、また魔王軍が王都近隣まで迫りつついた頃、聖剣から急に意思のようなものを感じ、その意思に身をゆだねると聖剣の力なるものが頭に浮かんできた。そして頭に流れてくる型に沿って動き、剣技を振るうと聖剣本来の力というものが解放されたようで、今までとは比べようがないほど圧倒的な力を出すことができた。
聖剣の力を引き出した後からは、今まで苦戦してた敵が嘘であったかのように倒すことができ、破竹の勢いで敵戦力を殲滅していけた。
その最中に仲間が一人加わるという出来事もあったが、勇者になって1年後、魔国首都を陥落させ、遂に魔王を討ち果たすことに成功したのである。
と……自分で過去を振り返ってみてあれだが、流石に働きすぎだと思うのだ。
ダイジェスト版みたいに振り返ったわけだが、実際の日々は戦闘戦闘戦闘である。
元々、「英雄になりたいなぁ」ぐらいの感覚で、のんびり冒険者業をしていたのに、勇者になってからは異常に濃密すぎる日々を過ごしている。
確かに冒険者になったきっかけである英雄になるという夢はある意味叶ったかもしれないが実際は祖国による強制労働にも近いブラックな日々だったわけである。
まあ、そういうわけで俺は疲れたのだ。
聖剣を使った反動もあるし、戦争でキズも負った。
少し休んでも誰にも文句を言われる筋合いはないと思う。
俺頑張ったもん。
ある意味祖国の英雄だもん。
とにかく、自分の時間を確保し、のんびり生活して癒されたい。
そう思った俺は、王国にそう打診すると、計らいで俺の希望通りに王都近辺にある湖畔にそこそこ豪華な自宅を建ててくれたのだ。
そして俺はその家でスローライフを送ることに決めたのだ。
ちなみにこの家、高級家具付きであり、王都の上流階層で流行している最新設備も兼ね備えている。
このようにして俺のスローライフな日々が幕を開けたのだった。
読んでくださりありがとうございました。
基本的に話の内容は王道をこよなく愛す筆者のため全てテンプレのようなものです。
文章が変なとこが沢山あったらごめんなさい。
あまりにも破綻している部分などがあり、そのようなご指摘があれば修正したいと思います。
短いですが一応筆者の紹介欄も読んでいただければ嬉しいです。
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