93 ゾルグへ……
魔王の配下クリュエルはどうやら、自身が捨てられたことに気が付いていた様だ。
最早敵意が無い彼女に呪いを解くようにキューラは頼むが、それは無理だという……また、幼き少女は自分がしたことに対し謝罪をするが……罪は罪。
それを知りつつもキューラは生まれ故郷を守る様にクリュエル……いや、ファリスへと頼むのだった。
ゾルグが見えてくるところまで来た所で俺はファリスへと声をかけた。
「街で冒険者を雇ってファリスを俺の故郷まで送ってもらおう」
「そうですね、それが良いと思います」
クリエはこれに賛成してくれた。
いくら強いと言っても見た目は子供……実際、成人している訳ではないだろう。
エルフだって20歳ぐらいまでは他の種族と同様に成長をするんだからな。
何かあったら大変だ。
そう思ったのだが……。
「ひとりで行ける……」
「い、いや一人で行けるって言われてもな、冒険者が居た方が安全だろ?」
俺が否定をすると首をぶんぶんと横に振るファリス。
そんな彼女の様子を見て溜息をついたのはトゥスさんだ。
「おチビが一人で良いって言ってるんだから一人で良いんじゃないかい?」
「で、でも、いくらなんでもこんなに小さい子を――」
「私は強いから大丈夫」
うーん……そう言われてもな。
確かに強いし大丈夫なのかもしれない。
俺が困っているのを見るとファリスは申し訳なさそうな顔をし――。
「正直足手まとい」
またきっぱり言ったなこの幼女……というか調子戻って来たのか?
「足手まといって……」
苦笑いを浮かべたクリエに視線を向けたファリスは頷き、それに続くようにトゥスさんは俺に話しかけてきた。
「元々魔王に呪いを授けられるほど強いんだろ? なら、おチビの言ってる通り邪魔になるかもしれないね」
「エルフ……おチビじゃない、私はファリス!」
「チビをチビといって何が悪いんだい?」
そして、どうやらやはりこの二人は相性が悪いみたいだ。
まぁ、元々魔王軍な訳だし、仕方がないのだが……。
「え、えっと……分かったファリスには一人で行ってもらう、けど危なくなったら逃げろ、良いな?」
俺がファリスへとそう告げると彼女は何度も頷き、クリードのある方向へと駆けて行く――。
途中振り返った少女は笑みを浮かべ手を振って来たので俺達もそれに答えた。
「大丈夫、でしょうか?」
クリエのその言葉には色々な意味が含まれているのだろう……それを考えるとキリが無い。
そう口にしたいが、それでは不安にさせるだけだ。
「後で鳥を出しておく……大丈夫だよ」
だから俺はそう答えた。
「はい! そうですよね、可愛らしい女の子でしたし後10年後が楽しみですうへへへへ……」
そして、揺るがないなクリエは……。
そんな事を考えながら彼女を見ていると表情を瞬時に変えた勇者様は俺の目を捕らえた。
「大丈夫です、キューラちゃんが一番ですから」
「な、何を言ってるんだ」
びっくりするほど正直に告げられた言葉に俺は思わずたじろぐと横で震えるエルフの姿が目に入る。
トゥスさん、笑ってないで止めてくれ……。
「と、とにかく街に行くぞ街に!」
俺はファリスが小さくなったところで慌ててそう言うと身を翻した。
街へと戻った俺達は報告をどうしたものかと考える。
ゴブリンがあそこにいた理由は間違いなくファリス……いや、クリュエルが居たからだろう。
どういう訳か分からないものの、ゴブリン達はクリュエルを守ろうとしていた。
なら、報告は……。
「魔王の配下が居て、それを退治したって言えればなぁ……」
俺は誰にも聞こえないような声で呟いた。
恐らくだが、この街にはまだ魔王が居るという事は伝わっていない。
それも時間の問題だろうが、下手に広めてクリエが被害に遭うということは避けたい。
とは言っても俺達がやることは一切変わらないんだが……あの領主には言いたくない。
「あの人なら言っても良いと思いますよ?」
そして、クリエ本人は気が付かなかったのだろう、首を傾げつつそんな事を口にした。
「駄目だ、あいつは信用できない」
「へぇ……王様は簡単に信じたのかい?」
いや、クリード王とは明らかに人が違うだろ……。
それに、変だと思うと気になることは他にもある。
あの人は名前を名乗っていない。
俺達はあの人が領主である事は知っていても、名前は知らないのだ。
依頼をするなら普通名乗ってもよさそうなもんだが……。
「とにかく、林にゴブリンは居た。だけどもう大丈夫だと言おう」
守るべき存在であるクリュエルはもういないんだ。
ゴブリン達も必要以上に警戒はしないだろう……俺はそう思い二人に告げる。
「分りました」
笑みを浮かべ答えるクリエを見て俺は出来れば魔王を退治するまで噂が広がないでほしいと願う。
そうすれば、奇跡を使え何て言われないだろう。
「キューラちゃん?」
「どうしたんだい、クリエお嬢ちゃんをじっと見て」
俺はいつの間にかクリエを見つめていたらしい、慌てて目を逸らした俺は領主の館の方へと視線を向け――。
「なんでもない、行こう」
「別にその可愛い顔でもっと見つめてて良かったんですよ? うへへへへへ」
うん、クリエはいつも通りだな。




