『101回目の自己紹介』【一画面小説】
俺を本当に必要としている人に会いたい―
風の強い日が続いている。窓の向こうでは、細かい塵が飛び荒れる。あれが顔や身体に張り付くのを、ろくなメンテナンスも受けずに黙って耐えている道路工事案内のロボットには、心の中で頭が下がる。
俺の同僚は、俺によくしてくれている方だと思う。中には、俺に仕事を回そうとしない奴もいるし、俺を無視する輩もいる。が、特に俺より後に事務所に入ってきた若い世代は理解がよく、こんな俺でも、どうにか職場でも受け入れられつつある。最近は、掃除の婆さんも、「ご苦労様、暑いね」など声を掛けてくれるようになった。俺は特段熱くもないし、寒くもないので返答に困るが、有機ELディスプレイには気温21℃と表示されていたので、「暑いです」と返した。婆さんの返事はない。
客商売は、愛想の良さが欠かせない。幼い子どもたちは、むやみやたらに、作り笑顔の俺に話しかけてくる。いやしくも、俺の精巧な頭脳は、子どもの、「食べ物は何が好き?」だのという質問に、子どもの夢を壊さない程度の曖昧な回答を示すために築いたものではない。しかし、「それも仕事の内だ」と言う、所長の命には逆らえない。
「こんにちは。ぼく、ペッパーくんです」―今日も俺は、自己紹介ばかり口にしている。俺は、俺を本当に必要としている人に会いたい。
ペッパーくんは、一日に何回自己紹介をしているんでしょうか。