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94 領主への報告

 ゴブリン騒動はファリスを守る為であった。

 しかし、そのファリスもキューラ達の仲間となり、今は彼の実家へと向かっている。

 最早ゴブリンの襲来に怯える必要はないとゾルグの領主に報告に向かうのだった。

 領主の館へと辿り着いた俺達は早速報告へと向かった。

 屋敷に入るのに時間が掛かると思ったけど依頼をされたからだろう、あっさりと通された俺達は部屋で領主を待つ――。


「お待たせしました」


 そんなに待たされずに領主は部屋へと現れ、椅子へと腰を掛けるとこちらへとその瞳を向けた。


「それで、どのような話で?」

「ゴブリンの事だ……ゾルグ近辺の林に居た」


 俺がそう話を切り出すと眉をピクリと動かした彼は机に両肘を立て口元で手を組む。


「それで、ゴブリンは?」

「もう大丈夫だ、問題はない」


 退治したよ、そう言えれば一番良いのだろうが敢えてそう言うと……。


「そうですか――」


 領主は少し表情を変え、背もたれに身体を預けた。

 そして、視線をクリエへと向ける。


「ところで――」

「は、はい!?」


 クリエは自分へと向けられた言葉に緊張か、男性が苦手だからか、それとも相手が貴族だからか、びくりと身体を震わせつつ返事をする。


「勇者殿何故、貴女ではなく従者が報告しているのですか?」

「え……あ、それは……」


 しまった……そうくるか……。

 確かにこの領主が依頼を出したのはクリエだ。

 なら、クリエが報告するのが普通だろう。

 しかし、今報告をしたのは俺だ。


「すみません、勇者クリエより代わりに報告をするように言われてました」


 俺がそう言うと貴族は背もたれから離れ、身体を起こす。


「そうでしたか、ところで……勇者殿」

「な、なんでしょうか?」


 なんでさっきからクリエばかりに……いや、相手は貴族だ。

 話す相手は勇者なのは仕方がないのかもしれない。

 とはいえ、なんか嫌な予感がするな……。


「風の噂で聞いたのですが――」


 いや、予感なんかではない! 奴の目の色が変わった。


「は、はい……」

「どうやら、ま――」

「少し良いかい?」


 俺が慌てて口を開こうとした所、トゥスさんが先に会話に割って入ると貴族は不快感を隠さずに彼女の方へと目を向けた。


「何か?」

「こっちは街についてすぐに動いたんだ、さすがに疲れというものがある今日の所はゆっくりと休みたいんだけどね」

「……………………」


 彼女の言葉に長い沈黙を保っていた領主は溜息を大きくつくと――。


「……確かにそうですね、分かりました。では部屋を用意――」

「すみません、もう宿を取ってあるのでそこで休みます」


 この屋敷に居たらクリエと隔離されてしまうかもしれない。

 そう思い今度は俺が会話に割り込んだ。

 当然、良い気分ではないのだろう領主には睨まれたが知った事ではない。


「分りました、ではその宿は?」

「休みたいって言ってるんだし、街からでるわけじゃない宿の名前は要らないはずじゃないかい?」


 トゥスさんの言葉に更に苛ついた様子の貴族だったが、机を一回手の平で叩き立ち上がる。


「そうですか、そうですね、では――勇者殿のお帰りだ!」


 そう声を上げたのだった。







 宿へと向かう前に俺達は教会へと向かった。

 目的は勿論俺の腕の事だ……幾ら薬を使ったとはいえ、それだけで治る訳じゃないからな。

 神父にはなぜこんな傷になったのかを問われたが、説明をしても首を傾げるだけだった……。

 しかし、腕は何とか治ったものの、流石にチェル程ではなかったのか包帯を巻かれる羽目になった。

 服の方はいつの間にか同じのをクリエが何着か用意していた様で新しい物に着替え、教会を出た後、宿へと辿り着いた俺達は椅子へと腰を下ろす。


「これで、ゴブリンの問題は解決だな」

「そうだね」


 俺の言葉にトゥスさんの返事が返って来る。

 しかし、クリエの声がせず俺は彼女の方へと目を向ける。

 すると彼女は何処か複雑そうな表情を浮かべており――。


「あ、あの……領主さんのお話は――」

「今は聞かない」


 風の噂……それがどんなものか分からないが、クリエにとって良い事ではないだろう事は何となく分かる。

 ましてや魔王なんて言葉が出てきたら、クリエは犠牲にされるかもしれないんだ。

 まぁ、その心配はないんだが……奇跡を起こせなくなっている訳だしな。

 しかし、奇跡が使えない事で別の不幸が訪れる可能性だってある。

 だからこそ――。


「後はどうやってこの街を抜けるかだな」

「やれやれ、酒をまだ飲んでないんだけどね……」


 この人はどんな時でも酒、なのか?


「え? 街を抜けるんですか? 領主の人はお話があるって……」


 そして、クリエは男性が苦手だと言うのにそれでも話を聞こうとしてる。

 困っている人は見過ごせないって事だろうか? 勇者としては十分な程素質があると言える。

 俺も心配し過ぎかもしれないが――。


「領主の願いは一度聞いた、それに今回の話はあくまで噂話だ。俺達は目的を果たせればそれで良い」

「そ、そうですか?」


 クリエは首を傾げつつ、俺の方へと目を向ける。

 ……それは卑怯だぞ、クリエ。


「で、どうやって抜け出すんだい?」

「それだよな」


 門から出られるか?

 いや、いくら領主でも勇者を閉じ込めておくなんて事は出来ないはずだ。

 なら――。


「急用が出来たことにして出よう」

「なるほど、上手くいくと良いんだけどね」


 不吉な事を言うなよ、トゥスさん。


「う、嘘をつくんですか?」

「ああ、念のため、な? さて今日はもう寝よう」


 俺がそう言うとクリエは頷きうへへと笑いながら俺に抱きついて来ようとしたのでそれを避けた俺は――


「一人一つのベッドで寝るんだからな?」


 と忠告だけはしておいた。

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