3話〜今の気持ち〜
今、隣に座っているこいつは誰なんだろうとついつい思ってしまっていた・・・というかパートナー変えてくれ!
「なぁなぁエイジ、僕、騎士になったのはいいけど何すんだっけ?」
「訓練生の時、俺が直々に言っただろ街の警備や魔獣との戦闘だって。まぁ俺は新人と組んでるから警備だけだろうがな」
隣でなるほどと声が聞こえてきた。でも彼の話が止まる事はなかった。
「じゃあ僕と組む前はどんな仕事してたんですか?」
「それは教官業の前ってことか?」
さっきの会話でも分かっているかもしれないが俺はティオと組む前は教官課程という義務を果たそうとしていた。
そして、 俺は彼が頷くのを見てまた話を始めた。
「前は、最前線で戦ってたよ。魔獣なんていくつ倒したかわからないくらいにな」
少しふざけた口調で話した。
俺は騎士団に入ってからも一度もパートナーを組むことがなかった。
なぜならそれは俺の履歴書に問題があったからだった。
その問題が、名前以外全て空欄である為。
これはただ書かなかったのではなく、全く何も知らないのだ。
そんな謎の多い騎士とパートナーになるのはとても難しい事だった。
そのことを自分でも納得をしていた為、精神的にダメージを負う事は無かった。
どんなに騎士団長が俺に聞いてきても俺は絶対に口を開かなかった。
それが正しいと信じて・・・。
だが実際に初めてパートナーを組んで思った事がある。
それは、ソロの方が良くないか?というその一点だけ。
「それで、こんな事知ってどうすんだ?」
「それはパートナーとして知っていないとダメだと思ったからです!」
まぁそんなものか。
予想通りの返しに俺は溜息をつく。
「こんなところでおしゃべりはやめて仕事するぞ」と根気強く言った。
しかしこいつは仕事もまだ理解していない様子だった。
「えーっと、結局何するんだったっけ?」
深々とまた溜息を一回。
「街を警備するんだろうが!」
少しの間座っていたベンチから腰を上げ二人で歩き始めた。
街はいつ見ても綺麗に整っている。
今日も優秀だなぁ国民の皆々様は。
「安いよ!安いよ!今朝取れたばかりの野菜だ!うちで扱うんだから味は保証するよぉ!」
出店の連なるこの街は少しうるさいと思えるほど、活気だっている。
だんだんととても良い匂いが漂ってくる。
これは・・・肉か?
匂いと連動するように俺の小腹も空腹を訴え、俺らは立ち止まる。
「少しお腹も減ったし、何かここら辺で食べていかない・・・か?」
誘おうとした俺が言うのもなんだが、ティオはヨダレを垂らし、出来上がっていた。
これは俺もつられたな。
ヨダレのことをティオに指摘し、ハンカチを渡すと、ティオは我に返ったように口元を急いで拭いた。
「み、見ました?」
「ん?見ましたも何も指摘したんだから見てるに決まってるだろ」
ティオは少しの無言の後再び歩き始め、俺はそれについていく。
「それで?食べるのか?食べないのか?」
「た、食べます!食べますとも!」
少し頬を赤らめながら大声で訴えてくる。
「分かった、分かったから。そんな大声出すなって」
「どうだい?そこの騎士さん達。うちの串焼き肉、食べていかないか?」
いつの間にか問題の匂いの元までたどり着いていた。
「勿論食べますよ。おじさん。三本下さい!」
「え?なんか一本多くねぇか?」
この問いには満面の笑みで「僕が二本食べますから」と嬉しそうにティオが答える。
「勿論エイジのおごりですよね!僕まだ騎士団入ったばっかりでお金ないし」
や、やられた。
まんまと乗せられた・・・いや俺から誘ったからただ自爆しただけか。
俺は財布からお金を取り出し食事代を店の店主に払った。
「まいど!」
串焼き肉を両手に持ったティオはご満悦の様子。
まるで子供だな。
そう思いながら細長く厚切りにした肉にまた上から薄い肉を巻いた肉てんこ盛りな串焼きを口に運ぶ。
美味いな。
つーっと肉汁が串をつたい、手に付く。
「ほら、歩きながら食うぞ」
「何か他にも食べるの?」
「んなわけあるか。そもそも俺がお前に奢る理由は一つも無かったんだよ」
キレ気味に言ったつもりだったのにティオはいつも通りニコニコして俺の顔を覗き込む。
「なんだよ」
「何でもなぁーい」
相変わらずティオの適当さには力が抜ける。
そういえば俺、こいつのことまるで知らないな。
家族のことも、趣味でさえも。
「お前はどこ出身なんだ?」
「急にどうしたの?」
「そういえば聞いた事なかったと思ってな」
出身地を聞いたのは、これさえ分かれば地位や家柄などが分かるため、これからこいつをどう扱うべきかも分かるはずだからだった。
「ふぅ〜ん。そっか。それなら答えるよ。僕はシャルテ街の端にある孤児院出身なんだぁ〜」
「孤児院だと?お前、孤児だったのか」
「うん、僕は生まれた時から両親に捨てられて孤児院にお世話になってたんだよ。もうちょっと大きくなったらまたお礼言いに行こうかな。ってそういうエイジはどこ出身なのさ。僕だけじゃ割に合わないよ」
「お前ほど劇的なものじゃないし面白く無いぞ?」
「良いんだよ。僕はエイジのことだったらなんでも興味あるよ?例えば好きな人とか」
「いねぇよそんな人!」
本当に面白く無いんだけどなぁ。
でも俺も聞いちゃったし、言うしか無いか。
「分からないんだよ。出身地」
「え?どうゆう事?ここで冗談?僕はちゃんと言ったんだがらちゃんと答えてよ」
「それが冗談でもハッタリでもない。本当の事なんだよ。俺は気づいたらそこに立っていた。まるで突然現れたみたいにな。こんな事のせいで詳しい年齢も分からないし、何処から来たのかも分からなくて途方に暮れていたところを今の団長に拾われたんだ。な?面白く無かったろ?」
突然ティオが黙りだした。
「ど、どうした?」
「......しろい...」
「え?もう一回言ってくれ」
「その話、面白いじゃ無いですか!なんで今まで話してくれなかったんですか!」
いやいや話す機会とか全く無かったから!
詳しく話すなら記憶かけらすら抜け落ちていて、覚えていたのは自身の名前くらい。
そして唯一持っていたのは包帯に巻かれた黒い剣くらいだ。
でもそれを言っても仕方のない事だろうし、今は伏せておこう。
「もうやめだ。やめだ。この話はこん後一切禁止だ!」
「えー。もうちょっと詳しく聞きたいんだけどなぁ」
「ええい!仕事するぞ仕事!」
いつの間にか串焼き肉を食べ終えているティオに驚きつつも俺は前を向いて肉を頬張り歩みを進めた。
この時の俺は大切なものが何かまだ知らなかった。
こんにちは深沼バルキです。
最近思うように書かなくなってきた?感じがしてきました(思いつきが少なくなってきた)。
でも支障は無いと思うので心配ご無用です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。